夏の離宮へ行くよ!
ラシーヌと夏の離宮に着ていくドレス、それに髪型まで打ち合わせしたから、朝はゆったりと過ごす。筈だったけど、持っていく荷物を厳選したりしながら、アンジェラとわちゃわちゃ楽しんだ。
「これ、素敵ですわ! 少女歌劇のファンでなくても欲しいです」
少女歌劇の推しファンの為のグッズ、ペンライトだけじゃ弱い気がして、領地にも持ち込んでいたカルディナ帝国の鮮やかな絹で、小さなハンドバッグを何色かお針子組に作らせたんだ。
私は、カルメン・シータしか会っていないけど、情熱の赤! ミニハンドバッグも赤にして、キラキラビーズで薔薇を刺繍してある。
「赤やピンクも素敵ですけど、このブルーやグリーンも可愛いわ!」
ピンクも同じ薔薇だけど、赤の薔薇は高芯咲き。ピンクの薔薇は、カップ咲きだよ。
青は、アイリス! グリーンは白い百合! 花は、これからパトロンの貴婦人達で選んでも良いと思う。
それぞれ、応援する歌手のイメージに合った物が良いからね。それに、これはあくまで見本だから、作るのは他に依頼を出して欲しいな。
「お嬢様、そろそろ着替えませんと」
夏の離宮は、昼から招待されているから、早昼を食べてから着替える。
昨日、打ち合わせした通りの綺麗な青のドレス。バイヤスカットさせているから、ドレスが流れるみたいなんだ。
惜しいのは、もっと背が高ければ、見事だったことだね。
昼だけど、このドレスは長めに作ってある。ほぼ足首まであるんだ。社交界デビューの後は、足首も隠すのがマナー。
だから、王立学園でも中等科三年になると、スカート丈をぐんと伸ばす女学生もいるけど、私は脹脛ぐらいで良いと思う。だって、年齢が十三歳だからね。
ロマノ大学に通う時は、裾をもう少し伸ばすけどさ。お子様だと思われるのは癪だから。
「お嬢様、夏休み中に背が伸びられましたね! もう少し長くしておけば宜しかったのに」
足首が全部出ているのをメアリーが嘆く。でも、私の年齢的には良いんじゃないかな?
髪型も決めていたから、ゆるふわに纏めてもらう。共布のリボンを緩い三つ編みに編み込んでいるから、なかなか可愛い。
仕上げに、眉を少し描き、ホワイトチョコレートのリップでピンク色の艶々唇にして、出来上がり。
「まぁ、ペイシェンス! とても素敵だわ! そうね、社交界デビューするのですから」
ラシーヌに凄く褒められた。嬉しいね!
私より先に支度が出来ていたパーシバルが、立ち上がって椅子に座るのをエスコートしてくれる。
「ペイシェンス、本当にそのドレス似合っているよ」
婚約者として、褒めてくれるの、とても嬉しいね。婚約指輪のオパールがキラキラしている。
「アンジェラは、まだかしら?」
まだまだ夏の離宮へ行く時間まであるのに、ラシーヌはそわそわしだす。
「皆様、遅れて申し訳ありません」
ああ、これはミアでも手間取ったのだろうとわかる複雑な髪型だった。編み上げた髪を二つに纏めて、そこからくるくるにカールさせて落としている。ツインテールの変形版だ。
「アンジェラ、そのドレス、とても似合っているわ!」
私のはスカイブルー、アンジェラのは淡いパステルグリーン。二人が並ぶと姉妹みたいに見えるんじゃないかな?
結局、夏の離宮には馬車一台で行くことになった。私、パーシバル、アンジェラ、メアリーとミア。
少し窮屈だけど、サティスフォードから夏の離宮までは、三十分程度だからね。
ラシーヌ的には、付き添いはミアだけで良いと思っていたみたい。だって海水浴とかしないからね。コンサートを聴いて、お茶を頂くだけだから。
でも、メアリーの頑固に拒否する目に負けたみたい。で、メアリーだけにしようかと思ったけど、ミアの泣きそうな目に負けたんだよ。
席は、私とパーシバル、反対側は窮屈だけど、アンジェラ、メアリー、ミア!
「私は別の馬車か馬で行っても良いのですが?」
パーシバルが提案したけど、ラシーヌ的には婚約者同士が別の馬車は考えられないみたい。
でも、アンジェラを一人では行かせられないから、こんな事になったんだよ。
まぁ、アンジェラは華奢な女の子だし、メアリーもミアも痩せているから、大丈夫だよね。
「緊張いたしますわ」
ああ、アンジェラは、ジェーン王女、カレン王女とは同級生だから、少し気楽だけど、他の王族は上級生だからね。
「マーガレット王女とリュミエラ王女は、とても優しい方ですわ。それにパリス王子はカレン王女の兄上よ。キース王子は、細かい事にうるさくない方だわ」
うん、ちゃんと説明したねと、満足した私だけど、パーシバルがプッと噴き出す。
「ペイシェンス、苦手なオーディン王子をわざと忘れたのですか? ああ、アンジェラ様、大丈夫ですよ。彼はスレイプニル愛が激しい所以外は、とても良い人です」
アンジェラは、私が乗馬が苦手なのを知っているから、笑って頷く。
「アルーシュ王子を飛ばしたのは、ハープシャーに来て欲しくないという思いからでしょうか?」
アルーシュ王子、初対面の時のヤンキー傲慢王子ではなかったけど、王族を迎えるのって、少し気が重いんだよね。
「あっ、ザッシュ様も一緒でしょうか?」
パーシバルも首を捻る。
「さぁ、どうでしょう? 初めて見た時は、アルーシュ王子の側仕えっぽいのかと思っていましたが、割とフリーですよね。興味があれば来るのでしょう」
そんな話をしている間に夏の離宮に着いた。
護衛していたローラン卿、ベリンダ、サティスフォードの兵士達は、ここで別れる。
夏の離宮は、王族が招待した人しか入れないのだ。侍女は別だよ。
「あちらの控えの部屋でお待ちしております」
兵士達に、少し嵩張った推しグッズが入った箱を下ろして貰い、夏の離宮の召使に渡して貰う。
さて、少女歌劇団はどんな風に仕上がったのだろう。楽しみだね!




