この盾は駄目?
お茶を終えて、ゲイツ様とパーシバルと三人で、室内訓練所に行く。
サリエス卿とユージーヌ卿は、夕食まで学生達や領兵達を鍛えたいと言っていたが、外で訓練してもらう事にした。
「走り込みには、外の方が良いだろう!」
ユージーヌ卿のやる気に、ジェニーとリンダは悲鳴を押し殺していたけどね。悲鳴なんてあげたら、倍走らされそうだもんね。騎士とか体育会系のノリだから。
私達三人は、訓練所で盾の検証をしてもらう。
「これは? 半透明な盾ですか?」
パーシバルが部屋から持ってきた盾を差し出すと、手に持って調べる。
「ふむ、ふむ……えええっ! これは反射機能のある守護魔法陣ですか? こんなの何処で? いえ、ペイシェンス様だから、思い付かれたのですね!」
魔法陣を見ただけでわかるの? 何だか負けた気分になる。
「試してみて良いですか?」
浮き浮きと、盾を的の前に立てる。
「壊さない程度にして下さい!」
ゲイツ様の全力なんて、盾もだけど、訓練所も壊れそうだよ。
「それより、反射が怖いので、防護壁の後ろにいた方が良いですよ」
いや、だから怖い反射が来ない程度でとお願いしているのだ。
「ペイシェンス!」と手を引っ張られて、防護壁の後ろにパーシバルと行く。
「先ずは、あまり危険性が少ない風から試しましょうか? 風よ、盾を切り裂け! ウィンドカッター!」
いや、いや、ルーシーのウィンドカッターとは別物だよ! ビシッと風の刃が盾に当たる。
「おや、本当に反射しますね。ペイシェンス様、どの様な魔法陣を考えついたのやら?」
どんどん他の魔法も試している。やはりゲイツ様は、自分に反射しない角度で魔法を当てているみたいだ。
「あのう、そのくらいで良いのでは?」
魔法が強くなっている。盾は大丈夫かもしれないけど、訓練所に反射していく魔法が怖い。
ぶつぶつ、盾を持って呟いているゲイツ様に声を掛ける。
「ペイシェンス様、これは前に王宮に掛けた守護魔法とは、全く別物ですね。あれは、流行病を中に入れない様にする為で、どちらかと言うと浄化する膜を張る感じでした。今回は、竜のブレスを弾こうと考えて作ったのですか?」
はっきりと、そう考えた訳じゃ無いけど、パーシバルが木の蛇との戦いで傷ついたのがトラウマになっていたのかも? でも、目を治療したのは、内緒だから言えない。
「この盾は使えないのですか?」
これが重要! 魔法を反射したりして、周りに被害が出たら大変だからね。
「ペイシェンス様? 相手と同じ方向に反射するのだから、使えるに決まっているでしょう」
ああ、そうか! テストで魔法攻撃しているけど、本来は反対側にいるのだからね。
「では、使えるのですね!」
ゲイツ様が微妙な顔をする。
「これは、パーシバルへのプレゼントなのですか? 彼が盾を使っているのを見たことが無いのですが?」
それ! 忘れていたんだ。大失敗だよね。
「騎士コースで盾の使い方も一応は習いました。今日もサリエス卿に修業をつけて貰ったのですが、私が使って良いものかどうか……」
パーシバル、この盾が気に入ったのだ! 作った甲斐があったよ。
「パーシー様の誕生日プレゼントなのですから! 使いたいなら、使えば良いのでは?」
ゲイツ様が「そんな非常識なプレゼントを!」と喚いている。
自分だって、非常識なプレゼントを贈っているじゃん!
「一度、ペイシェンス様には、常識の範囲内のプレゼントについて、母から教育して貰わないといけませんね」
えっ、ベネッセ侯爵夫人に? それは、遠慮しておきたい。
「それは、ゲイツ様にお任せしますわ。常識について学ぶ必要がありそうですから」
どちらが非常識なのか言い争いになりそうになった。
「この魔法陣は、人に見せて良いものなのでしょうか?」
パーシバルが本題に戻してくれたよ。
「駄目に決まっているじゃありませんか! ああ、またこれを隠匿する魔法陣を考えなくてはいけないのですよ! 今夜は、マッドクラブ尽しにして貰いたいです」
それは、エバのことだから、心得ていると思う。
「これを国王陛下に献上しなくてはいけないのでは?」
あっ、忘れていたよ! 守護魔法のマントも献上したんだよね。
「国王陛下にねぇ……別に良いんじゃないでしょうか? 陛下が竜の討伐に参加する事は無いでしょうから? それより、作れるなら討伐隊に配った方が良いですよ」
ここの辺りが、ゲイツ様の判断で良いのか? 私にはわからない。
「あのう、少し考えた事があるのですが、それを作っても良いものか分からなくて。でも、実際に作れるかどうかは、不明なのですが……」
ゲイツ様だけじゃなく、パーシバルにも「何を作る気ですか!」と詰問された。
訓練所の椅子に座らされ、二人に厳しい目で見られる。
「ええっと、誕生日プレゼントの盾が駄目なら、ハンカチに刺繍をしようと思ったのです」
二人が、ホッと息を吐いた。でも、すぐに疑念を抱いたみたい。
「ペイシェンス様の事だから、普通の令嬢が婚約者に贈る刺繍したハンカチではないのでしょう?」
うっ、ゲイツ様に読まれている。まぁ、考えている物があるって匂わせているからね。
「ハンカチに守護魔法陣を刺繍したら? と考えて、それなら普段はマントは羽織らないから、ベストとかに刺繍して、背中に魔石を付けたらと考えたのです」
パーシバルが驚いている。やはり、駄目なのかも?
「やはり、ペイシェンス様は王宮魔法師になるべきです!」
ええっ! 嫌だよ! 私は、領地を改革しながら、チマチマとした生活便利グッズと美味しい料理を考えたい。
「それこそ、国王陛下に献上するべき品だと思いますよ」
パーシバルは、いらないのかな?
「外交官が着ては駄目なのでしょうか? パーシー様やナシウスが外国に行くなら作りたいのです。危険な目に遭うかもしれませんから。それか、アルーシュ王子の指輪の様な物とか?」
ゲイツ様とパーシバルが頭を抱えている。
「もしかして、竜の素材が欲しくて、キャッサバの輸出の可能性をアルーシュ王子に教えたのですか?」
パーシバルは、外交関係の考え方ができるんだね。私は、単にタピオカミルクティーが飲みたかっただけだ。やはり、外交官に向いていないや。
「ペイシェンス様は、外交官より、王宮魔法師に向いています。陰謀や策略は、私とサリンジャーが受け持ちますから、防衛や衛生面をやって下さい」
防衛? 何か引っ掛かる。魚の小骨が喉に引っ掛かっているみたいで気持ち悪い。
「ペイシェンス様、何か思いついたのですね! よく考えるのです! きっと凄い事に違いありません!」
ゲイツ様に言われて、何が引っ掛かっているのか考える。
「ああああ! この反射する守護魔法陣で王都や館を覆えば、竜が来ても被害を受けないのでは?」
そう、この魔法陣を考えた時のバリアは、このイメージだったのだ。
ゲイツ様が真剣な顔になる。
「魔石では無理でも、カザリア帝国の蓄魔システムを使えば可能か?」
パーシバルも真剣な顔だけど一言注意された。
「ペイシェンス、より問題を大きくしている気がします。もしかして、アルーシュ王子の指輪の機能がついた指輪も考えているのですか?」
パーシバルには持って欲しいから、頷く。
二人が地面に座り込んだよ。
今日から新作を発表します。
『クズ聖王家から逃げ出し、自由に生きるぞ!』
今回の主人公は、これまでと違っています。ペイシェンスやユーリみたいな優等生ではありませんが、基本はお人好しです。
クズな聖王家から逃げ出すまで、少しストレスが多いですが、かなりポンコツな女神の加護を受けて、冒険者として仲間とわちゃわちゃやっていきます。




