少しゆっくりしよう
グレンジャー館でのお茶会後、少し疲れてしまった。
領地に来てから、ゲイツ様が来られる前にと、あれこれしたのと、やはり魔法合宿での疲労が溜まったみたい。
「お嬢様、今日はゆっくりお過ごし下さい」
メアリーにも心配かけたね。
オルゴール体操と朝食、そしてモンテス氏との打ち合わせはするけど、その後はゆっくりとしよう。
部屋で読書をしながら、過ごそうと思っていたけど、眠っていた。本当にペイシェンスは体力ないから、自分で気をつけないといけないな。
オルゴール体操で、魔素を取り込んで、やっと普通の令嬢並みの体力なのに、空を飛んだり、少しハードメニューが続いたからなぁ。
昼食後も久しぶりにハノンを弾いて過ごした。マーガレット王女にちょっと強要されていた頃は、義務感で弾いていたけど、前世にいた頃から好きだったからね。
夏の昼下がりらしいクラッシック音楽といえばラヴェルの『水の戯れ』かな? かなり忘れていて、アレンジ多めだけど、良い感じ。
それに『キラキラ星の変奏曲』は、弾いていて楽しい。
夏のキャンプに欠かせない『遠き山に日が落ちて』は、ドボルザークの『新世界から』なんだよなぁ。
それに、夏の人気歌謡曲! 好きだった曲を何曲か弾いていたら、午後からの飛行訓練を終えた皆がやってきた。
「ペイシェンス! 素敵な曲だな!」
やはり、サミュエルは音楽が大好きみたい。
「ええ、気晴らしに弾いていたの」
サミュエルが気に入った曲を何曲か弾いたら、本当に天才的な音楽才能があるので、パパパッと楽譜にしてくれた。
「ふふふ、これで夏休みの宿題が終わった気分になったわ。サミュエル、ありがとう」
サミュエルが、ハッとした顔になって、寂しそうに微笑んだ。
「そうか、ペイシェンスは今年で卒業なのだな。来年は、ロマノ大学かぁ。音楽クラブもアルバート様も卒業されるし、寂しくなるな。一緒にロマノ大学で、音楽サークルを作るのか?」
ははは、アルバートとは近づきたくないよ。彼だけならともかく、公爵は怖いからね。
「本当は音楽クラブも引退なのだけど、マーガレット王女が部長をされているから、半引退になりそうだわ。でも、収穫祭は観客席に座るつもりよ」
サミュエルが、そうなると良いなと笑う。
音楽クラブは、推薦制だけど、人数的に問題はない。だから、大丈夫だと思いたいな。
錬金術クラブも体験コーナーのお陰か、難しいイメージが払拭されて、新入部員も増えている。廃部の危機がないのは嬉しいよ。
今日は、私の体調が悪いので、エバがあっさりとしたデザートを作ってくれた。
ココナッツミルクの中に小さなタピオカが入っているの。
これ、前世でも好きだったんだよね!
このココナッツは、サティスフォード子爵のお土産だよ。バナナチョコレートを届けたお返しかな?
前に、バザールで爆買いした食材を色々とお土産にしてくれたんだ。
あの時にはなかったマンゴーっぽい果物も含まれていて、凄く嬉しい! またバザールにはいきたいな。
今回のタピオカは、白でココナッツミルクと同化している。
私は大好きなので、スプーンで掬って口に入れた途端、美味しい! って感激しちゃった。
「これは、変わったデザートですね」
ゲイツ様は、無言で完食だったけど、ラドリー様は一口、一口、味わっている。
ココナッツが少ないから、お代わりは無いよ。
その分、飛行訓練で疲れているだろうから、ミニサンドイッチとカナッペがテーブルに置かれている。
「これのお代わりはないのですか?」
約一名が騒いでいるけど、無視! と思ったけど、ラドリー様も欲しそう。
ラドリー様には、グレンジャー館の改装や騎士の家など、本当にお世話になっているからね。
「このココナッツミルクがありませんの。お気に召したのなら、バザールに買い付けに行かせますわ」
ゲイツ様が「是非!」と叫んでいる。タピオカミルクティーより、タピオカココナッツミルクの方が評判が良いみたい。
それと、エバが冷やし飴も作ったみたい。
小さなガラス容器に入れて、ハーパーが皆に配っている。
「これは、麦芽糖で作ったのですね」
パーシバルはよくわかったね! 前に、教授達に出した時より、もっとすっきりと美味しくなっている。
「ええ、ココナッツとかは輸入品ですが、これなら領地で作れる物ばかりですから。これを市で売れば、麦芽糖の宣伝にもなると思うのです」
貴族は、輸入品の砂糖を使うけど、庶民の甘味がないんだよね。
麦芽糖で作れるスイーツを考えたけど、一番簡単なのが冷やし飴だったんだ。
冬になったら、生姜湯にしても良い。
「市? そんなのがあるのですか?」
失礼なゲイツ様だよ。でも、グレンジャーもハープシャーの町も寂れているんだよね。
その他の農村なんか、過疎地っぽい。
身体は一日休めたから、かなり回復したけど、やはりやる事が山積みなんだよね。
「ペイシェンス、ゆっくりと開発していけば良いのですよ」
パーシバル、優しいね!
それからは、ちょこっと私には楽しい時間を過ごした。
ユージーヌ卿は、飛行訓練を続けたかったみたいだけど、休んでいる間に、マリーとモリーからドレスの仮縫いをしたいと言われたんだ。
「これなら蕁麻疹は出そうにない!」
薄いブルーから濃いミッドナイトブルーへとグラデーションになっているドレスの仮縫いをしているユージーヌ卿。
本当にスタイル抜群なんだ。この身長を活かすデザイン! バイアスカットで身体のラインが出ているけど、素敵すぎるよ!
私ももっと背が高かったら、こんなデザインのドレスを着たいな。
「ユージーヌ卿、とても素敵ですわ」
これ、お世辞じゃないよ。
「ペイシェンス様、ありがとう! 母から婚約披露パーティには、絶対にドレスを着るようにと厳命されていたのだ」
ユージーヌ卿のお母様も大変だね。でも、理解あるサリエス卿だから、大丈夫じゃないかな? ああ、アマリア伯母様は大変そうだけどさ。
「図々しいお願いだが、ウェディングドレスも作って欲しい。母が考えているドレスは、蕁麻疹がでそうなんだ」
それは、勿論! だってユージーヌ卿は、良いお得意様になりそうだし、素晴らしい広告塔だからね。




