ゲイツ様と二人で
夏休み、まだ残っているけど、王都にはもう少ししたら帰る予定だ。
だって、他所の家の娘さんを預かっているし、夏休みギリギリだと王都への道が混むんだよ。
去年、サティスフォードからの道、途中で馬車渋滞に捕まったからね。ノロノロ進むと、トイレに困るんだよ。
トイレ休憩の宿屋とかも混んでいるしね。
だから、夏休みの終い前には王都に戻る予定! これは、初めから決まっていた。
ラドリー様とライトマン教授のお陰で、騎士の家、管理人助手の家、それと結婚した使用人の家がハープシャー館の敷地内に建てられた。
ハープシャー館に似たデザインで統一されていて、良い雰囲気だ。
それにハープシャーのボロの宿屋の改修工事も終わったよ。
「ハープシャーの町は、館と同じく白壁と灰青色のスレートで統一した方が良さそうです。他の借家も同じ材料を揃えておきましたから、大工にも指示しておきます」
それに、グレンジャーの宿屋、美味しいけど見た目が悪かった食堂、そして借家は、グレンジャー館と同じ様に、オレンジ色の屋根、そして貝殻を焼いたのを混ぜた白い漆喰壁で統一した。
元々グレンジャーの家は、白い漆喰壁が多かったから、なかなか見た目は良くなるんじゃないかな?
ここも、宿と食堂以外は、ラドリー様が指導した地元の大工や左官に任せているよ。
あと、あの食堂には、エバが出向いてパエリアの作り方を教えた。平たい鍋は、地元の鍛冶屋で作らせるよ。まだ、今年は米は買わないといけないけど、いずれは領地の米で作れそう!
二つの町には、学校を作った。学校というより、寺子屋っぽい感じだよ。
ハープシャーは、火曜の市が立つ日。グレンジャーは、木曜の市の立つ日にした。
初めは週一にしたんだ。親が市に参加する間、子どもを預かる意味合いもあるんだ。
貸家を二つ合体させて、大きな教室、小さな教師の控室、教材などを置く準備室、そして台所を作った。
大教室は、住民達の集会場にも利用できるようにしたよ。
これ、田舎の生活を知らなかったんだけど、重要みたい。つまり、パーティというか村の若者の出会いの場にもなるんだよね。
それと、まだ大きな事件は起こっていないけど、裁判所も必要なんだ。小さな揉め事は、モンテス氏が解決してくれている。
隣の農家が、うちの農地を侵食してきているとか、よくあるトラブルみたいだね。
それと、浮気とかでの喧嘩もあるそうだ。
田舎にも色々と問題が起こるのを夏休みで知ったよ。
クワを盗まれた! 借りただけだとか、こういった細かい問題は、村長が解決してくれる。
それで拗れたら、モンテス氏に報告される感じ。
モンテス氏は、細かい問題は私には報告しないけど、拗れたら言うそうだ。
領地については、モンテス氏、そしてアダムとメーガンに任せっきりになりそう。
館の中の事は、ハーパーとリラに任せるよ。
私の留守中、ミリアム先生の負担が増えないように、リラには気をつけてもらわなきゃ。
領地の管理は、まだまだやる事があるけど、モンテス氏がしっかりしているから、かなり負担は少なくなった。
でも、まだ夏の課題が残っているんだよ! 全部、ゲイツ様がすれば良いんじゃないかな? と思うけど、午前中は錬金術部屋に二人でこもっている。
「卵の浄化装置の隠蔽、それにペイシェンス様が作った非常識な盾の魔法陣の隠蔽! 本来の目的のカルディナ帝国の蓄魔システムの研究! 何もできていません!」
いや、これまで空を飛ぶ練習にかかりっきりだったのは、ゲイツ様じゃん! その間に、私はなんとか守護魔法陣を極小化させて、守護指輪や守護ペンダントを作ったんだよ。
まだ隠蔽の魔法陣を上書きしていないから、ペンダントは私専用にしている。ゲイツ様から、そうしろと言われたからね。
その上、パーシバルのベストに守護魔法陣を刺繍したり、やる事はやっていたんだ。これを、誕生日プレゼントにするつもり。大丈夫だよね? マントにしたものをベストに写すだけだから。
ゲイツ様が、ぶつぶつ文句を言っている。
「こんなに飛べないとは考えていなかったのです。王都にいる間、上級魔法使い達に指導したのですが、割と簡単に覚えたので……」
騎士達や学生と、王宮上級魔法使いを同列に考えられても困るよ。
「カルディナ帝国の蓄魔システムだけは、ここで研究した方が良いのです。隠蔽の方はサリンジャーに任せましょう!」
ふぅ、サリンジャーさん、過労死しないでね。
「でも、どこから手をつけたら良いのかもわかりませんわ」
現地を視察しようにも、今はエステナ聖皇国から視察団が来ているそうだ。リリアナ伯母様から、近づかないようにと手紙が来たんだ。
だから、本当ならサミュエルはノースコートに戻る予定だったけど、こちらに留まっている。何だか急に押しかけて来たみたいで、部屋を空けるために、嫁いだ娘さん夫婦は慌てて王都に帰ったみたい。
本当に話を聞くだけで、むかむかしちゃうよ! グレンジャー館の件は、極秘にしてもらっている。接待したくないからね!
「あれと同じでなくても良いのです。太陽光に含まれる魔素を集めて、蓄えるシステムを作れば良いだけ」
簡単に言うけど、前世の太陽光発電のシステムも理解していなかったよ。
「太陽光の中の魔素を取り出す? 取り込む? 取り込むの方が近いですね」
ふうむ、と考えるけど、イメージが湧かない。
「これは、ペイシェンス様の方が得意だと思うのです。私は、どうも常識に囚われてしまうので」
非常識なゲイツ様に言われたくないけど、生活魔法の成り立ちを考えたら、そうかもしれないと思っちゃう。
「カザリア帝国の全盛期には、エステナ教はなかったのですよね?」
ゲイツ様が笑う。
「ええ、だからあの蓄魔システムは、古代魔法の延長で考えないといけないのです。私は、嫌いだと言っているのに無意識に影響を受けているのです。天才だから、読んだ書物を暗記してしまうのが悪いのかもしれません。ペイシェンス様は、その点は大丈夫そうですね」
ええっ、凄くディスられている気がするよ。でも、気にしない事にする。ゲイツ様が天才なのは確かなんだから。
黒い石は、太陽光から魔素を取り込んでいる。それを蓄魔器に送るコードはなんとかなりそうだけど、肝心の黒い石と蓄魔器が理解不能なんだ。
「プリズムで紫色の光を集めたら良いのですよね!」
だから、黒い石に拘らず、私ならではの集め方を考える。
「ペイシェンス様、また違う装置を作るつもりですね!」
そう、黒い石の研究は、魔法省に任せる。分解でも何でもしてくれ。
「ええ、黒い石ではなく、プリズムを利用して魔素を集める方なら何とかなりそうですもの!」
プリズムを珪砂で作り、紫の光線を集める方法を考える。
ここからは、ゲイツ様の方がやった感じ。
「角度の調整をして、その光を集める。それを吸収できる素材! だから、あの黒い石なんですね」
私は、知らなかったけど、魔法省で一年間、研究はしていたみたい。
あの黒い石は、玄武岩! つまりどこにでもある石なんだ。海底のほとんどは玄武岩って聞いたことがある。
ああ、ゲイツ様に暗記術を習って、前世の漠然とした記憶も少し思い出せた。確か、玄武岩でリチウム電池の代わりにする研究についてニュースでやっていたような?
玄武岩を集めて、蓄魔システムの『ち』ぐらいまで進んだ。
「これを魔石ですれば、もっと集めやすいのかしら?」
これは、前世のラノベの影響だね。ラノベで、魔石に魔法を入れるバイトをするとかあったんだ。
「魔石は、魔法を抜いたらただの石ですよ。でも、魔素が入るのか研究した人はいませんね」
やってみたけど、魔素が抜けた灰色の魔石は、魔素を受け付けなかった。残念!
でも、玄武岩、かなり魔素を蓄えられる。魔石と同じとは言えないけどさ。
メアリーしか、この錬金術部屋には入れていない。パーシバルなら入れても良いのだけど、今は、飛行訓練とあの盾の練習だからね。
アルーシュ王子とザッシュが居なくなり、他のメンバーには、ゲイツ様が口止めしたから、非常識な盾が解禁されたんだよ。隠蔽の魔法陣が未だだから、これはパーシバル専用だ。
うん、夏休みがおわったら、サリンジャーさんに叱られそうな予感がする。
だから、ゲイツ様と一緒に頑張って、太陽光蓄魔システムを作らなきゃね!




