ヘンリー、空を飛ぶ!
次の日は、雨もあがって快晴だった。オルゴール体操も、やはり太陽の下が良いよね。
魔素を多く吸収できるし、やはり夏休みの早朝らしいから。
今日も、モンテス氏と打ち合わせをする。いつも一緒のパーシバルは、馬の王と遠乗りに行った。
昨日は一日中、雨だったから、少ししか走っていないのが不満みたいだったからね。
「リリアナ伯母様から、早くグレンジャー館でお茶をしたいと手紙がきましたの」
これは、アダムに任せる案件だけど、グレンジャー館の料理人にメロンパフェを覚えて貰わなきゃね。
「アダムが張り切ってラドリー様とテラスなどの改修を致しました。一度、子爵様に見て頂きたいと言っています」
それは、是非見たいね!
「ノースコートからお客様をお呼びする前に、プレオープンしたら良いと思います」
エバにグレンジャー館に行ってもらって、ファビやサングに直接指導して貰っても良い。
「いきなり、大勢ですと困るのでは?」
ああ、今はハープシャー館に滞在している人が多いからね。
「ええ、そうですわね。家族だけに絞っても……ゲイツ様とラドリー様は、絶対に参加されそうですわ」
あの二人、才能はピカイチなのだけど、食い意地が張っているのが欠点だ。
でも、ラドリー様には領地の建物を建てて貰ったり、改築して貰っている。これは、絶対に招待しないといけない。
ゲイツ様は、招待しなくても参加するのは分かっている。
「後は……学生達は、今回は我慢して貰いましょう!」
ルーシーやアイラ、それにジェニーとリンダ、クラリッサもお留守番だ。
学生組だけど、弟達やサミュエル、そしてアルーシュ王子とザッシュは参加だね。
後は、サリエス卿とユージーヌ卿も招待したい。
グレンジャー館に行く人数をミッチャム夫人に伝えて、アダムとエバに手配してもらう。任せる人ができて、少し楽になったよ。
さて、今日はヘンリーと空を飛ぶ練習だ。
メアリーを説得して、ズボンを穿いている。何回も空を飛ぶ予定だからね。
「今日は、自分で空を飛んで貰いますよ!」
つまりゲイツ様は、空に打ち上げるつもりは無いみたい。
「多少、失敗しても、私が何とかしてあげますから、思いっきり飛んでみたら良いのです」
ふうん、まぁ、そちらの指導はゲイツ様に任せて、私はヘンリーに飛び方を教える。
「お姉様、私は飛べるようになるのでしょうか?」
ああ、可哀想に! 昨日の雨で空を飛ぶ練習は無かったけど、ヘンリーはずっと考えていたんだね。
「ヘンリーは、生活魔法が使えるでしょう?」
それには「はい!」と頷く。
「私は、生活魔法で空を飛んでいるのです。だから、ヘンリーも覚える事ができると思いますよ」
ヘンリーは、元々、前向きな考え方の子だし、空を飛びたいという熱意に溢れている。
「さぁ、何回も空を飛んで、飛び方を身につけましょう!」
ゲイツ様が、どうなることやらと肩を竦めている。
私の弟愛を舐めて貰っては困るよ! 絶対にヘンリーを飛べるようにするからね。
「手を繋いで、空を飛びましょう!」
前にナシウスに言われた点を注意しなくては! 囲んで、空に上がるのではなく、風を捉えて上がるのだ。
「お姉様、前に空に打ち上げて貰った時と同じ感じです!」
ヘンリーは、よく覚えているね。
「ええ、この感覚を覚えて、自分で使えるようにならないといけないのですよ」
ある程度の高さに来たら、ホバリングを教える。
「こうして、風を使って、空中に留まるのです」
ヘンリーは、まだこれはわからないみたい。
「何回もすれば、わかりますよ!」
ここからは、ヘンリーが自分で下りたいと言うので、手を放す。
私は、何故か下りるのが苦手だけど、何とか下りた。
前世の傘を持ったナニーみたいには、優雅には下りれなかったよ。着地は減点だ。
午前中は、何度もヘンリーと空を飛んだ。
「一人でやってみます!」
ヘンリーが一人で挑戦したけど、サリエス卿じゃないけど、身体強化のジャンプになっている。凄く高いけどね。
うん? 身体強化で空は飛べないのかな?
あの浮かぶボードに片足を固定して、地面を蹴って、空を飛ぶ。私には無理だけど、ヘンリーならできるのかも?
昼の休憩の間に、私はスケボーに足を固定できる装置が付いたのを作った。
「ペイシェンス、何を作ったのですか?」
パーシバルは、一昨日、失敗したのにと不思議そうだ。
「これは、空に浮かぶスケボーですの。私は、無理でも、ヘンリーなら使いこなせそうですわ」
それと、ヘルメットと肘当て、膝当ても作ったよ。ヘルメットには、守護魔法陣を描いて、魔石を嵌め込めるようにしてある。
午後からの練習で、ヘンリーにヘルメット、肘当て、膝当てを装着させる。こんな時は、従者見習いのルッツにさせる。これも練習だからね。
「ヘンリー、右足をここに固定して、左足で地面を蹴ってみて!」
ヘンリーは、運動神経が抜群に良い。
「初めは、少しずつですよ!」
注意したけど、私から見たら、思いっきり蹴っているようだ。
「わぁぁ! これ、面白いです」
グレンジャー館の訓練所の中をヘンリーがすっ飛んでいく。
「ペイシェンス様、また厄介な物を!」
ああ、そう言えばストップを掛けられていたかも?
「ゲイツ様、これはスケボーですわ」
ちょっと浮いているだけだよね。
「ヘンリー、こちらにいらっしゃい」
ヘンリーが嬉しそうに、私の所にくる。もう、カーブもできるんだね。お姉ちゃん、驚くよ!
「お姉様、とても楽しいです!」
ううん、これは楽しそうだけど、空を飛ぶとは言えないよね。
「ええ、でももっと活用できるのですよ」
ここで私が見本を見せてあげられたら良いのだけど、運動神経が微妙なんだよ。身体的も下手だしね。
「ペイシェンス様、私がやってみます!」
横で見ていたゲイツ様は、私が考えていた事がわかるの? また考えが漏れているのかしら?
「ふふふ、精神防衛はちゃんと起動していますが、このくらい誰でもわかりますよ」
チェッ! 単純だと馬鹿にされた気分。
「ヘンリー君、よく見て覚えなさい」
偉そうなゲイツ様だけど、怪我とかしたら困る。
「ヘルメットと肘当てと膝当てを!」
ヘンリーのを渡させようとするけど、笑われた。
「そんなの必要ありません!」
ヘンリーが渡した浮くスケボーに片足を固定すると、角度を空に向けて、片足で地面を蹴った。
ビュン! と空に上がったゲイツ様がくるりんと円を描いて、下に下りてきた。
「これは、空を飛ぶ練習に良いですね。ヘンリー君、やってみなさい」
ヘンリーは、喜んで浮くスケボーを地面に降ろすと、ゲイツ様の見本を真似て、角度をつけて空を飛んだ。
「本当に、ヘンリー君の身体強化は天才級です! それに、ペイシェンス様の生活魔法での飛び方も少し使っていますね」
えっ、それは分からなかったよ。お姉ちゃんなのに!
空を一周して、緩やかにヘンリーは下りてきた。
「お姉様、これで練習したら、空を飛べるようになりますか?」
キラキラの目が眩しい。私は、練習になればと思って作ったけど、飛べるようになるかは自信がないんだ。
「ええ、なれますよ!」
ゲイツ様は、自信があるみたい。何だか負けた気分だよ。
それを聞いていた他の人達が、羨ましそうに浮かぶスケボーを見ている。
「これは、ヘンリー君専用ですからね! 貴方達は、自分で飛べる筈です!」
がっかりしたけど、やる気にも火がついたみたい。王宮魔法師が飛べると言うなら、飛べるのだろうと信じているのだ。




