雨の日の午後はお茶が美味しい
午前中、ずっと生活魔法について考えて、ヘンリーと一緒に空を飛び、遣り方を覚えて貰う! という単純な方法しか考えつかなかった。
まぁ、ぐるりと一周して、元に戻った感じだけど、生活魔法については、少し考えるところがあったんだよね。
ゲイツ様には内緒にしているけど、パーシバルの目を治療したし、これって生活魔法なの? っと自分でも理解不能な魔法でもあるんだ。
ただ、うちのメイド見習い達が掃除をする時、手が届かない場所で生活魔法を使っているのを見ていて、感じたんだ。
まだ魔法量が少ないから、一日に一回か、二回程度しか使えない生活魔法だけど、やはり埃を転移させているんだよね。
それに、綺麗にするのは、浄化じゃないの? つまり、転移と浄化を合わせて使っている。ほんの初心者のメイド見習いがだよ。
私の生活魔法も普通じゃないけど、元々の生活魔法も変だよ!
それに、夏休みになってから、パーシバルやルーシーやアイラ、それにジェニーやリンダ。アルーシュ王子やザッシュ。うん、ライトマン教授や学生達にも生活魔法を教えたんだよ。
上手、下手はあるけど、ほぼ全員が使えるようになった。
でも、メアリーは使えない。魔法が元々使えないからかな? 生活魔法が使えたら便利だと思っているのに。
教えて使えるようになった人は、基本的に魔法が使える人なんだよね。
でも、ルーシーは、風がメインで、土はちょこっととか、人によって使える魔法が違うのは何故なんだろう。
そして、ルーシーも簡単な生活魔法は使えるようになった。
「生活魔法を必須授業にするべきなのかも?」なんて、事まで考えたんだ。
まぁ、ヘンリーを飛ばす方法は、とても単純なところに落ち着いたんだけどさ。
午後からも、しとしと雨が降っている。こんな雨の中、騎士達は、昼からも室内訓練所で特訓だそうだ。
弟達やサミュエルも一緒なので、応接室には、私と父親とゲイツ様とラドリー様しかいない。
カミュ先生とクラリッサは、ミリアムを案内して貰っている。
ミリアムとの面接は、とてもスムーズにいったし、私が領地にいる時は、一緒に食事をして貰うことに決めた。
いない時に、一人だけで食堂で食べるのは寂しいと言うので、メーガン達と食べて貰う。
これも、これから決めていかないといけない事なんだけど、使用人の区別が必要になってきた。
執事や家政婦、侍女や従僕などの使用人とメイドとメイド見習い、下女、下男。純粋に使用人枠。
まぁ、上級の執事や家政婦、侍女や従者と中級のメイドと従僕、下男や下女に分ける家もあるけど、グレンジャー家は、今のうちはごっちゃだよ。
そして、使用人だけど、ちょっと違う感じが、家庭教師のカミュ先生、臨時秘書のクラリッサ、そして今日からはミリアム先生。
それと、モンテス氏などの管理人、アダムやメーガンは管理人助手。この人達は、使用人というか、管理する人達だから、また立場が違う。
護衛関係では、領兵達、王都の護衛、私の個人護衛のベリンダ、騎士達。
今は、食堂では、私の家族とゲスト、それにカミュ先生とクラリッサが一緒に食べている。
モンテス氏は、今まではケリーに料理をして貰って、サムと一緒に葡萄管理人家で食べていたみたい。
今は、管理人助手と共に、兵舎で食べているそうだ。他の騎士やベリンダも一緒にね。
「ゲイツ様、ラドリー様、騎士達は領兵と一緒に食事をするものでしょうか?」
パーシバルは、モラン伯爵家の若い騎士達は、兵舎に住んでいると言っていたけど、前から何とかしないといけないと思っていたんだ。
「今、騎士の家を建てていますが……そうか、独身だと料理に困るのですね」
ゲイツ様は、騎士達に興味は無さそうだと思ったけど、私よりは詳しかった。
「兵舎で食べても、問題はないでしょうが、領兵達が寛げないかもしれませんね。二つに分けた方がお互いに良いかも」
そうか! 上司が常に一緒なのは、嫌かもしれない。でも、ゲイツ様が王宮の食堂で食べないのは、ズボラだからだとは思っちゃうけどね。
「独身の騎士は、兵舎の二階で良いと言うのですが、本当にそれで良いのかも悩んでいて……」
ラドリー様が笑う。
「本人達がそれで良いと言うのに、ペイシェンス様は悩まれるのですね。少し、広い部屋にしたら、気がすみますか?」
ゲイツ様は、そんなの無駄だと笑う。
「騎士の家に住ませれば良いだけでは? 食事は、兵舎に騎士の食堂を別に作れば良いだけです」
ふぅ、どちらも良さそうで迷う。
横で読書をしながら話を聞いていた父親が、珍しく口を挟む。
「ペイシェンスの領地の事だから、自分が良いと思うように決めたら良いのだよ」
また理想論だけど、何だか割り切れた。
「そうですわよね。私は、あまり区別をつけるのは好きではないのです。でも、ある程度は区別しないと、困るのもわかってきましたわ」
ここでも、料理人の数が足りないのがネックになる。
「ペイシェンス様、うちの料理助手の件、真剣に考えて下さい。基礎ができた料理助手を二人譲りますから」
ラドリー様、ぐぃぐぃ推してくるね。
「ええ、エバは受け入れても良いと言っています。それに、四年後にはグレンジャー家に料理人が必要になりますから」
きゃあ〜! 自分で言って恥ずかしくなった。
「ペイシェンス……お嫁に行くのか……」
父親が落ち込んでいるのを、ゲイツ様とラドリー様が慰めている?
「ペイシェンス様は、嫁に行っても弟君たちからは離れられません。実家にちょくちょくどころか、ずっと居着いてしまうかも?」
それ、やめて! 実行しそうな私が怖い。
「夏休みには、一緒に領地で過ごせば良いのです」
ラドリー様の方が常識がある慰め方だと思ったけど、違った。
「私もご一緒しますし!」
えっ、ラドリー様の夏の保養所決定なの? まぁ、四年で領地の建物全てが改修できるとは思わないから、働いて貰っても良いけどさ。
「ラドリー様、図々しいですよ」と注意しているゲイツ様も来る気満々みたい。
「お茶にしましょう!」
ハーパーが運んできたお茶と焼き菓子。雨の日のティータイムも良いね。
なんて優雅に過ごせたのは、剣術訓練の人達が応接室に雪崩れ込むまでだった。
ルーシーとアイラはどうしていたのか? 二人は、案内が終わったミリアム先生、カミュ先生、そしてクラリッサにビシバシ鍛えられていたんだ。
「ルーシー、これでは王宮魔法使いの試験に合格できませんよ!」
ゲイツ様の雷が落ちて、ルーシーも本気を出したみたい。アイラもね!
少し雨が降って肌寒いので、暖かいお茶が美味しいね。




