昼からの訓練
昼食後は、拘束魔法と乗馬の訓練だ。どちらを先にするか、パーシバルと相談する。
「拘束魔法の訓練をしてから馬の王と遠乗りしましょう。正午過ぎは暑いですから、室内の方が良いと思います」
ふぅ、少しだけパーシバルがどちらかだけにしようと言ってくれるのを期待していたよ。
「ええ、そうですわね」
前から、パーシバルは私の護衛術の腕をあげるべきだと考えていたみたい。ベリンダの提案は、丁度良かったのかもね。トホホ。
室内訓練所なんて、ラドリー様が作るから! と八つ当たりしながら、動きやすい乗馬服で向かう。
「あら? ジェニー様やリンダ様も?」
二人とも練習用の木刀を持っている。
「ええ、ベリンダ様に参加するように言われました」
浮き浮きしたジェニーとリンダ。それに、やる気満々のルーシーとアイラ! やる前から、私のやる気はゼロだ。
でも、ナシウスやヘンリーの手前、少し頑張ろう!
「ペイシェンス様、私が襲撃しますから、それを阻止して下さい」
えっ、いきなり! 驚く間もなく、ベリンダが私に向かって走って来る。
「拘束!」と手足を氷で拘束しようとしたけど、ベリンダが火の魔法で溶かしてしまう。それに、夏だから氷も弱い。
「拘束!」目前に来たベリンダの手と脚を金属の腕輪で拘束したけど、倒れながらも「ファイヤーボール!」と魔法攻撃された。
「ウォーター!」で消したけど、これ本気だよぉ!
「ベリンダ、酷いわ!」と抗議したら、砂の上に寝転んだまま笑われた。
「このくらいしないと訓練になりませんよ」
解除したら、今度はジェニーとリンダにも襲撃に加わるようにと声を掛ける。
「えええ、三人掛りなの?」
パーシバルに止めて欲しいと目で頼む。
「襲撃者が複数かもしれません。ペイシェンス、頑張りましょう」
ゲイツ様の方がベリンダより優しい気がする。
三人が同時に前から襲撃すると思い込んでいたのに、ジェニーは私が内心で愚痴っている間に後ろに回っていた。
「拘束!」前からの二人を空気のボールに入れて回転させていると、後ろからジェニーに抱きつかれた。
「えっ!」驚いて、拘束魔法を掛けられない。
「ペイシェンス様、油断大敵ですよ! さっさとジェニーを拘束しなさい」
ぐるんぐるん回りながら、ベリンダが指示する。
「拘束!」空気の輪でジェニーをキツく拘束する。
「解除して下さい」
流石のベリンダもぐるんぐるん回るのは嫌みたい。
「解除!」
ベリンダは、上手く着地したけど、リンダはドスンと地面に落ちた。ジェニーの拘束も解く。
「やはり魔法は素晴らしいけど、もっと容赦なく掛ける覚悟が必要ですね」
ふぅ、私の甘さが弱点なのだ。
私達の訓練を見学していたルーシーとアイラがこそこそと話している。何か企んでいるな!
「お姉様、あのぐるぐる回るのやってみたいです!」
あれは、前世で遊園地にあったからね。
「ええ、ヘンリー掛けてあげますよ。ナシウスやサミュエルもどう?」
二人は遠慮しておくと言うので、ヘンリーに掛ける。
「わぁ! 面白いです!」
気分が悪くなる前に解除したけどね。もっと! って顔で見上げているけど、駄目。
「また今度、掛けてあげます」
ナシウスとサミュエルは、信じられないって顔でヘンリーを見ている。
「ペイシェンス様、私たちと訓練して下さい」
ルーシーとアイラ、何か企んでいるのはわかっているけど、やってみよう。
「えっ、二人だけじゃないの?」
何故か、ジェニーとリンダも攻撃して来る。
騎士だから、近づくのが早い。慌てて空気で拘束している間に、ルーシーから風の刃、アイラからファイヤーアローが飛んでくる。
「ビーム!」で二つともぶった斬り「拘束!」で二人を空気の球に閉じ込めてぐるぐる回す。
「おお、良い反撃だ! 魔法使いは、普通の拘束より、こちらの方が良いですよ」
ベリンダに褒めて貰えたけど、疲れたよ。
「ペイシェンス、大丈夫ですか?」
パーシバルに心配されたけど、私の弱点は理解できた。
「ええ、魔力は大丈夫ですが、少し精神的に疲れました」
この後は、ルーシーやアイラが拘束魔法を掛け、騎士クラブ二人が襲撃役をして、弟達やサミュエルを訓練してくれた。
「ああ、ナシウス! それでは拘束魔法を受けてしまうわ!」
勿論、ルーシーもアイラも本当に危険なら、魔法を解除してくれるのだろうけど、冷や冷やするよ。
パーシバルは、ベリンダと攻守を変えながら、訓練している。剣だけならパーシバルが勝つけど、ベリンダは火の攻撃魔法を剣の攻撃の途中でも混ぜてくる。
特に、パーシバルは相手が女性だから、身体の接触を控えているのに、ベリンダはそこを突いてくる。
なかなか、良い手合わせだと思う。ど素人の意見だけどね。
お茶の後は、乗馬だ。ルーシーとアイラは遠慮しておくだなんて、ズルい! クラリッサは行きたがったけど、カミュ先生が庭で練習しましょうと止めた。まだ遠乗りは無理みたい。
「ペイシェンス様、馬の王に一人で乗ってなるべく早く走らせて下さい」
ベリンダは厳しい。それと遠乗りの護衛に名乗りでたローラン卿も横で頷く。
「でも、私では馬の王は全力で走らないから、不満に思うのでは?」
にっこりとベリンダが笑う。迫力のある笑顔だね。
「そこを練習するのです。馬の王が全力疾走できるように頑張りましょう」
うっ、ベリンダは私の乗馬がどれほど駄目駄目か知らないんだ。 他のメンバーは口は挟まなかったけど、無理では? って顔だ。
パーシバルと一緒だと、つい抱き上げて貰っちゃうんだけど、エア階段を出して馬の王に乗る。
「えっ、それは!」
まず乗り方から、驚かれた。ローラン卿は口にはしなかったけど、腕を組んでいる。
「私は乗馬台がないと乗れないのです。でも、ない場所もあるから、エア階段を出して乗り降りするか、馬の王に跪いて貰うしかないの」
ローラン卿は、馬に跪かせるのは難しいのだと唸っている。
「ふぅ、いずれは素早く乗る練習もしましょう」
ここで時間を掛けるつもりはベリンダにはなさそう。
「ペイシェンス様、どこか行きたい場所はありませんか?」
ローラン卿は、毎日パトロールをしているから、私より詳しいのかも?
「あのう、私も弟達もスライムを見た事がないのです。一度、見てみたいですわ」
サミュエルに呆れられた。
「そんなの何処にでもいるだろう。まして嵐の後だから、森でも湧いているぞ」
「そうなんですね! スライム見てみたいです」
ヘンリーの一言で行き先決定だ。




