推し文化を作ろう!
私が一番告げ難く思っていたのは、ナシウスとヘンリーだ。特に、ナシウスは合宿から帰ってきたばかりなんだもの。
お茶の時間に、パーシバルに促されて、ナシウスとヘンリーに告げる。
「王妃様から夏の離宮にパーシバルと招待されたの。秋に初公演を迎える少女歌劇団の披露公演をされるそうですわ」
ナシウスとヘンリーは、私がマーガレット王女の側仕えだから招待されたのだろうと頷いている。
「アンジェラもジェーン王女の側仕えだから、招待されているの。今年の夏の離宮には、王立学園に留学されている各国の王子様や王女様が招かれているから、ラシーヌ様はアンジェラだけで行くのを心配されているのよ」
ナシウスは、アンジェラと一緒に入学したので、それは心細いだろうと頷く。
「ラシーヌ様から手紙が来て、夏の離宮に行く前の日にサティスフォードに泊まって、アンジェラと一緒に行けば良いと提案されたの」
やっとヘンリーが二日間、私が居ないのだと気づいた。少し青い目が曇る。
「お姉様、ヘンリーの面倒は私が見ますから、アンジェラと一緒に夏の離宮に行って下さい」
横に座っているヘンリーの肩を抱いて、ナシウスが「一緒にお留守番しよう」と笑う。
「ヘンリーの面倒は、私も見るよ! 昼からは乗馬の練習と剣術稽古をしよう」
サミュエルは、他国の王族がいっぱい滞在している夏の離宮にアンジェラが一人で行くのは心細いだろうと思ったのかな?
「お姉様、パーシバル様とアンジェラ様と一緒に夏の離宮に行って下さい。二日ぐらい大丈夫です!」
「ヘンリー、しっかりしてきましたね。そうか、秋には九歳になるのですもの!」
可愛いから抱きしめておく。ヘンリーは、末っ子だからか、まだハグもキスも嫌がらないからね。
一番、私には大変な弟達の許可が出たので、一応は父親にも聞いてみるが「それが良いだろう」だけだった。
まっ、いつも通りの放任主義で、助かるとも言えるね。
「行くなら、ラシーヌ様にもお土産が必要ですわ。彼方もお客様が多いみたいですから、メロンで良いかしら? 離宮にメロンはちょっと……でも、少女歌劇のパトロンになられている王妃様が喜ばれる物は思い浮かぶわ」
パーシバルが横で怪訝な顔をしている。また私がヘンテコな物を作るのではと、疑っているみたい。
「パーシー様、あれはもうご存知だと思うわ。去年の収穫祭で、グリークラブや卒業生達が振っていたペンライトを少女歌劇団でも活用したら良いと思いましたの」
パーシバルも笑う。
「あれは、良かったです。それに演者と観客が一つになる感じがしますね」
うん、でも少しアレンジを加えたいんだ。
「少女歌劇団は、ご婦人や女の子が気楽に見に行けるようにしたいと王妃様は考えておられるのです。でも、一度見たら、もう来ないのでは困るの。それに、これまでとは違い演者に個人的なパトロンは付けないシステムだと聞いたわ」
パーシバルもモラン伯爵夫人も少女歌劇団のパトロンの一人なので、今までとは違うシステムなのは知っている。
「ええ、個人的なパトロンがつかない代わりに、住む寮と面倒を見てくれる寮母を付けると言っていました。それと、給料制なので生活に困る事もないと……ただ、ある程度、売れている歌手と駆け出しの歌手の扱いが難しいとも言われていましたね」
そうなんだよ! 夏休み前にモラン伯爵家で晩餐に招ばれた時、そのような事を話されていた。
「給料であまり差をつけるのは、良くない気がします。だから、個人的なパトロンは付けませんが、ファンに応援してもらうのです」
パーシバルは意味がわかっていない。
「例えば、カルメン様のファンなら赤のペンライトを買って、応援してもらうのです。劇場でスターの絵姿を売っても良いし、それらは各歌手に反映して収入になるシステムを作れば、人気が出たら他の歌劇団に引き抜かれるのも防止できますわ」
パーシバルが手を叩いて笑う。
「それは、良いですね! 母上も、人気歌手が引き抜かれるのを心配していました!」
少女歌劇団は、パトロンが王妃様で、変な貴族に嫌らしい事をされる危険が少ない。でも、生活は保証されていても、贅沢できるほどの給料は貰えないだろう。
「スター歌手だと、他の歌劇団の方が贅沢な暮らしができるのよね」とモラン伯爵夫人は憂いていたのだ。
「ペイシェンス、このプランと見本のペンライトを作るのは仕方ありませんが、後はアルバートに任せましょう。このまま少女歌劇団に巻き込まれないように!」
そうだよね! 注意しなきゃ。今回、パーシバルが簡単に許可したのは、モラン伯爵夫人がパトロンで、家であれこれ愚痴っているからかもね。
ナシウスとクラリッサに手伝ってもらって、色々な色のペンライトを作る。
「ヘンリーも作ってみますか? サミュエルもナシウスと作ってみたら?」
面白そうだとついてきたヘンリーとサミュエルも誘う。
「ヘンリー、何色が良いかしら?」
「青が良いです!」
ふふふ、ヘンリーは青が好きだ。自分の目の色だからかな?
「では、この溶液にアルコールで溶いた青の絵の具を混ぜるのよ」
ヘンリーを指導しながら、青いペンライトを作る。
クラリッサは、私が一つ見本を作ったら、すぐに作れるようになった。ナシウスも簡単そうだ。
「サミュエルは、何色が良いと思う?」
サミュエルは考えて答えた。
「ご婦人や令嬢が好きな色が良いのでは? ピンクとかはどうだろう」
うん、サミュエルは良く考えているね。ヘンリーがハッとした顔になる。
「青は駄目なのですね」
しおれたヘンリーを抱きしめて、違うと言い聞かせる。
「少女歌劇団では、男の方の歌手はいません。だから、女の子が男装して歌うのよ。その男装した歌手を応援したい人は、ブルーとかグリーンとか、その歌手のカラーを買うと思うわ」
えっ、クラリッサやナシウスやサミュエルも驚いているんだけど?
「まぁ、それは素敵ですわ。お母様を説得して、見に行きたいです! でも、チケットは高いのでしょうか?」
具体的な値段は聞いていないが、女の子達が通える値段にしたいと言っていた。
「さぁ、でもお昼の公演のチケットは安く設定すると言われていたわ。その分、公演時間は短いみたいよ」
クラリッサが行ってみよう! と喜ぶ。
ヘンリーも行ってみたそうだ。
「お昼の公演なら、連れて行ってあげるわ」
本当は十歳以下は駄目なのかも? でも、モラン伯爵夫人に頼もう!
「私も行って見たい!」
サミュエルは、音楽クラブだもんね。興味があるのは、当たり前だ。
「ええ、一緒に行きましょう!」
勿論、パーシバルやナシウスも一緒だよ。




