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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第七章 中等科二年の夏休み

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ゲイツ様と二人で

 夏休み、まだ残っているけど、王都にはもう少ししたら帰る予定だ。

 だって、他所の家の娘さんを預かっているし、夏休みギリギリだと王都への道が混むんだよ。


 去年、サティスフォードからの道、途中で馬車渋滞に捕まったからね。ノロノロ進むと、トイレに困るんだよ。


 トイレ休憩の宿屋とかも混んでいるしね。

 だから、夏休みの終い前には王都に戻る予定! これは、初めから決まっていた。


 ラドリー様とライトマン教授のお陰で、騎士の家、管理人助手の家、それと結婚した使用人の家がハープシャー館の敷地内に建てられた。


 ハープシャー館に似たデザインで統一されていて、良い雰囲気だ。

 それにハープシャーのボロの宿屋の改修工事も終わったよ。


「ハープシャーの町は、館と同じく白壁と灰青色のスレートで統一した方が良さそうです。他の借家も同じ材料を揃えておきましたから、大工にも指示しておきます」


 それに、グレンジャーの宿屋、美味しいけど見た目が悪かった食堂、そして借家は、グレンジャー館と同じ様に、オレンジ色の屋根、そして貝殻を焼いたのを混ぜた白い漆喰壁で統一した。


 元々グレンジャーの家は、白い漆喰壁が多かったから、なかなか見た目は良くなるんじゃないかな?


 ここも、宿と食堂以外は、ラドリー様が指導した地元の大工や左官に任せているよ。


 あと、あの食堂には、エバが出向いてパエリアの作り方を教えた。平たい鍋は、地元の鍛冶屋で作らせるよ。まだ、今年は米は買わないといけないけど、いずれは領地の米で作れそう!


 二つの町には、学校を作った。学校というより、寺子屋っぽい感じだよ。


 ハープシャーは、火曜の市が立つ日。グレンジャーは、木曜の市の立つ日にした。


 初めは週一にしたんだ。親が市に参加する間、子どもを預かる意味合いもあるんだ。


 貸家を二つ合体させて、大きな教室、小さな教師の控室、教材などを置く準備室、そして台所を作った。

 大教室は、住民達の集会場にも利用できるようにしたよ。


 これ、田舎の生活を知らなかったんだけど、重要みたい。つまり、パーティというか村の若者の出会いの場にもなるんだよね。


 それと、まだ大きな事件は起こっていないけど、裁判所も必要なんだ。小さな揉め事は、モンテス氏が解決してくれている。


 隣の農家が、うちの農地を侵食してきているとか、よくあるトラブルみたいだね。

 それと、浮気とかでの喧嘩もあるそうだ。


 田舎にも色々と問題が起こるのを夏休みで知ったよ。

 クワを盗まれた! 借りただけだとか、こういった細かい問題は、村長が解決してくれる。

 それで拗れたら、モンテス氏に報告される感じ。


 モンテス氏は、細かい問題は私には報告しないけど、拗れたら言うそうだ。


 領地については、モンテス氏、そしてアダムとメーガンに任せっきりになりそう。

 館の中の事は、ハーパーとリラに任せるよ。

 私の留守中、ミリアム先生の負担が増えないように、リラには気をつけてもらわなきゃ。


 領地の管理は、まだまだやる事があるけど、モンテス氏がしっかりしているから、かなり負担は少なくなった。


 でも、まだ夏の課題が残っているんだよ! 全部、ゲイツ様がすれば良いんじゃないかな? と思うけど、午前中は錬金術部屋に二人でこもっている。


「卵の浄化装置の隠蔽、それにペイシェンス様が作った非常識な盾の魔法陣の隠蔽! 本来の目的のカルディナ帝国の蓄魔システムの研究! 何もできていません!」


 いや、これまで空を飛ぶ練習にかかりっきりだったのは、ゲイツ様じゃん! その間に、私はなんとか守護魔法陣を極小化させて、守護指輪や守護ペンダントを作ったんだよ。


 まだ隠蔽の魔法陣を上書きしていないから、ペンダントは私専用にしている。ゲイツ様から、そうしろと言われたからね。


 その上、パーシバルのベストに守護魔法陣を刺繍したり、やる事はやっていたんだ。これを、誕生日プレゼントにするつもり。大丈夫だよね? マントにしたものをベストに写すだけだから。


 ゲイツ様が、ぶつぶつ文句を言っている。


「こんなに飛べないとは考えていなかったのです。王都にいる間、上級魔法使い達に指導したのですが、割と簡単に覚えたので……」


 騎士達や学生と、王宮上級魔法使いを同列に考えられても困るよ。


「カルディナ帝国の蓄魔システムだけは、ここで研究した方が良いのです。隠蔽の方はサリンジャーに任せましょう!」


 ふぅ、サリンジャーさん、過労死しないでね。


「でも、どこから手をつけたら良いのかもわかりませんわ」


 現地を視察しようにも、今はエステナ聖皇国から視察団が来ているそうだ。リリアナ伯母様から、近づかないようにと手紙が来たんだ。


 だから、本当ならサミュエルはノースコートに戻る予定だったけど、こちらに留まっている。何だか急に押しかけて来たみたいで、部屋を空けるために、嫁いだ娘さん夫婦は慌てて王都に帰ったみたい。


 本当に話を聞くだけで、むかむかしちゃうよ! グレンジャー館の件は、極秘にしてもらっている。接待したくないからね!


「あれと同じでなくても良いのです。太陽光に含まれる魔素を集めて、蓄えるシステムを作れば良いだけ」

 

 簡単に言うけど、前世の太陽光発電のシステムも理解していなかったよ。


「太陽光の中の魔素を取り出す? 取り込む? 取り込むの方が近いですね」


 ふうむ、と考えるけど、イメージが湧かない。


「これは、ペイシェンス様の方が得意だと思うのです。私は、どうも常識に囚われてしまうので」


 非常識なゲイツ様に言われたくないけど、生活魔法の成り立ちを考えたら、そうかもしれないと思っちゃう。


「カザリア帝国の全盛期には、エステナ教はなかったのですよね?」


 ゲイツ様が笑う。


「ええ、だからあの蓄魔システムは、古代魔法の延長で考えないといけないのです。私は、嫌いだと言っているのに無意識に影響を受けているのです。天才だから、読んだ書物を暗記してしまうのが悪いのかもしれません。ペイシェンス様は、その点は大丈夫そうですね」


 ええっ、凄くディスられている気がするよ。でも、気にしない事にする。ゲイツ様が天才なのは確かなんだから。


 黒い石は、太陽光から魔素を取り込んでいる。それを蓄魔器に送るコードはなんとかなりそうだけど、肝心の黒い石と蓄魔器が理解不能なんだ。


「プリズムで紫色の光を集めたら良いのですよね!」

 だから、黒い石に拘らず、私ならではの集め方を考える。


「ペイシェンス様、また違う装置を作るつもりですね!」


 そう、黒い石の研究は、魔法省に任せる。分解でも何でもしてくれ。


「ええ、黒い石ではなく、プリズムを利用して魔素を集める方なら何とかなりそうですもの!」


 プリズムを珪砂で作り、紫の光線を集める方法を考える。

 ここからは、ゲイツ様の方がやった感じ。


「角度の調整をして、その光を集める。それを吸収できる素材! だから、あの黒い石なんですね」


 私は、知らなかったけど、魔法省で一年間、研究はしていたみたい。

 あの黒い石は、玄武岩! つまりどこにでもある石なんだ。海底のほとんどは玄武岩って聞いたことがある。


 ああ、ゲイツ様に暗記術を習って、前世の漠然とした記憶も少し思い出せた。確か、玄武岩でリチウム電池の代わりにする研究についてニュースでやっていたような?


 玄武岩を集めて、蓄魔システムの『ち』ぐらいまで進んだ。


「これを魔石ですれば、もっと集めやすいのかしら?」


 これは、前世のラノベの影響だね。ラノベで、魔石に魔法を入れるバイトをするとかあったんだ。


「魔石は、魔法を抜いたらただの石ですよ。でも、魔素が入るのか研究した人はいませんね」


 やってみたけど、魔素が抜けた灰色の魔石は、魔素を受け付けなかった。残念!


 でも、玄武岩、かなり魔素を蓄えられる。魔石と同じとは言えないけどさ。


 メアリーしか、この錬金術部屋には入れていない。パーシバルなら入れても良いのだけど、今は、飛行訓練とあの盾の練習だからね。


 アルーシュ王子とザッシュが居なくなり、他のメンバーには、ゲイツ様が口止めしたから、非常識な盾が解禁されたんだよ。隠蔽の魔法陣が未だだから、これはパーシバル専用だ。


 うん、夏休みがおわったら、サリンジャーさんに叱られそうな予感がする。

 だから、ゲイツ様と一緒に頑張って、太陽光蓄魔システムを作らなきゃね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 上級使用人は、家から通う日と屋敷に詰める日とをシフト性にすると、少なくとも正副2人が必要になりますかね
[一言] 学校で教えている間は、付き人か助手はつけるんだろうか?使用人に教える間も含め、ある程度学のある者を、助手につけてもいいと思うけどな モランからきた騎士の彼女に、教師か助手になって貰う事は、無…
[一言] グレンジャーとハープシャーの中間にペイシェンス屋敷を作るのも一つの手。(新しい拠点として) 天然アスファルトが存在する世界なら瀝材舗装するのもいいかも。(魔法でアルカン(炭化水素)からアスフ…
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