縁があっても、恋には落ちないよ!
アクセサリーとリボンやレースをいっぱい買って満足した私とアンジェラは、弟達へのお土産を買ってくれたパーシバルとサティスフォード子爵と合流した。
「ペイシェンス、あの龍部隊の別本があったので購入しておきました。それと、子ども向きの娯楽本も数冊。後は、カザリア帝国の寓話集がありましたので、購入しました。これはグレンジャー家の図書室にあるかもしれませんが」
「パーシー様、ありがとうございます。弟達もお父様も喜びそうですわ」
父親も娯楽小説を気晴らしに読むみたいだし、カザリア帝国の寓話集なんかグレンジャー家にあったかどうかわからないけど、今、カザリア帝国の歴史本にハマっているみたいだから、喜びそう。
それに弟達も、雨の日とかに娯楽小説なら読みそうだよ!
「ペイシェンス様はいっぱい買い物をされたようですが、食品や香辛料を買いたいのですね」
あのファンシーな店に、そんな感じの物がないのは明らかなので、今度はサティスフォード子爵の案内で前に行った事がある商店に行く。
「パーシー様、バナナも買いたいのです。あれは、領地では作れそうにありませんから」
パーシバルもチョコレートバナナを食べたから、笑って了解する。
「ペイシェンス様、あの美味しかったチョコレートバナナを作られるのですか?」
あっ、そうだった! アンジェラは食べたのかもね。ラシーヌは、美麗様の事が気になって、それどころでは無かったかも?
「ええ、作ったらアンジェラにも持って行かせますよ」
夏場だから、保冷剤をいっぱい入れておけば……小さな持ち運びできる冷蔵庫を作れば……駄目駄目、パーシバルとバザールデート中なのに!
錬金術に目がないのは、私の欠点かも?
「ペイシェンス、また何か思いついたのですね。貴女の発想力は素晴らしいのですから、それを押し殺さないで下さい。私は婚約したからといって、貴女が自由に行動するのを制限するつもりはありません。ただ、相談はして欲しいですけど」
ああ、やはりパーシバルは良いよね! 自由にさせてくれるけど、緩く抱きしめてくれる感じが。
あの非常識な盾も、相談してから作れば良かったなぁ。
「子爵様、今日はどう言ったご用事で?」
前に来た商店で、応接室に通されて、香りの良いお茶と甘いお菓子の接待を受ける。
「こちらのペイシェンス様が香辛料と変わった食材を探しておられるのだ」
後は、私に任せてくれるサティスフォード子爵、分かっているよね!
「前に購入した香辛料とバナナ、パイナップル、それとキャッサバを買いたいのです」
メロンやスイカは、自領で栽培できるようになったから、買わないよ。
「キャッサバでございますか? あれは、あまり人気が無いのですが……倉庫に在庫があるか調べさせます」
あっ、キャッサバはこの店ではなく、他の店で買ったのかも? あれば良いな。
アンジェラは、食品や香辛料に興味が無いと言うから、子爵と応接室で待って貰う。
たまには、パパとお話しするのも良いよね。私も、父親と話をして、名前の由来を聞いて良かったから。
まぁ、アンジェラは天使、本当に可愛くて愛が籠った名前だから、聞くまでも無いと思うけどさ。
店をパーシバルとベリンダ、そしてローラン卿と見て回る。なぜ、ローラン卿が一緒なのか? 少し首を傾げたけど、直ぐに分かった。
私達が応接室で接待されている間に、ちょっと目立つ人が店に入ったから、ローラン卿の警戒度数が上がったのだ。
「おお、ペイシェンス様! ご縁がありますね」
ここでは、ドロースス船長と呼ぶべきなのか? それともグラント提督と呼ぶべきなのか?
私が困惑していると、スッとパーシバルとベリンダが間に入る。
「ははは、そんなに警戒しないで下さい。今は、引退したドロースス船長として、輸入する品物を買い付けているだけですから」
にっこりと笑うと、日焼けした顔に愛嬌が出る。ナイスミドルだけど、私は生憎ショタコン! それに、パーシバルの婚約者だからね。全く心は動かない。
「この前は、ゲイツ様にとてもお世話になりました。夏休みは、ペイシェンス様の領地で過ごされると聞いております。一度、お訪ねしたいと思っております」
そちらは、元グラント提督の案件かな?
私には、国際問題は荷が重いので、パーシバルの顔を見る。任せて欲しいと顔に書いてあるから、任せよう!
「ゲイツ様は、夏休みを海がある田舎で、思いっきり美味しい料理を楽しみたいと考えておられるみたいです。ややこしい外国との交渉は、王都の父とお願いします」
つまり、領地に来るのはお断り! と婉曲に言ってくれた。
それは、嬉しいよ! これ以上、パーシバルと弟達との夏休みを邪魔されたくないからね。
「なかなか、外務大臣の息子さんは手厳しい! でも、ペイシェンス様の美味しい料理には、私も興味がありますね。リヴァイアサンを討伐して下さったお礼に、王宮で慰労会を開き、感謝を伝えたいとの国王陛下の申し出より、ペイシェンス様の料理を優先して帰られたのですから」
ああ、リヴァイアサン尽くしの昼食会を開かされたね。サリンジャーさんが、陛下がお待ちだと一旦連れ帰った後。
「ゲイツ様がどう考えられているかなんて、私達には伺いしれませんわ」
私も婉曲にお断りしておこう。でも、そんなのが通じる相手ではない。
「ノースコート伯爵家での食事も、ペイシェンス様の料理人が作られたのでしょう。とても美味しかったです! 是非、もう一度味わいたいです」
ぐぃぐぃ押されると、元ペイシェンス仕込みのマナーが私を責める。このままでは押し切られてしまう!
「ゲイツ様の許可があれば……」
自分でキツく断るのを避け、逃げてしまった。
「ありがとうございます! ゲイツ様に手紙を書きましょう」
私の手にキスして笑うグラント提督。こうなったら、ゲイツ様に断ってもらおう!
「ペイシェンス様、キャッサバがございましたよ!」
店主がやってきたので、グラント提督との話は終わった。
今回は、キャッサバだけでなく、店内でさつまいもっぽいのを見つけた。食べてみないと味はわからないけど、甘いと良いな。領地でも増やしていきたい!
それと、半貴石は箱ごと買い上げた。これで、アクセサリーをいっぱい作らせよう!
ほくほくとして、帰りの馬車に乗ったけど、パーシバルが少し不機嫌だ。いつもポーカーフェイスだけど、ずっと一緒にいるから分かるよ。
「パーシー様?」と尋ねると苦笑する。
「私は、まだまだだなぁと思って落ち込んでいるのです。ペイシェンスにグラント提督が近づくだけで、はらはらしてしまう」
「ええっ、まさか嫉妬されているのですか?」
驚くよ! 全く興味がない相手だからね。
「だって、英雄ですし、ダンディだから……ハハハ、パティ! 大好きですよ! 本当にグラント提督に興味がないのですね。何回も会うから縁があると考えているかもと、少し案じていたのです」
「まさか! 縁があろうと、絶対に恋なんか落ちませんわ! 私はパーシー様の婚約者なのですから」
いちゃいちゃモードになったのは、仕方ないよね。アンジェラが呆れているかも?




