新しい騎士二人!
飛行訓練は、ルーシーが頭一つ抜け出した感じだ。ゲイツ様が魔法合宿に選んだだけはあるよ。
「ルーシー様、どうやって飛ぶのかわかりません!」
アイラは、火の魔法がメインで、少しだけ風も使える感じなので苦戦している。
「風を集めて、空へ、空へと上がるのよ!」
ルーシーの説明、私でも理解できない。でも、全員が真剣に聞いている。
何故なら、ゲイツ様は「もう何回も説明したでしょう!」って態度なんだもの。
「ゲイツ様、王宮魔法使いも飛べるのですか?」
来年は、王宮魔法使いになりたいと意気込んでいるルーシーの質問だ。その前に、数学の単位を落とさなきゃ良いのだけどね。
「上級王宮魔法使いの何人かは飛べますよ。ただ飛距離が短くて……」
サリンジャーさんは、飛べるのかな?
「それなら、飛べるようになったら、上級王宮魔法使いに推薦して貰えますか?」
ルーシーは、ロマノ大学に進学しないので、王立学園卒だと下級魔法使いしか資格は取れない。
「その前に、王立学園を卒業しないといけませんし、下級魔法使いの試験、その上に王宮魔法使いの試験に合格しないといけないのですよ! 数学も学科テストに含まれています」
ルーシー、かなり頑張らないと無理じゃないの?
「頑張ります! 建築士にも興味がありましたが、やはり私は魔法が大好きなのです!」
その意欲は買うとゲイツ様も笑う。
本当に魔法省に勤めたいだなんて、ルーシーも変わっているよね! だって、ゲイツ様の部下だよ。酷い目に遭うに決まっているじゃん! 私は御免だね!
今日は、午後からモラン伯爵領の騎士の息子二人が面接に来てくれる。パーシバルは、子どもの頃から知っているし、良い騎士だと言っているから、条件面だけの面接になりそう。
午前中は、ルーシー達は勉強だけど、私はナシウスとクラリッサと一緒に絵を描く予定。
ナシウスには、絵の具が買えなくて苦労を掛けたからね。
クラリッサは、錬金術の時の魔導灯のデッサンなどは描けている。この子も油絵の具の使い方をマスターしたら良いだけかもね。
「良い天気なので、外の風景をスケッチしましょう」
ハープシャー館の庭も、バラやサフラン、ジャスミン、生姜の花が満開だ。
「お姉様、私は馬の王を写生したいです」
あっ、それも良いかも? ああ、そうだ! 弟達の肖像画を残しておきたい! 忘れていたよ。
「私は、バラを描きますわ。馬の王は、動くから難しそうです」
馬舎に向かうナシウスと別れて、クラリッサと写生する。
脳内で思い浮かべるもう少し幼いナシウスとヘンリーをバラ園に配置しちゃった。
「ペイシェンス様、とても上手ですね!」
クラリッサのバラの絵も素敵だけど、芸術性より写実性が優れている感じなんだよね。
そう、植物画って感じ。あの美術の先生の受けが悪いのかも。腕前だけなら修了証書が貰えてもおかしくないレベルなんだ。
「クラリッサ、とても上手く描けているけど、修了証書が欲しいなら、もっとアレンジを加えた方が良いのかも?」
少しだけアドバイスしておく。
ナシウスの馬の王の絵、とても素敵で、清書したら応接室に掛けたいレベル。
「ナシウス! これなら秋学期に修了証書が貰えそうですね」
褒めたら、照れた。でも、自分達の肖像画にはチェックを入れるんだ。
「お姉様、こんなに私は幼くないですよ!」
これは、脳内イメージだよ。私より、ナシウスが背が低くてハグしやすかった頃のだ。
「何枚も描くから良いのです」
クラリッサとナシウスにドン引きされたけど、当たり前だよね!
「それより、婚約者のパーシバル様を描いたら良いのでは?」
ハッ、忘れていたよ!
「ほほほ、勿論ですわ」
二人に忘れていたのを勘づかれた。
午後からの飛行訓練には参加しないで、パーシバルとモンテス氏、そして騎士長のローラン卿と面接に臨む。
「飛行訓練、どうも上手くできません」
ローラン卿も飛ぶのは身体強化のジャンプだけみたい。
「私もです! ペイシェンス、また一緒に飛んで欲しいです」
パーシバルは、あと少しだと思うんだけどね。
「ええ、ヘンリーもあと一歩ですし、パーシー様もあと一歩だと思います。ナシウスは少しなら飛べるようになりましたわ」
ルーシーの次に飛べそうなのは、ナシウスなんだよね。まだ飛べるとまでは言えないけど、かなり風で身体を浮かべるようになっている。
「でも、空を飛ぶのが目的ではなく、飛びながら攻撃したり、攻撃を飛んで避けなくてはいけないのですよね」
皆、目的を忘れている気がするよ。
パーシバルとローラン卿、二人とも「そうだった!」と笑っている。
モラン伯爵家からの騎士二人! すごいハンサムでした。モラン領ってハンサムの産地なのかしら?
「バーナード・ヨークビルです」
金髪、青い目、何となくヘンリーの色合いに似ているけど、もっとハンサム。女の子が『きゃあ!』と騒ぎそう。
「ラルフ・ナッシュビルです」
あら? ラルフって、男なのに色気があるタイプ。濃い茶髪とダークな目。
でも、二人とも婚約者がいるそうだ。当たり前かな?
「こちらでは、騎士の家が頂けると聞いています。落ち着いたら、婚約者と結婚したいです」
バーナード卿を、遠くに置きたくない婚約者の気持ちは分かるよ。本当にハンサムな好青年だからね。
「私は、結婚してから、こちらに一緒に引っ越したいと思っています」
ラルフ卿の婚約者も心配なんだろうね。うん、私もパーシバルが遠くに行くと言ったら、心配だもの。
二人は、飛行訓練を見て、目をキラキラさせていた。それに、剣術の腕もなかなかみたい。
「パーシバル様、こちらでは飛ぶ訓練もされているのですね!」
バーナード卿のキラキラ視線に、パーシバルもタジタジだよ。
「私は、まだ訓練中だ」と言葉少なく答えていた。
「ふぅ、また騎士が増えたのですね。飛べるか試してみますか?」
えっ、まだ正式採用じゃないのに、空に打ち上げないでよ! 嫌がって辞めるかも?
なんて、心配したけど、二人とも「飛べるようになるぞ!」と凄くやる気になりました。




