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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第七章 中等科二年の夏休み

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嵐の日

 夕方から雨になった。この時点では、雨よりも風が強い気がしていた。


 ハープシャー館は、ラドリー様が改修したので、あまり風の影響を受けなかったが、パトロールから戻ってきたパーシバルは、かなり雨に濡れていた。


「撥水加工のマントでも、濡れてしまうのですね」

 パーシバルに「乾け!」と掛けてから、労う。


「風が強くて、マントの隙間から雨が入り込んでしまいました」


 ふうむ、ジッパーを使って前を閉じられるカッパを作った方が良いのかも?


 パーシバルが着替える為に部屋に上がった後、モンテス氏から報告を受ける。


「今夜、嵐が通り過ぎるようです。騎士の方々は、兵舎に詰めてくださるそうです。それに、嵐の中、グレンジャー館に帰せませんから、アダムは私の家に泊めます。ベリンダ様とメーガンは、ハープシャー館に泊めて下さい」


 それは良いけど、川は大丈夫なのか不安だ。


「春にも嵐が来ましたが、川は氾濫しませんでした。今回の方が大型の嵐ですが、大丈夫ですよ」


 川が氾濫しなければ、嵐の後に片付けたりするだけだと、モンテス氏は笑う。


「ライトマン教授と学生達は、大丈夫ですか?」


「雨が降り始めた時点で、グレンジャー館に帰ってもらいましたから、本降りになる前に着いているでしょう」


 そうなら良いのだけど。心配だけど、私が今できることはない。


 領兵達のカッパを作る事ぐらいかな? 


 その日は、早めに夕食にした。ヘンリーにお休みのキスをしに行った時には、風がビュービュー吹いていた。


「ヘンリー、大丈夫ですよ。この館はラドリー様が改修されたのだから、嵐には負けません」


 ただ、寂れたハープシャーの町の商店や宿屋、それに屋根を助手達が直した教会、大丈夫なんだろうか? 


「お姉様?」

 駄目! 私が不安な顔をしたら、ヘンリーが不安になる。


「明日には、嵐は通り過ぎるでしょう。オルゴール体操をしなくてはね! 十日目のご褒美はチョコレートですよ。早くお休みなさい」

 額にキスをして、ヘンリーを寝かしつける。


 私は、寝る気にならない。メアリーは寝巻きに着替えさせようとするけど、何かあった時に困る。


「お嬢様、寝ないと身体に障ります」

 メアリーが本当に心配している。そうだ! ペイシェンスは身体が弱いのだ。


 ここで、私が寝ないで心配していても、嵐は通り過ぎる。明日は、嵐の被害を調査して、その対応策を取らなくてはいけないのだ。


 眠れないけど、ベッドで身体を休める。こんな時、健康で体力も溢れかえる領主なら、見回ったりするのだろうか? 


「情けないな……」と落ち込んでいたら、ペイシェンスが慰めてくれた。


『よくやっているわ! 良い領主よ』

 これは、私の願望をペイシェンスが言ってくれているのだろうか? 転生した当時は、マナー違反をしては、ペイシェンスに叱られて頭痛がしたものだけどね。


「ペイシェンス、今からでも代われるものなのかしら?」

 これは、ずっと悩んでいた事なんだ。

 グレンジャー家も窮乏生活を脱したし、弟達も不安なく勉強できる環境になった。

 パーシバルと婚約したのは私だけど、元々、ペイシェンスと縁談があったのだ。


『竜を討伐なんかできないわ!』

 全力で拒否された。

 

「それは、私も嫌だわ!」というと、くすくす笑う。


「あのう、何故、こんなことになったのかしら?」

 これ、聞きたかったんだ!


『さぁ、わからないわ。ただ、私があのまま亡くなったら、弟達はどうなるのか……エステナ神に祈ったのは覚えているわ』


 そうなんだ。あちらの私は死んでいるのか、聞こうと思ったけど、やめた。ペイシェンスは、十歳で亡くなったんだもんね。


『私は、そろそろお母様の元に行くわ。弟達を可愛がってくれてありがとう。パーシバル様と幸せになってね』


 翌朝、あのペイシェンスとの会話は、夢だったのか? と考えたけど、よく分からない。


「ペイシェンス?」と呼びかけても、返事はない。

 お母様の元に行ったのか? 一人ぼっちになった気分だ。


「お嬢様、早くお着替えになって下さい」

 メアリーに起こされて、嵐の後始末をしなくてはいけないのだと飛び起きる。


「子爵様、おはようございます! ライナ川の氾濫もありませんでしたし、家もほぼ無事です。農作物も、被害は少ないようです」

 

 モンテス氏の報告で、少しホッとしたけど、被害の詳しい調査はこれからなのだ。


「ああ、忘れていたわ! 温室は大丈夫かしら?」


 メアリーと温室に向かう。いつの間にかベリンダがついて来ている。


「お嬢様、大丈夫そうですわ」


「良かった! メロンはこれから収穫するのよ」


 温室の外を一周し、そして中も見回る。魔法で育てたメロンは、食べ頃だ。魔法を使わずに栽培しているメロンも大きくなっている。


「ペイシェンス様、私はハープシャー館に滞在した方が護衛をしやすいのですが、許可して頂けますか?」


 それは、そうだろうけど、旦那様のローラン卿とは別れて住む事になるけど良いのかな?


「仮採用期間が済む頃には、ハープシャーに騎士の家を用意しますわ。それからでも、良いのですよ」


 ベリンダが困った顔をする。

「私は、冒険者上がりで、家事は全くできません。それは、ローランも承知しています。ローランは、家よりも兵舎の方が快適だと思います」


 あっ、それは、どうしたら良いのかな? 


「今は、寂れているから土地を与えても、却って困ると思っています。でも、いずれは土地持ちの騎士になって貰おうと考えているのですが……」


 二人で、困惑していると、メアリーが遠慮がちに口を開く。


「下女を雇えば良いのでは?」

 

 私とベリンダが二人で手を叩く。

「そうね!」

「ああ、その手があったな!」


「うん? バーンズ公爵領では、どうしていたのかしら?」


 照れくさそうに笑うベリンダ。

「私は、宿屋で暮らしていました。独身のうちは、ローランは、兵舎の上に住んでいたのです。結婚してからは、二人で宿屋暮らしですね」


 因みにローラン卿の従者は、宿屋の別の部屋だったそうだ。


「昨夜の様にお客様の部屋でなくて良いです。使用人部屋で十分ですから!」

 

 これは、ミッチャム夫人に要相談だ。護衛だけなら、使用人部屋でも良いけど、騎士の奥さんだからね。


 それは、ミリアムも同様だ。村の教師なら、半使用人。家庭教師より、少し下かな? でも、騎士の婚約者だから、複雑。


 私的には、一緒に食事をしたりしても良いと思うけど、こちらの常識が分からない。ある程度は、当主なのだから、私の判断で良いのだけど、あまりに非常識は拙いかも。


 嵐の通り過ぎた庭で、オルゴール体操をしながら、今日は忙しくなるぞ! と気合を入れた。


 



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― 新着の感想 ―
 ペイシェンス(真)…(´;ω;`)来世では幸せに天寿を全うして欲しい…
ペイシェンヌ渾身の祈りが魔法となって異世界から条件の合う魂を呼び寄せたのかな ずば抜けた能力だからね
ペイシェンスとお別れは寂しいです。でも前を向かなきゃ。 ジッパーは難しそうなのでスナップボタンはどうでしょうか? 鉄の金型に銅製鋳造で量産化なら数が出来るかも、銅65%亜鉛35%が一般的で、銅成分を5…
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