少女歌劇団、プレ公演
夏の離宮では、顔見知りのシャーロット女官が出迎えてくれた。私が持参した大きな箱に少し驚いていたけどね。
ここで、メアリーとミアとは別れる。お付きの人部屋があるみたい。今回は、ずっとそこにいるのかも?
「あれは、何が入っているのでしょう?」
シャーロット女官に説明する。
「王妃様が少女歌劇団のパトロンをされると聞きましたので、少し役に立ちそうな品をお持ちしました。時間がありましたら、お見せしたいですわ」
こう言っておけば、できるシャーロット女官が、隙間時間に見せてくれるだろう。説明しても良いけど、見たらわかる物だからね。
「では、部屋に案内させて頂きます」
私は、マーガレット王女やリュミエラ王女達がいる部屋に案内されるのだと思っていたが、そこは国王陛下と王妃様とラフォーレ公爵しかいなかった。
若者部屋に案内して欲しかったよ! なんて顔には出さず、声が掛かるまで頭を下げておく。
「ペイシェンス! よく来てくれたわ。それに、何か良い考えがあるそうですね」
頭をあげると、椅子に座るようにと言われた。アンジェラ、大丈夫! きっと話が終わったら、若者部屋に行けると思うから。
「箱に入れて持参いたしました」と言い終えると、離宮の従僕が運び込む。
「何が入っているのだ? 王妃は少女歌劇団が上手く行くのか、とても案じているのだ」
国王陛下、それより大変な竜問題もあるのに、夏の離宮で少女歌劇団の案件に引っ張り回されているのですね。休暇になったのかな? 他国の王族も大勢いるし。
「では、ご説明致します。このペンライトは、王立学園の収穫祭でも使った物です」
興味を持った国王陛下、王妃様、ラフォーレ公爵に、シャーロット女官が一本ずつ渡す。
「ここを押すと、光ります。何色もあるのは、歌劇団のお気に入りの歌手ごとに色を変えるからです。そして、自分のお気に入りの歌手の色を購入したら、その歌手の収入にもなるシステムにすれば、人気歌手を引き抜かれる心配も少しは解消されるかと考えました」
王妃様がパッと笑顔になり、手を叩く!
「ペイシェンス! よく考えました! パトロンになった他のご婦人方と、この件で悩んでいましたのよ」
ラフォーレ公爵は、あまりピンと来ていないみたい。まぁ、この公爵には、金銭面でのパトロンに徹して貰おう。
「モラン伯爵夫人もパトロンの一人だから、パーシバルから聞いたのか? それにしても、ペイシェンスの発想力は素晴らしい」
国王陛下に褒めて貰えたよ。でも、次の品物を説明しなくては。
「ペンライトは、安い価格で販売した方が良いと思うのです。劇場で、ペンライトが振られると、演出効果もありますから。それで、トップスターには、こちらのバッグの売り上げからも収入があればと思いましたの」
今度は、王妃様の前にだけバッグを並べた。
「まぁ! とても可愛いバッグだわ。これなら、買いたいと思われる方も多いと思いますが、同じバッグを持つのは嫌がられるかもしれません」
あっ、そうだった! ここは、既製品はないのだ。
「それは、中の刺繍を変えれば宜しいかと……」
王妃様は、にっこりと笑う。パトロンの貴婦人方と話し合って決めて欲しい。
「後は、ブロマイドを売っても良いと思いますわ。絵姿を白黒で印刷して、絵の具で色を付ける程度の物ですが、役柄の姿ごとに作れば良いかと」
王妃様は、満足そうに頷いている。自分たちで決めるのが気にいったのだ。
「ペイシェンス、本当にありがとう」
これで私の少女歌劇団との関わりは終わりだ。観劇に行ったりはするけどね。
ラフォーレ公爵は、何か言いたそうに口を開けては閉めてを繰り返している。国王陛下や王妃様がいらっしゃるから「新曲を作ってくれ!」とか言えないのだ。お生憎様だね!
「ペイシェンス、領地の被害は少ないと報告を受けてはいるが、新任の土地で大変だと思う。何か援助が必要なら、遠慮なく申請してくれ」
部屋を退出する前に、国王陛下が側に来て言ってくれた。
「ありがとうございます。お陰様で被害も軽微でした。お心遣い、感謝致します」
これしか返答はない。ここは、王政なのだから。領地を拝命した限り、そこを返上するまでは私が全責任を負わないといけないのだ。
若い王族達の部屋、ああ眩しいほど美しいマーガレット王女とリュミエラ王女、恋する乙女の輝きに満ちている。
「まぁ、ペイシェンス、パーシバル、アンジェラ! いらっしゃい!」
ご機嫌の良いマーガレット王女に手招きされる。アンジェラは、ジェーン王女とカレン王女の方へと招き入れられる。
「今日は、とても楽しみなの! アルバートも来ているけど、今は少女歌劇団の世話をしているのよ。プレ公演が失敗したら大変だと神経質になっているのよ」
それは、近づきたくないかも? 青葉祭の新曲発表会でもテンパったアルバートは、ぎゃーぎゃー喚いていたからね。
「しっかり練習しているでしょうから、大丈夫ですわ。それと、応援グッズを持参致しました。こちらにも運ばせて宜しいでしょうか?」
見本はいっぱい作ったから、実際に少女歌劇団を観に行く年頃の王女様たちにも披露しておこう。
劇場で、他の女の子達が応援グッズを持っていたら、疎外感を持つかもしれないからね。
「ふふふ、これは考えたわね! きっと男装の歌手もいそうだから、率先して応援する事にするわ」
マーガレット王女は、ブルーのペンライトを持った。横のパリス王子はグリーン!
仲良く振ってみては、くすくす笑っている。箸が転んでもおかしい年頃だね!
アンジェラは、ピンク! ジェーン王女は、イエロー。カレン王女は、赤を選んだ。
キース王子、オーディン王子、アルーシュ王子の分ではないよ。リチャード王子は、さっと見て本数が足りないのを察したのか、少女歌劇団に一歩引いているのか、そこはわからない。
「少女歌劇団の公演が始まります」
シャーロット女官が呼びに来たので、全員で移動する。
ちゃんと舞台があり、気晴らしに劇団などを呼んで公演ができる設備がある。
席は、サロンみたいになっている。特等席は、勿論、国王陛下と王妃様! その横にラフォーレ公爵が座っているのは、解説とかする為かな?
「ペイシェンス、パーシバル、一緒に座りましょう!」
マーガレット王女とパリス王子、リチャード王子とリュミエラ王女、その横に私とパーシバル。
アンジェラは、ジェーン王女とカレン王女と一緒に座っている。こちらは、縁談はあるけど交際はしていないからか、男女別々だね。
キース王子がオーディン王子、そしてアルーシュ王子と座る。
全員が席に着いたら、幕が開いて、アルバートが挨拶する。
「国王陛下、王妃様、そしてご来席の方々、これから少女歌劇団のプレ公演を行います」
さて、どんな舞台になるのかな? 期待で胸がドキドキするよ!




