パーシバルの誕生日パーティ!
サリンジャーさんに夏休み中に発明した物を見せて、ゲイツ様と一緒に「世界征服したいのですか!」と呆れられた。
「まさか! そんな面倒臭い事は御免だ!」
王宮魔法師のゲイツ様が好戦的でなくて、世界平和は守られたよ。サリンジャーさんが私を見ている。
「私は平和に暮らしたいですわ」
サリンジャーさん、それを私に確認する必要があるのかしら?
「パーシバル様は? これがどれ程の軍事力を持つか理解されていますよね」
パーシバルが真剣な顔で頷く。
「私も他国から攻められない限り、戦争は避けたいと考えています」
ああ、そうか! ローレンス王国は大陸にあるから、周りに他国があるんだ。いや、地理で知っていたし、歴史で習ったけど、身に染みていなかった。
「まぁ、万が一、竜が飛来してきたら、かなりの防衛力アップになりそうな盾です」
竜かぁ! それは来て欲しくないけどね。
「ゲイツ様は、竜を討伐された事があるのですね?」
さっきミスリルを竜の討伐の時に得たと言っていたよね。
「ええ、祖父は非常識の塊でしたから。それに、あの頃はバルト王国も部族が固まった感じでしたから、こっそりと竜の谷に行くのも楽でした。ミスリルは、竜の魔力でできるのです」
「えっ、それでは竜の谷で発掘とかしたら良いのではないでしょうか?」
かなり貴重な金属だよね。私も欲しいぐらいだよ。錬金術で色々と使い道が多そうな金属だもの。
「そう思われるでしょう。でも、何故か竜の谷にミスリル鉱はないのです。あれは、竜のブレスで金属が変化したのかもしれませんね」
それ、凄く興味がある!
「では、金属を竜の谷に配置したら、ミスリルに変化するのでしょうか?」
ゲイツ様がけらけら笑う。
「あの時は、竜を討伐するのに必死でしたから、そんな事を考えつきませんでした。そうですね、今なら少しは余裕があるから、金属を持ち込んでみても良いですね」
それって、本当に子どもの頃だったの?
「お幾つぐらいでしたの?」
「さぁ、はっきりとは覚えていませんが、王立学園に入学する前でしたね」
「酷い! 本当に子どもじゃないですか!」
先代の王宮魔法師様って、酷すぎる。
「ははは、祖父が一緒でしたから、いざとなったら竜を倒してくれると思っていました。だから、ペイシェンス様も私がいるのだから、安心して竜を討伐したら良いのです」
それって、私が竜の討伐に行くのが前提だよね。
「ペイシェンス! 竜の討伐に行くなら、私が君を護る!」
パーシバルの言葉が嬉しい。
「パーシー様!」と二人で抱き合う。
でも、サリンジャーさんは、そんなの無視して話を進める。
「竜の討伐には有効でしょうが、これらを広めない方が良いと思います。特に、反射する守護魔法とか、他国からしたら脅威でしかありません。それに、空を飛ぶスケボー? 他国を攻めるには有効ですし、輸送革命がおきます」
輸送革命は、ゲイツ様のお祖父様の置き土産だよね。
「これは、すべてエクセルシウス・ファブリカ案件だな。一気に広めるのは問題が起こりそうだから、少しずつ小出しにしていこう」
それに、魔石がいるからね。全てを浮かぶ板では解決できない。
「ああ、クズ魔石を纏める方法が、より重要になりますね!」
そうだね! でも、それより太陽光蓄魔器の方が良いと思う。
「ペイシェンス、ゆっくりと進めていきましょう」
ゲイツ様はアクセル、サリンジャーさんとパーシバルはブレーキ役だね。
「ええ、それに明日は、パーシバル様の誕生日パーティですもの!」
後は、ゲイツ様とサリンジャーさんに任せよう。なんて考えたけど、この日は夜遅くまで、どれをいつ発表していくのか話し合うことになった。
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今日は、パーシバルの誕生日パーティ! 雲ひとつない快晴とは言えないけど、天気は良い。
それに、今回はパーシバルが喜ぶような誕生日パーティを考えていたんだ。
私的には不本意だけど、馬の王で遠乗りして、ピクニックに行く事にしたんだよ!
魔物が彷徨く世界でピクニック! 実は凄く贅沢なんだよね。
予め、ピクニック会場の魔物は討伐して貰っているし、警護も必要なんだ。これは、ローラン卿が領兵の訓練になると笑って引き受けてくれた。
前に海水浴はしたから、別の場所にと思ったんだけど、あの海の家が素敵過ぎたから、またそこでする。
でも、馬の王との遠乗りもありなんだ。
馬の王には、パーシバルと私が乗る。参加するメンバーは、全員、乗馬といきたいけど、クラリッサはまだ遠乗りは無理なんだよね。
ルーシーとアイラは、そこそこ乗馬もできるけど、クラリッサと一緒に馬車でピクニック会場まで来るそうだ。
あと、大人組の父親とラドリー様とサリンジャーさんも馬車で食事だけ参加だね。
何故か、ゲイツ様は遠乗りから参加なんだ。何も途中で食べたりしないのにさ。
「気持ちの良い天気ですね!」
快晴ではないけど、丁度いい具合の天気。夏休みがもっと続いたら良いのにね。
「パーシー様、秋学期はロマノ大学の受験もあるけど、デートして下さいね」
学生会長は、中等科二年生に交代する。そう言えば、誰なのかしら?
「ええ、少しは時間が取れると思います。ラッセル君が引き受けてくれてホッとしました。フィリップス君は、歴史研究クラブを抜けるわけにいかないと断固拒否されましたからね」
クラスメイトの顔を思い浮かべ、乗馬クラブの部長だけどラッセルが一番向いていると思った。
「アンドリュー様とかは困りますからね」
パーシバルも苦笑する。
「ルーシー様はどうされるのかしら? 普通は、三年の秋学期は新部長になる筈ですけど?」
パーシバルは関わりたくないみたい。
「魔法クラブの部長は、魔法クラブで決めるでしょう。きっとアイラ様がなると思いますよ。アンドリューが飛べるとは思えないので」
それにしても馬の王は、海岸を走るのが好きだ。北部生まれなのに暑くないのかな?
かなり馬の王も満足するほど走ったので、海の家のピクニック会場に向かう。
「パーシバル様、お誕生日おめでとう!」
各自がプレゼントを用意できないので、参加者全員で何か用意したみたい。
「ありがとうございます」
パーシバルは、大きな包みを受け取って、開ける。
「ああ、これは嬉しいです!」
新しい鞍だった。きっとサリエス卿が王都で買ったのだろう。寂れたハープシャーでは買えない高級な革でできている。
「さぁ、誕生日パーティを始めましょう」
ほとんどバーベキューと同じだけど、テーブルには摘まめるオードブルがいっぱいある。
それと、スイカをくり抜いたフルーツポンチも夏らしくて良いよね。大人用には、少しアルコールも入っている。子ども用は、ジュースにフルーツが浮かんでいるよ。
それに、バースデーケーキがなくてはね!
大きなメロンケーキ! パーシバルの誕生日だから、十六本の蝋燭が立ててある。
「願い事をして、蝋燭の火を吹き消して下さい」
パーシバルは、真剣な顔で何を願ったのかな? 私なら『竜が来ませんように!』だね。
一息で吹き消した。パチパチパチ! 皆で拍手して、バースデーケーキを切り分けて貰って食べた。
「夕方には、グレンジャー館でディナーを食べましょう」
本当は二人っきりでディナーに行きたかったけど、皆も一緒だよ。
夕日がプールをオレンジ色に染め、ディナーが終わった頃には、木々につけた電飾と丸い魔導灯がロマンチックだった。
「来年は、二人で来たいですわ」
パーシバルも同じ気持ちなのか、ぎゅっとハグしてくれた。
これで、私達の夏休みは終わりだね。




