空を飛ぶのは難しい?
私は、それからもユージーヌ卿やナシウスやサミュエルと空の散歩を楽しんだ。
「お姉様と空を飛ぶのは楽しいですが、自分で飛べるようになるには、ゲイツ様の遣り方が良いのかも?」
ナシウスに、そんな事を言われた。ショック!
「当たり前です。自分で風を捉えて、空を飛ぶ。私は、風をナシウス君に集めて、空に飛ばしているのですから、近いのはそちらですよ」
ゲイツ様が得意そうに言う。
「私も同じですわ!」と反論したけど、チッチッチッと指を立てて振る。
「ペイシェンス様のは、ナシウス君を連れて空を飛んでいるだけです」
違いがわからないんだけど?
「ああ、そうかもしれません! ゲイツ様に空に打ち上げられている時は、私に風が集まって上へ、上へと向かう感覚なのです。お姉様と一緒の時は、囲われている感じかな?」
そうなの? ナシウスを空に打ち上げたら練習になるの?
「でも、危険そうで、見ていられませんわ」
そんな事を話していたら、ルーシーとアイラに身体強化を教えていたヘンリーに泣きつかれた。
「お姉様、二人に身体強化を教えようと頑張ったのですが、私には無理みたいです。それに……それに私も空を飛びたいです!」
ああ、大失敗だよ。お姉ちゃん失格だ。ヘンリーに二人を押し付けて、パーシバルとお空のデートしていただなんて!
「ゲイツ様、ルーシーとアイラに身体強化を教えてあげて下さい」
ルーシーもアイラも、ヘンリーに習うより嬉しそう。私とは別な考え方だね。
ゲイツ様が二人を指導している間、他の人は、自主練習だけど、上手く飛べていない。サリエス卿、それは身体強化でジャンプしているだけだよ。
「ヘンリー、ゲイツ様は今は忙しそうだから、私と一緒に空を飛んでみましょう」
「はい!」
ああ、良い返事だよ。ヘンリーの手を取って、二人でお空の散歩だ。
「お姉様、手を放してみて下さい」
えっ、落ちてしまうよ。
「大丈夫です。着地してみたいのです」
本人のやる気を削いではいけない。でも、心配!
「ヘンリー、手を放しますよ」
こちらがドキドキしちゃう。
先に下りて、ヘンリーがもし着地に失敗したら、エアクッションを掛けよう。
ヘンリーの落下速度より、早く地面に下りなきゃ! 頑張って、猛スピードで下りる。
エアクッションでは、転けてしまう。エアブレーキを掛けて、なんとか転ばずに着地した。
「ヘンリー!」
心配したけど、ヘンリーの身体強化は、私より上手だ。
ピタッと着地は、私が審査員なら百点満点だよ! 何点が満点かも知らないけどさ。
「お姉様、今度は私を空に打ち上げて下さい!」
うう、キラキラ目で頼まれると、断れない。それに、地上で待機している方が、何かあった時に助けやすい。
「ヘンリー、いきますよ!」
ヘンリーをちょっとだけ打ち上げる。
「もっと高くが良いです!」
ううう、そうだよね。あれは、ヘンリーが身体強化でジャンプできる高さぐらいだもん。
「では、もっと高く!」
何かあっても、絶対にヘンリーに怪我なんかさせない。その気合いを入れて、ヘンリーを高く空に打ち上げる。
「わぁ!」と喜んで、ヘンリーは高く舞い上がり、クルクル回りながら下りて着地した。本当に、前世ならチャンピオンになれそうだよ。
「お姉様、ありがとうございます」
でも、ヘンリーは少し悲しそう。
「どうしたのですか?」
あっ、もしかして!
「私は、風の魔法は使えませんから、自分では空を飛べるようにはなれないと思うと……」
思わずヘンリーを抱きしめた。
「お姉様がなんとかしてあげます!」
周りの全員が、ドン引きしている気がするけど、生活魔法も教えたのだ。空を飛びたいとヘンリーが望むなら、何とかするよ!
「ペイシェンス様、何を考えておられるのやら。でも、それがペイシェンス様なのです!」
ゲイツ様に非常識と言われた気がする。
ヘンリーが空を飛ぶには? 身体強化では、サリエス卿のジャンプになってしまう。
ううんと、他の人も、空中に留まるのができていないんだよね。
「ゲイツ様、空中に何故留まれないのですか?」
ゲイツ様や私が空に打ち上げても、上がって、下りるだけだ。
「それは、自分で風を操っていないからですよ」
当たり前の事を聞かないで欲しいと、肩を竦める。
「ええっと……」
考えながら、空へと上がる。確かに風を使っているのかも?
「これではなくて、重力を使えば?」
空中でホバリングしながら、考える。私って、今は風を使っているけど、それって生活魔法なの? いや、この方法でヘンリーは飛べないかも?
空中を自由に飛ぶスーツ、前世にはあったよね。エアジェットを背負って、空を飛んでいたような?
駄目! その知識はない。魔法の世界だから、違うアプローチをしなきゃ。
「そうだ!」
急いで、地面に下りる。
「ゲイツ様、空飛ぶ絨毯とかは持っておられませんか?」
ゲイツ様に爆笑された。そんなに笑わなくても良いじゃん。
「それがあれば馬車の旅なんかしませんよ。それに、美味しい料理を二週間もお預けされなくてすんだと思います」
うっ、しつこい! 今夜はリュウグウノツカイの料理を出すから良いじゃん!
「ゲイツ様、身体強化は私たちが教えますから、空の飛び方を教えて下さい」
騎士合宿のジェニーとリンダが申し出てくれた。二人も、身体強化だけなのかな?
いや、マッドクラブを討伐した時、剣から風の刃が飛んでいたよね。
「いえ、騎士合宿でもあるのだから、二人も空を飛ぶ練習をしなくてはいけないわ。ルーシーとアイラには、私が身体強化を教えます」
ルーシーとアイラ、ちょっと失礼なんじゃない? 露骨にガッカリしている。
まぁ、アイラはゲイツ様に憧れているから、少しは理解できるけどね。面食いなのか、才能に憧れているのかはわからないけどさ。
「ペイシェンス様、大丈夫ですか?」
うん、身体強化に良い魔法を知っているんだ。
「ええ、あの拘束魔法で体幹を維持できれば、身体強化がマスターできると思います」
二人が文句を言っているような気がしたけど、空気の球の中でクルクル回す。普段よりは、かなり回転速度を遅くしているよ。
「お姉様、私も!」
そう、ヘンリーの身体強化は優れているから、高速回転でも平気なんだよね。
「ペイシェンス様、酷い!」
何とか身体強化をマスターした二人に、文句を言われた。
「ゲイツ様、ルーシーとアイラも空に打ち上げて下さい」
ジェニーとリンダも自分では空を飛べないみたい。騎士組、アルーシュ王子とザッシュも全滅だ。
ルーシーとアイラはどうかな?
「危ない!」
着地を失敗しそうなルーシーにエアクッションを掛けた。
「身体強化がまだまだですね。もう少し回転した方が良さそうです」
ゲイツ様の叱責に、ゲェって顔のルーシー!
「アイラはやめておきますか?」
アイラも空を飛んだけど、着地は……。
「ふぅ、騎士組は自分で空を飛べそうにないし、魔法組の身体強化はいい加減。これは、難しすぎましたか?」
空を飛ぶのは、難しそうだよ。でも、全員がやる気満々だ。




