全員殺して、証拠隠滅したい……ゲイツ視点
ペイシェンス様と海岸でバーベキューをしていたのに、胸糞の悪いモンタギュー司教のせいで、中断された。
ラドリーがマッドクラブを全て食べ尽くすのではないか? 一応は、ペイシェンス様に残しておくようにと頼んだが、あいつは食い意地が張っているからな。
それに騎士達、少しは遠慮しろ。食べ過ぎだろう! まぁ、またマッドクラブを討伐したら良いだけだが、海岸でのバーベキューは楽しかったなぁ。
これだけでも、モンタギュー司教は万死に値する。
本当にぶっ殺してやりたいが、無能な彼奴の代わりに有能な司教が派遣されたら面倒だから、これまで我慢してきたのだ。
カザリア帝国の地下遺跡が発見されてから、いつかは図々しいエステナ聖皇国が権利を主張するのではないかと案じていたが、いきなり現地で蓄魔器を掘り返して持って帰るとは考えていなかった。
普通は、国王陛下に権利を主張したり、段階を踏むのだが、あの馬鹿には常識は通用しないようだ。
ノースコート伯爵も、王都に報告しているだろう。今、国王陛下が頭を痛めて対応策を練っている頃か?
やはり、マーガレット王女と聖皇の甥であるパリス王子との縁談はやめた方が良いのではないか? それと、聖皇の姪とキース王子の縁談も無しにした方が良いかも? などと考えているうちにノースコートに着いた。
苛々は最高潮だ! そもそも、モンタギュー司教の顔など見たくない。
蟇蛙に変えてしまいたい。だが、それは蟇蛙に失礼な話かもしれないな。
「ゲイツ様! 来てくださったのですね! 感謝いたします」
ノースコート伯爵の熱烈歓迎だ。奥方は、ペイシェンス様の伯母上にあたるから、丁重に挨拶しておこう。
「ノースコート伯爵夫人、いつもお美しいですね」
横で、ノースコート伯爵が、そんな社交辞令など言っている場合でないと、苛々している。
「モンタギュー司教とそのお供は、すぐに王都に帰って頂きますから、ご心配なさらないでも良いですよ」
モンタギュー司教とお供の司祭達。本当に全員殺して、証拠を隠滅したら、いけるのでは無いかとまで考えてしまった。
ノースコート伯爵達は口を閉じているだろうが、王都に残っている教会関係者や使用人達もいる。全員、ぶっ殺しても良いのだが、流石にそれは国王陛下に叱られるだろう。
それに、ペイシェンス様は、私を恐れて距離をおこうとされるかも? それは、困る!
このお陰で、命拾いしたとも知らず、モンタギュー司教はにやにやと笑っている。
「これは、これは! 王宮魔法師のゲイツ様がこんな田舎にいらしていたとは? 王都からでは、まだ到着しませんよね。もしかして、ご執着の令嬢の……」
こいつの口からペイシェンス様の名前が出るのは許せない! 口を閉じさせておこう!
「モンタギュー司教様!」
お供の司祭達が大騒ぎする。
「煩い!」ついでに口を閉じさせる。
鼻の穴まで閉じていないのだから、私も優しいものだ。
「モンタギュー司教! カザリア帝国の遺跡は、ローレンス王国の領土にあり、何も国王陛下の許可なく持ち去るなどできません。これを犯す気なら、エステナ聖皇国は、ローレンス王国に宣戦布告をしたと判断いたします。それでも宜しいのですか?」
返事をして欲しいから、口を開けさせる。お供は、このままで良いだろう。坊主は煩いからな!
「ぜぃぜぃ、何をしたのだ!」
私の気に入る返事ではない。少しお仕置きが必要かも?
「禿げろ!」
ああ、ペイシェンス様と付き合って、優雅な詠唱をするのが下手になってしまった。
モンタギュー司教は、髪の毛が薄い。禿げても、そんなに見た目は変わらないと思うのだが、肩に落ちた髪の毛を見て絶叫している。
「私の愛しい髪が! 何をするのだ! この腐れエルフめ!」
おぃおぃ、エステナ神は、そのエルフだったと聖書にも書いてあるのだが? まぁ、私が先祖返りなのは、エステナ神とは関係ないとは思うが、前任者はかなり配慮していた。気持ち悪い猫撫で声で、ゾッとしたが。
「また口を閉じさせても良いのですよ。兎に角、これは国際法違反です。おそらく貴方の独断での行動でしょうが、聖皇国には、こちらから厳重に抗議させて頂きます」
顔色が真っ青になった。モンタギュー司教は、スキャンダルが絶えず、それをエステナ聖皇国も苦々しく思っているのだろう。
それで、クビになりそうになっているのを察して、大きな功績をあげようと独断で動いた! そんなところだと思う。
ノースコート伯爵も、エステナ聖皇国が横車を押しているのではなく、モンタギュー司教の独断だとわかって、ホッとしている。
そんな最中、サリンジャーがやってきた。何故、彼なのだ? 外務省とか、官僚とか、他にもいっぱいいるだろう。
「モンタギュー司教、国王陛下からの通達です。今すぐ、王宮に来て、この件の弁明が聞きたいとの事です」
つまり、サッサとノースコートから立ち去れ! って事だ。
サリンジャーも、一緒に王都に戻ってくれると思っていたのに、モンタギュー司教一行を、ノースコート館の前で見送っている。
「お前が何故来たのだ?」
そう、これは魔法省の仕事ではない。どちらかと言うと、外務省だろう?
「ははは、ゲイツ様がモンタギュー司教を蟇蛙に変えないように見張れと国王陛下に言われたのです」
ふぅむ、流石、国王陛下だ。立場上、お友だちとは言えないが、私の事を理解されている。
「それなら、用事は済んだ筈だ。王都に戻ったら良いのでは?」
ああ、サリンジャーの笑顔が怖いぞ。
「私も夏休みを取る事にしたのです。それに、魔法省は魔法大臣に留守番を頼んできましたから」
えっ、あのボンクラに? 拙いんじゃないか? あいつは元々私の副官だったのだが、サリンジャーの方が使えるので追い出して、代わりに大臣に据えたのだ。
「では、私は用事が済んだので、ハープシャーで魔法合宿を続ける事にする」
サリンジャーがどこで夏休みを過ごそうと勝手だ。
立ち去ろうとしたが、サリンジャーが付いてくる。
「私は、早馬を使ったので、ゲイツ様の馬車に乗せて頂きます」
ゲーッ! こいつがハープシャー館に? あれこれ拙い物があるのだが……。まぁ、隠蔽の魔法陣を考えて貰おう。
ペイシェンス様は優しいから、サリンジャーを追い出す事は無いだろう。




