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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第七章 中等科二年の夏休み

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打ち上げられた魔物

 昼食の後、ラシーヌに手紙を書く。ノースコートから夏の離宮までは、馬車で一時間半程度だった。

 ハープシャーからノースコートまで、馬車で一時間半か、二時間。


 つまり、ハープシャーから夏の離宮までは、少し遠い。サティスフォードで、少し休憩してから行きたいと書いたのだ。


 サティスフォードから、夏の離宮は一時間も掛からない。私とアンジェラ、メアリーとミア、そしてパーシバルでも大丈夫だよね?

 それか、パーシバルは別の馬車にするかと尋ねたら、馬で行っても良いと笑う。


 夏の離宮に馬で行っても良いのか? そこら辺は、よく分からないので、ラシーヌに相談しよう。


 縫い上げたアンジェラのドレス三着と手紙を届けてもらっている間に、私達はグレンジャーを視察する。


「ああ、やっぱり!」

 教会の屋根はなおしていたし、孤児院の壁も修復していたけど、かなり被害が出ていた。


「これは……建て直した方が良いのかもしれません」

 パーシバルが苦い口調で言う。修復するにしても、限りがあるからね。

 基本がボロけているのに、壁の崩れた所を修復しても、他の所がまた崩れるのだ。


「ライトマン教授に相談してみますわ」

 教会に入る前から、気分が沈む。


 ハープシャーの町のボロな宿屋は、亭主の持ち物だったが、かなりの店は、貸店舗だった。モンテス氏に聞いて、ガックリきたのだ。


 その上に、教会の建て直し! お金が飛んで行くよ!


「いえ、修復して頂ければ十分です」

 ライト司祭は、そう言うけど、限界じゃないかな。


「ロマノ大学の建築学科の教授がグレンジャーに滞在されています。専門家の意見を聞いてみますわ」


 それにしても、孤児院の子どもが少ない。前は、もっといたよね?


「子ども達は、どこにいるのかしら?」

 ハープシャーの教会では、片付けの手伝いをしていたのだけど?


 ライト司祭は、苦笑して答える。

「浜辺に魔物が打ち上げられたのを見物に行ったのです。見たら、帰って来るようにと言ったのですが、解体を見学しているのでしょう」


 片付けを手伝うには幼い子しか残っていない。


「早く帰るようには言ったのですが、珍しい魔物が打ち上がったのかもしれませんね」

 異端めいた論文を書いた司祭とは思えない穏やかな口調で、少し驚いた。


「見かけたら、帰るように注意しましょうか?」と言うと、手を横に振った。


「満足したら帰って来るでしょう。楽しみがあまりない子ども達ですから、たまの気晴らしも必要です」


 ふうん、司祭を見直したよ。ロバや古着や食料のお礼もちゃんと言ってくれたしね。


 これからも、教会とは距離を置きたいけど、孤児院の援助は続けたい。いや、しなきゃいけないよね。


「海岸に行きますか? でも、ペイシェンスは気持ちの悪い魔物に弱いから」


 冬の魔物討伐でも、解体場では気分が悪くなったし、木の蛇(ヴィゾーヴニル)も大嫌いだった。


「いえ、気分が悪くなったら、他所に行きますが、海の魔物はマッドクラブとビッグホエールしか見た事がありませんから、行きたいですわ」

 

 馬の王(メアラス)で海岸に向かう。

 どこに打ち上げられたのかは、すぐにわかった。人々が群れていたからね。


「あれは、何でしょう? 見た事がないですね!」

 パーシバルが少し興奮している。あれって、前世でテレビで見たような? こんなに大きいとは知らなかったけど?


 銀色の平たい長細い深海魚だよね。赤のヒレがひらひらと風にたなびいている。二十メートル以上あるよね。


 隣のノースコート領育ちのエルビス卿も見た事がないのか、馬から飛び降りて、しげしげと眺めている。

 パーシバルが私を馬の王(メアラス)から抱き下ろしてくれた。エア階段でも降りれるけど、こちらの方が楽。


「おお、ペイシェンス様もいらっしゃいましたか! こんな珍しい魔物が見られるとは! ここに来て、本当に幸せです!」

 

 大興奮したベッカム教授が学生達に、体長を測らせている。


「あれは何でしょう。それと、食べられるのですか?」


 私の質問に「あれはリュウグウノツカイレガレクス・ルッセリイと言うのです。深い海底に棲み、滅多に現れないと事典に書いてあります」と一気に答える。


「その事典に食べられるか書いてありますか?」

 こちらが私的には大事! でも、ベッカム教授は酢を飲んだ顔になる。


「こんな貴重な魔物を食べるのですか? 砂に埋めて、二年ほどしたら骨格見本ができるのです!」


 骨格見本かぁ、確かにそれを手に入れたいのはわかるよ。


「では、食べられるのですね」

 周りの漁師は、解体したそうに周りを取り囲んでいる。エルビス卿が領兵を配置して、警護体制を敷く。


「ペイシェンス様は、ここの領主です。骨格見本を作ると言って下さい」


 一応は、王都の偉い学者と学生が調査するのを待っていた漁師達だが、砂に埋めると聞いて、騒つく。それを領兵が鎮める。


「領主様! これは凄く美味しいのです。ここら辺では、エステナ神が嵐のお見舞いに下さると伝わっています」


 ふぅ、難しい。ベッカム教授の意見も分かるし、美味しいなら食べたい気持ちもわかる。

 

 私が両者の板挟みになっているのをパーシバルが見かねる。


「ベッカム教授は骨格見本が欲しいのですね。魚肉は必要ないなら、なんとかなるのでは?」


 ベッカム教授は、困惑した顔になる。


「でも、解体する時に骨を傷つけてしまうのでは? それでは骨格見本にならないのです」


 確かにね! 大きな骨は残るかもしれないけど、小骨とかは駄目かも。


「ペイシェンス、魚肉だけにできませんか?」


「えっ、それは……でも、良いのでしょうか?」


 あまりヘンテコな生活魔法を人の前で使うのは、どうかな?


「それか、骨だけ取り出すのは?」


「それって、子どもに魚を食べさす時に使うと便利な魔法ですわね。生活魔法でできるかどうか試してみますわ」


 ちょっと気持ちの悪いリュウグウノツカイレガレクス・ルッセリイだけど、手を当てて詠唱する。


リュウグウノツカイレガレクス・ルッセリイの骨よ、あちらに生前通りに並べ!」


 ああ、少し魔力が抜けていく。パーシバルがすかさず私を支えてくれた。ベリンダもすぐ側に待機しているけど、パーシバルだけで大丈夫だと考えたみたい。


「おお! 凄い! これなら二年も待つ必要がないのだ!」

 ベッカム教授が騒いでいる。


「これで解体してもよろしいでしょうか? 魚なら新鮮な方が美味しいと思うわ」


 ベッカム教授は、頭の部分を物欲しそうに見ている。


「あのう、頭はホルマリン漬けにしたいのですが……」


「ベッカム教授、こんな大きな頭を入れるガラス瓶はあるのですか? それに、骨は抜いているから、形は保てませんよ」

 

 パーシバルが言うと、ふぅと溜息をついて諦めた。


「解体して良いでしょうか?」

 漁師達が騒ぐ。


「良いわ。でも、皆で分けるのよ」


 エルビス卿と領兵達に解体の監督をさせる。争い事はごめんだからね。


 ベッカム教授と助手達は、骨格見本っぽくなった生の骨をどうするか悩み中だ。


「兎に角、これを保護しなくてはいけない。グレンジャーの万屋に撥水加工した布が売っていた。ありったけ買って来い!」


 ふぅ、その布なら、いくらでも作れる。買うと、特許料も入っているから高いんだよね。


「ベッカム教授、その布は提供いたしますわ」


 飛び上がって喜ぶベッカム教授! こんなタイプだったかな。


「領主様、これが魔石です。それと、一番良い部分をお納め下さい」


 漁師が家から持って来た木桶に三個も、どっさりと貰った。


「この魔石は、冒険者ギルドで売りましょう。それで被害に遭った家の改築に使う事にしますわ」


 孤児院にも分配されるみたい。本当にリュウグウノツカイレガレクス・ルッセリイは、エステナ神の嵐見舞いなのかもね。


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― 新着の感想 ―
[一言] んー、つまりは他人の世話ができるほど裕福じゃなきゃ元々やりようがないということか……。 まあ、宗教法人でも商人でも、二代目三代目が潰すかもしれんからOKOK。 なんてったって魔法がある異世…
[一言] ペイシェンスは日本人転生者でしょう。魚を気持ち悪いなんて言ったらダメですよ(笑) 今回の深海魚エピソードって日本のとある地方が元ネタですよね。([そこまで言って委員会]で竹田氏の話によると、…
[一言] 領民(取り分減ったあ!骨も食べるのに…)w 砂抜き、血抜き、内臓どうしよう? 博物館を、グレンジャーに建てるかあ! 教授、標本(骨)買取希望なら、お金は頂くわよ〜
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