鬼の居ぬ間に!
タイムリミットまで、後二日! ゲイツ様が来るまでに、色々としたい。
「お嬢様、もう起きておられたのですね」
そう、一分たりとも無駄にはできないからね!
メアリーに髪の毛を整えてもらいながら、スケジュールを整理して、メモを書く。
一、嵐の被害を受けた住宅数を調査する。→モンテス氏に任せる。
二、パーシバルとデート!
三、小型の持ち運べる冷蔵庫を作る!→これは後でも良い。
四、弟達と遊ぶ!
五、アクセサリー作りのパーツを作る。→見本を作った後は、クラリッサに任せる。
六、グレンジャー館でお茶やランチができるようにする。
アクセサリーや水着、ボディボード、フロートなどの売店? →改装はラドリー様、ホテル改装についてはアダムに任せる。
七、冷凍庫車を作る。→これはゲイツ様に手伝って貰う!
八、騎士の家、使用人の家、そして宿屋、貸家を改修又は作る。→モンテス氏に調査してもらいラドリー様に依頼!
九、真珠の養殖の可能性を調査。→ベッカム教授に依頼!
十、ステンレスのカトラリーを領地の鍛冶屋で作れるか調査!→モンテス氏かな?
十一、教会の修繕と建て替え!→なるべく、地元の大工を使う!
十二、地元の商店のテコ入れ!→食堂は見た目を良くする。味は良い! 万屋は、エクセルシウス・ファブリカの製品を安く下ろす? モンテス氏と要相談!
十三と書いた時点で、メアリーが「オルゴール体操の時間ですよ!」と声を掛けた。
書いてみたら、やるべき事がはっきりした。オルゴール体操をした後は、モンテス氏と話し合おう!
領地の事を話し合った後は、今しかできない事!
午前中は、弟達は勉強だ。つまりパーシバルとデート! やったね!
浮き浮きとオルゴール体操を済ませる。
朝食の席で、パーシバルとデートの約束をしようとしたけど、何処に行けば良いの? 何をしたら良いのか? よくわからなくなった。
そういえば、この異世界でデートって何をするの? これまでパーシバルとカルディナ街やバザールの買い物デートしかしていない?
いや、去年の夏休みにモラン伯爵領でボートに乗ったのは、デートっぽかったよね?
ふぅむ! 海水浴は、弟達も誘いたい! モラン伯爵領まで二人で行ってボートに乗る? 二人で話し合おう!
朝食の間、ずっと考え続けていた。
「お姉様、どうなさったのですか」
ヘンリーに心配されちゃった。
「大丈夫ですよ。ヘンリーはちゃんと勉強しましょうね」
そう言って、子ども部屋へと送り出す。
パーシバルと一緒に執務室でモンテス氏から報告を受ける。
「雨漏りしている家の屋根の修理ですが、大工達にやらせています」
地元の大工を使うのも必要だと思うけど、ついつい魔法の方が早いのではと考えちゃう。
業務連絡として、ノースコート伯爵館に滞在している貴婦人や令嬢をグレンジャー館でお茶やランチでもてなす件を話す。
「それは、アダムと相談してみます。いずれグレンジャー館を高級ホテルにするなら、少し改装もしなくてはいけないでしょうから」
そうか! ただお茶が飲める、ランチが食べれるだけじゃ駄目なんだね。
「その件は、お任せしますわ。プランを作ったら、ラドリー様に依頼しなくてはいけませんね」
ラドリー様だけでなく、ゲイツ様も来られるから、私の生活がどうなるのか予想不可能なんだよね。
コンコン! とノックされた。モンテス氏が少し驚いた顔をして、私の顔を見る。
朝食後のこの時間は、いつもモンテス氏との打ち合わせだ。時によって、そこにアダムやメーガンを参加させる事もあるけどね。
「どなた?」と聞くと「ミッチャムです」と返事があった。
ああ、アルーシュ王子の件だ! 昨夜告げたのだけど……テンパったのかも?
「お入りなさい」と告げたら、青い顔のミッチャム夫人が入って来た。これ、夜寝てないんじゃないかな?
「アルーシュ王子とザッシュ様の件でしょう? 王族扱いしなくて良いと本人が言われたのだから、大丈夫です」
まぁ、そう言われても困るよね。
「ミッチャム夫人、アルーシュ王子は、本当に気取らない方です。それに、彼方から押し掛けて来るのですから、王族扱いしなくても良いですよ」
私と同じ事を言っているのだけど、パーシバルの方が世故に長けていると思われているのかな? ミッチャム夫人が頷いた。
「それに、ゲイツ様と一緒に来られるのだから、アルーシュ王子も我儘を言われるような事は無いわ。それに、寮で生活されているぐらいですもの」
最低限、自分のことは自分でできるよね? 男子寮の事は知らないけどさ。
「従僕を連れて来られるでしょうから、アルーシュ王子やザッシュ様の個人的なお世話はするでしょう」
やっとミッチャム夫人がホッとしたみたい。そうか、王立学園で王族慣れしちゃっているけど、そちらが普通の反応なのかもね。
さて、朝の打ち合わせが終わったから、パーシバルとデート! でも、何をしよう?
「ペイシェンス、馬の王で遠乗りしましょう!」
えっ、予想外の提案だよ。そりゃ、馬の王も走りたいだろうけど?
「プッ、ペイシェンスは本当に乗馬が苦手なのですね」
「ええっ、揶揄ったのですか?」
二人でいちゃいちゃ言い争う。こうやって話しているだけでも楽しいね!
「でも、ペイシェンスはしたい事があるって顔に描いてありますよ」
「ええ、いっぱいありますわ。特にパーシー様とデートしたいのです」
やった! デートだ! と浮き浮きしたけど、結局は馬の王でグレンジャー館に遠乗りになった。
「ペイシェンスが全てを人任せにするなんて考えられませんよ」
パーシバルに見透かされちゃった。
「ええ、何個か考えているのですが、それがグレンジャー館に相応しいか確かめたいのです。イメージを固めたら、ラドリー様が上手く作って下さると思うのです」
「それは、重要ですね!」などと、少しいちゃつく。
グレンジャー館への遠乗りは、ベリンダとエルビス卿が護衛についてくれた。
「馬だと三十分も掛かりませんが、馬車だと小一時間掛かりますね」
道も整備されているけど、馬車はねぇ……馬車鉄道! レールの上を馬車が走る! これ、良いアイデアだと思う!
「ペイシェンス! 次々と思いつくのは良いですが、先ずは一つずつやっていきましょう」
グレンジャー館は、小高い丘の上に建っている。
「このテラスからの海の眺め! 素敵だと思うわ。ここで、お茶やランチができたら良いと思うの」
パーシバルとテラスからの眺めを楽しむ。
「ええ、良い景色ですね! でも、ご婦人方は日焼けを嫌がられるかもしれませんよ」
パーシバルの方が貴族の考え方に詳しい。母上やお姉様がいるからかも?
「屋敷から大きなサンシェードを出しても良いし、テーブルの周りに日傘を立てても、楽しい雰囲気になるわ」
サササッとスケッチして見せる。
「これは素敵ですね!」
これから盛りのラベンダーやローズマリーなどの香りの良い植物を植えても良い。それに、つる薔薇も!
デートらしいデートにはならなかったけど、二人で色々と話し合って決めるのって楽しい!




