何とかしよう!
皆が頑張っている飛行訓練だけど、私は頭を悩ませている。
「お嬢様、そろそろお茶の時間です」
メアリーに声を掛けられた。令嬢が空を飛ぶのは、お淑やかとは言えないのかもね。早く切り上げて欲しい感じがする。
できる侍女のメアリーは、私のキュロット式の乗馬服の裾が乱れるのを気にして、リボンで括ってくれた。
その前に、ズボンを履くのを許してくれたら良いのだけど。
ジェニーやリンダは、勿論ズボンだ。ルーシーとアイラは、私が乗馬服を作ってあげている。
二人は、裾の乱れなど気にしていないけど、メアリーがキャシーに紐を持って来させて、括らせていた。
「お茶ですか!」
ゲイツ様は耳ざとい。
「これで、今日の飛行訓練はお終いです。騎士組は、風を操る遣り方を、魔法組は身体強化を練習して下さい。言っておきますが、空を飛べるだけでは駄目ですからね。そこから、剣で攻撃する、魔法で攻撃できるのが目標です」
全員から呻き声が上がった。
「今日の夕食はリュウグウノツカイですから、お茶は軽めにしておかなくては!」
そう自分で言っていた癖に、メロンアイスクリームをお代わりしている。
「ペイシェンス、どうしたのですか?」
私がメロンアイスクリームを食べずに考えているので、パーシバルが心配してくれた。
「ヘンリーが空を飛ぶ方法を考えているのですが……上手くいきませんわ」
えい! とメロンアイスクリームを口に入れる。ふふふ、笑える程美味しい!
「ペイシェンス! そうやって笑っている方が良いですよ」
パーシバル、照れちゃうよ! なんて、いちゃいちゃモードになるけど、ここには大勢がいるからね。
「ペイシェンス様なら、ヘンリー君を飛べるようにできるかもしれませんね。普通の魔法使いの考え方から、外れているから」
つまり、ゲイツ様は無理なんだ。最後は、頼ろうかと思っていたから、残念!
「空を飛ぶのは、風の魔法ですよね?」
当然と頷くゲイツ様。憎たらしい!
「お姉様、無理なら諦めます」
ヘンリーに気を使わせてしまった。
「大丈夫です。夏休みは長いのですから、よく考えてみますわ」
魔法で無理なら、錬金術で何とかするよ! エアスーツでも……うん? 空を飛ぶスケボーみたいなのがあったよね?
スケボーは、錬金術クラブの体験コーナーで作る物の候補だ。それを飛ばせば? 膝当て、肘当て、ヘルメットも必要だけど……。
いや、その前に板を飛ばさないといけないのだ。
ゲイツ様の魔法陣の本を暗記した。あの中に、何か無かったかな?
『物と物を反発させる魔法陣!』
「少し、席を外しますわ」
私は、一言断って、錬金術部屋に走る。
板に『物と物を反発させる魔法陣』を描く。それに魔石を乗せる。
バン! と机に反発して、板は浮いている。
「ううう、これでは、地面に浮くだけだわ。ヘンリーは、自由に空を飛びたいのに!」
がっかりした。そりゃ、そうだよね。空を飛べるなら、もう商品化されている。
「違うアプローチをしないといけないのね」
ヘンリーの身体強化は、とても優れている。
足の裏から、風をジェット機みたいに出したら? いや、板から出した方が安全そう。
浮かんでいる板、これを自由に動かせるようにしたい。
私が板を睨んでいると、パーシバルとゲイツ様がやってきた。
「ペイシェンス様! これは何ですか?」
「ええっ? ゲイツ様が暗記するように言われた本に書いてあった魔法陣で浮かせているのです」
ゲイツ様が、板を押して、反発するのを確かめている。
「物と物を反発させる魔法陣! あるのは知っていました。でも、磁石の同じ極同士をつけようとしたら反発する感じだと思っていたのです。祖父も、これを何処かで見つけて、本に載せたけど……これは、大変な発明です! 祖父も私も自分が持っている宝に気づいていなかったのですね!」
ゲイツ様のお祖父様、この魔法陣をどこで知ったのだろう? オーパーツなのか? いや、カザリア帝国の方が魔法や魔道具が進んでいたから、オーパーツとは言えないね。
「ペイシェンス様、まだわかっていませんね! これがどれほどの魔法陣か! 馬車を浮かせば、ガタガタしなくなるし、手押し車も浮かせれば……ああ、また仕事を増やした気がします」
頭を抱えるゲイツ様だけど、今回は私のせいじゃないよ。どちらかと言うと、お祖父様のマグヌス様のせいだよね。
「ペイシェンス、でも不満なのですね」
そう、パーシバルはよくわかっているよね。
「ええ、ただ浮くだけでは、ヘンリーは満足しないでしょう」
ゲイツ様が「ストップ!」と叫ぶ。
「これ以上の発明は禁止です! 反射する盾、守護魔法陣のベスト、守護指輪、守護ペンダント! もう、サリンジャーを呼び出すしかないじゃありませんか!」
パーシバルも困った顔だ。
「他のは、夏休みの後でも良いですわ。でも、ヘンリーに約束したのですから、飛ぶ板は作ります」
ふふふ、ゲイツ様の魔法陣の本、本当に役に立つよ!
「ええっ、まさか!」
ゲイツ様も当然だけど、本を暗記している。これまで、錬金術はあまり興味がなかったのかな?
「ええ、風を集めて放つ魔法陣と組み合わせれば、板に推進力を持たせる事が可能だと思いますわ!」
二人に、呻かれた。
「空飛ぶ絨毯にしても良いのですが、ヘンリーならスケートボードの方が似合うと思いますわ」
足を置く場所で、加速とストップ機能が付けば良いな。曲がるのは、体重移動で何とかできそう! るんるんで考えていたら、ゲイツ様が睨んでいる。
「ペイシェンス様、弟愛の為に輸送革命をおこすのですか?」
そうか、領地でも使えるよね! ワイン樽とか重いんだよ!
「マッドクラブも冷凍しなくても王都に運べるかもしれませんわよ」
真剣な顔になったゲイツ様! やはり食いしん坊だね。
「ついでに、サティスフォード子爵に頼まれている冷凍庫を作るお手伝いをお願いします」
ゲイツ様が、何故私が? って顔をしたけど、夜はリュウグウノツカイだから、ちょっとぐらい働いた方が良いよ。 メロンアイスクリームを食べ過ぎだと思うからね。




