招待状
ハープシャーの兵舎に滞在した騎士達や領兵達が、嵐の被害状況を調査してくれる。
「私も視察します!」
昨日は、嵐が来るからと拒否されたのだけど、今日はお日様さんさんだからね。
「では、エルビス卿が子爵様に付き添ってくれ。一番、領地に詳しいだろう」
騎士長を誰にするか、悩む必要はなかった。年長というのもあるけど、ローラン卿が自然と指揮を取っている。
そして、ジェラルディン卿が細々とした領兵の配置などを管理している。
「まるで、サリンジャー様みたい」
ポソッと呟いたのをパーシバルが聞いて、プッと噴き出した。
「それは、ジェラルディン卿が気の毒ですよ」
つまり、パーシバルもサリンジャーさんが気の毒だと思っているのだ。
まぁ、ゲイツ様とサリンジャーさんを知っている人なら、全員が同意見だろうね。
エルビス卿とパーシバルと私とベリンダは、馬で視察する。これまで、馬で行動する時は、カミュ先生の付き添いが必要だったけど、これからはベリンダでも大丈夫。
ナシウスも帰ってきたし、中等科に飛び級するなら、サミュエルも頑張って勉強しなくちゃね。それに、本当にルーシー! マジで卒業の危機だよ! 必須科目を三年の秋学期まで修了していないだなんて、信じられない。
カミュ先生とナシウスに、ルーシーの数学を鍛えるように言って、馬の王に乗る。
騎士クラブの二人、視察に同行したいとか言っていたけど、却下! あと少ししたら、ゲイツ様やサリエス卿やユージーヌ卿が来られるのだ。勉強しなさい!
嵐の通り過ぎたハープシャー。元々、寂れた町だったけど、折れた枝や木の葉やゴミが散乱している。
「屋根の被害がありそうですね」
窓ガラスは、雨戸を閉めた上から、木を打ちつけていたので、無事らしいけど、道にもスレートが何個か飛んできている。
「このくらいなら、町の大工に頼むか、器用な人なら、自分でなおすでしょう」
エルビス卿は、この地方の暮らしに慣れている。まぁ、パーシバルも近くの出身だけど、伯爵家の御曹司だからね。
「でも、なんとかしたいわ」
嵐の被害を受けた宿屋、よりボロけている。私なら、泊まりたくないよ。
「モンテス氏に、誰の持ち物か聞いた方がいいですよ」
パーシバルの発言の意味がわからない。
「ああ、子爵様の借家も多いのかもしれませんね。買い取っている住民もいるでしょうが」
えっ、知らなかったよ。でも、私は、さも知っていたように頷く。パーシバルにはバレているだろうね。
領都の周りには、一応は壁がある。それは、半分崩れているけど、まだ手をつけていないんだ。
「魔物は少ない土地ですからね。でも、いずれは壁を修復しなくてはいけませんよ」
なんて話しながら、馬の王で領地の視察を続ける。
領地を拝領してから、川の浚渫工事、溜池、水路、農地、道、そして壁の修復とする計画を立てた。
えっ、館の改修は後でも良いだろう? 少し私もそう思ったんだけどね。
館の改修は、しないと領地に来れないんだよ。ノースコートに伯母様が居ないと、私は泊まれないから、不自由だったんだ。
でも、館が住めるようになり、使用人が居たら、私はいつでも泊まれる。ただ、パーシバルは保護者抜きだと一緒に泊まれないから、モラン伯爵領から通いになるんだけどさ。
あれっ、グレンジャー館に泊まっても良いのかも? モラン伯爵領より近いかな? でも、パーシバルは実家の方が気楽かも? これは、後で話し合おう!
馬の王がエルビス卿やベリンダを引き離さないように、注意しながら走らせる。
「麦も一部は倒れていますが、このくらいならまた立ち上がるでしょう」
前世では、台風の後、稲が倒れているのをテレビで見たよ。
エルビス卿が大丈夫と言っても、少し不安だ。
「リンネル教授にお聞きしたいわ。それに、稲作を始めておられるなら、被害を受けたのか聞きたいです」
「昼からはグレンジャーに行きましょう」とパーシバルが視察の計画を立てる。
葡萄畑では、サムが男たちに折れた枝を切らせたり、飛んできたゴミを掃除する作業を指示していた。
「子爵様、葡萄畑の被害は少なくてすみました!」
えっ、枝とか折れてるじゃん。でも、葡萄畑の管理人がそう言うのだから、大丈夫なのだろう。
「今日は暑くなるから、水分補給に気をつけてね」
あら? サムの首には冷え冷えマフラーが。奥さんのケリーに貰ったのかも。
あっ、後でケリーとメーガンの顔合わせをしなくては! 忘れないようにしよう。ソース作りは、ケリーにしてもらう予定だったんだ。
メーガンが料理ができるかは知らないけど、人を管理するのは上手そう。二人で協力するか、味とかはケリー、全体的な管理はメーガンと分けても良い。
これも、モンテス氏と要相談だ。
あまり気乗りはしないけど、教会にも顔を出す。
ヨハンセン司祭は、奥さんと預かっている子どもと大掃除していた。
「子爵様、この前は食料と服、それに教会にロバまで頂き、ありがとうございます」
そのロバ、呑気そうに子どもがむしった草を食べている。
「被害はありませんでしたか?」
あるのは目に見えている。
「孤児院の壁が少し崩れました」
これは、仕方ないね。
「すぐに修理させますわ」と約束して、教会を後にする。
「ライトマン教授に頼まないといけませんね」
町にも大工はいるだろうけど、住民の家の修理で忙しいだろう。
「ええ、お願いしなくては」
多分、グレンジャーの教会の方が被害が大きいかも。放置されていた年数が長いからね。
昼食の為にハープシャー館に戻ったら、最高級な紙を使った封筒の招待状が待っていた。
「ああ、忘れていましたわ。夏の離宮に行かなくてはいけないのね」
パーシバルは、肩を竦めていたが、中には『婚約者のパーシバル様もご一緒に』と書いてあった。
「パーシー様も招待されていますよ」
パーシバルが、パリス王子、オーディン王子、アルーシュ王子の世話係をしていたからだろうと苦笑した。
やれやれ、昼からはグレンジャーに視察に行き、リンネル教授に麦が倒れたのは大丈夫か、稲作の被害はないか聞き、ライトマン教授に教会や孤児院の補修をお願いしなくてはいけないのだ。
それに、アンジェラと一緒に行くと、ラシーヌに約束したから、それの打ち合わせの手紙も書かなきゃね。メール、本当に欲しいよ!




