一つずつ片付けていこう!
ゲイツ様との魔法訓練は午後からも続くけど、ルーシーもアイラも参加するから、転移魔法はできない。
アルーシュ王子には、ゲイツ様が口止めしたみたいだけど、何と引き換えなのかな?
「ペイシェンス様、ルーシーとアイラは、かなり生活魔法が使えるようになりましたね!」
珍しく褒めて貰えたけど、嫌な予感がする。
「アルーシュ王子とザッシュ君にも、生活魔法を教えて下さい」
ああ、やっぱり! これが口止めの条件なのかも?
アルーシュ王子やザッシュと手を繋ぐのは、少し恥ずかしいから、ルーシーやアイラも巻き込む。それに、何回、練習したって良いからね。
ナシウスがいれば良かったのだけど、昼からはサミュエルやヘンリーと騎士合宿の方に行っちゃった。残念!
「アルーシュ様、ルーシー様と私と手を繋いで下さい」
怪訝な顔をして、私と手を繋ぐ。
「綺麗になれ!」これが生活魔法の基本だよね? 少なくとも、ジェファーソン先生の一時間目はこれだったよ!
「おお、これは便利だと、冬の魔物討伐の時から思っていたのだ!」
何回か掛けて、自分で試して貰う。うん? 微妙!
「やはり、こちらの魔法の使い方をマスターしてからでないと難しいのかも?」
ゲイツ様がやってきて、私の指導方法に興味を持つ。それまで、椅子に座って休憩していたんだよ! 昼食、食べ過ぎたんじゃないの? 海の幸のパスタ、二皿もお代わりしていたから。
「ペイシェンス様、私にも試してみてください」
ゲイツ様は、生活魔法はできるじゃん! と思ったけど、口で勝てる相手ではないので、今度はアイラと手を繋いで掛ける。
アイラは、ゲイツ様と手を繋げて嬉しそう! 良かったね!
「ふぅむ、この遣り方は有効だと思います。アルーシュ王子は、ルーシーと。ザッシュ君はアイラと練習して下さい」
また指導を丸投げだよ! 何の為の魔法合宿なのかな?
「ペイシェンス様、人を指導するのは、良い訓練になるのですよ」
その間、何をしたのか? 錬金術部屋で守護魔法の指輪、ネックレスを作ろうって事になったんだ。
「ゲイツ様? いつもミスリルや魔石を持ち歩いているのですか?」
提供されたミスリル、流石に拳大だったけど、こんなの普通は持っていないよね。
ゲイツ様は、指を一本立てて、チッ、チッ、チッ! と笑う。
「そんなわけないでしょう! ペイシェンス様の領地に行くから、何か作るかも? と思って用意していただけです」
ふぅん、そうなんだね! 一応は、材料提供して貰うのだから、ゲイツ様にも紋章付きの指輪を作ってあげても良いかも?
「ゲイツ家の紋章は、杖と星ですよね?」
貴族の馬車には紋章が付いているから、何回か見ている。
「あの星、削除したいです! 祖先に文句を言いたいですね。全くセンスが無いのですから」
ああ、あれはエステナ聖皇国の七芒星だったかも?
「それは、そうとペイシェンス様の紋章は登録したのですか?」
「えっ、それは……しなくてはいけないのですか? 新しく購入した馬車にはグレンジャー家の紋章を付けて貰ったのです。ナシウスが使う事もあるでしょうから」
ゲイツ様に叱られた。何故か、パーシバルの指導不足まで文句を言う。
「グレンジャー子爵が浮世離れしているのは、仕方ありません。彼は、象牙の塔の住人ですから。でも、パーシバルは外務省に勤めるのですよ!」
だって、普通は親がそういった面の世話はするんじゃないの。婚約者だからって、そこまでは面倒見なくても良いと思う。
「ハープシャーの葡萄、グレンジャーのマッドクラブにしようかしら」
本気でゲイツ様に呆れられた。駄目なのかな?
「もう少し、格好の良い紋章にしないと、子孫に嘆かれますよ。あの七芒星、本当に趣味が悪いと私も心底、嫌なのですから」
ふぅ、それと他の貴族の紋章と被るのは駄目だとか、色々言われると、混乱しちゃう!
「ペイシェンス様のお印とかは無いのですか? 初代の子爵として、薔薇とか女の人らしいのでも良いのですよ。初代特権です!」
「お印は、いちごの花ですわ。これはいちごも少し葉っぱの裏から見えていますが……」
ハンカチを取り出して見せる。
「こんな可愛いお印なのですね! 本人は非常識なのに」
酷い! もう口を利きたくない気分。
「どちらにしても食べ物系から離れていませんね」
うっ、それはそうかも? 元ペイシェンスなら、薔薇をお印に選んだだろうね。
「本に薔薇は、どうでしょう? グレンジャー家の本にペンのアレンジですが……」
私は苺の花の可憐さが好きだよ。それに食べられるから! でも、格好を少しは付けなきゃいけないのかも?
「本に杖はどうでしょう? 魔法使いらしくて良いと思うのですが」
ゲイツ様は、魔法省推しだからね。油断すると、ぐぃぐぃ押してくる。
「でも、パーシー様と結婚したら、そちらの紋章を使うのに、必要無いのでは?」
そう、それもあったから、馬車にもグレンジャー家の紋章を付けたんだ。お嫁に行く時に、モラン家のに変えたら良いかなと思って。
「それは、普通の令嬢の話でしょう。ペイシェンス様は、国王陛下から子爵に叙されたのですから、そちらが優先ですよ」
ガァン! 何だかショック! そりゃ、そうかもしれないけど……。
「大体、ペイシェンス様の功績に対して、子爵だなんてケチくさいですよね! まぁ、まだ未成年だから仕方ない面もありますが」
こちらの成人年齢、十五歳から十六歳。つまり、王立学園を卒業したら成人扱いみたい。庶民は、もっと若いのかも? 少なくとも働き出すのはね!
「杖は使った事もありませんから、ちょっと……」
これは断っておく。魔法省にまっしぐらの紋章は嫌だからね。
「ううんと、馬の王を……まるで、あの王国みたいですわね」
これも却下だよ! 他国の国旗を真似するのは良くないからね。
「ふぅむ、本に薔薇でも良いと思います」
つまり考えるのに飽きたみたい。他人事だからね。
「もう少し考えて決めたいと思います」
ちょっと考えていたゲイツ様だけど「まぁ、なんとかします」と答えた。
「えっ、それって拙いのでは?」
これは、近々に決めなきゃ! パーシバルとも相談して決めたい。だって、いつかは私たちの子どもが受け継ぐんだから。きゃあ! 恥ずかしい!
「ペイシェンス様?」
ゲイツ様が色恋沙汰に疎くて良かったよ。
「では、先ずは、ゲイツ様の紋章が入った指輪を作ってみましょう!」
それをジッと見られていても、遣り難い。アルーシュ王子、昨日はごめんね! 空気中の魔素を集める遣り方に興味あったから、凝視しちゃって。
「ゲイツ様は、サティスフォード子爵に依頼されている冷凍庫を作って頂きたいですわ」
一つずつ片付けていきたいからね!
「それは、後で一緒に作りましょう。そのくらいペイシェンス様でも作れるでしょう!」
うっ、気持ちを逸らす作戦失敗。
気を取り直してプラチナで紋章付きの指輪を作る。かなり大ぶりな指輪になったけど、魔石の極小なら入るようしたから仕方ないね。
紋章の下を分厚くして、開けて魔石を交換できるようにしている。
「ここの土台部分をミスリルにして、魔法陣を刻むのですか?」
描くより、刻んだ方が良いと思う。
「その前に魔法陣を小さくしないと!」
今日は、ここまで! お茶の時間だからね! パーシバルと弟達と一緒の時間は、絶対に譲れない。




