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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第七章 中等科二年の夏休み

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ハープシャー館の夜

 応接室では、サミュエルが女の子達とハノンの連弾をして、それを皆で楽しんでいる。

 王立学園では、全員が音楽も習得するから、次々と代わりながら演奏して、なかなか良い感じだ。


「パーシー様、彼方で盾をお見せしますわ」


 メアリーに夕食中に執務室に盾を運んで貰っている。二人で、執務室に向かう。あっ、メアリーも付いてくるけどね。


「これ、誕生日プレゼントにしようと作ったのです」


 パーシバルは、紙に包んだ盾を受け取り「開けてみて良いですか?」と尋ねる。


「ええ、どうぞ」

 パーシバルが包装を解いて、盾を取り出す。


「半透明の盾なのですね。魔法陣がありますが、これで剣を弾いたのか」


 試してみたそう。目がキラキラしている。でも、夜だから領兵の訓練所も使えないよね。


「パーシー様は盾を使われないのですね。これは、失敗しましたわ」


 他の誕生日プレゼントを用意するから、受け取ろうと、手を伸ばしたけど、ぎゅっと盾を握りしめている。


「この魔法陣、どんな物かはわかりませんが、剣を弾き飛ばすと聞いただけで、凄い物だと思っています。これを、私が貰っても良いのか、ゲイツ様にお伺いしましょう!」


 やはり、パーシバルは盾でも騎士関係だから、萌を感じるのかも。


「本当に失敗したと落ち込んでいるのです。他のに変えますわ」


 だから、他のプレゼントを用意すると、再度、手を伸ばしたのだけど、やはりパーシバルは盾を抱きしめている。


「本当は、私が貰って良い物では無いと感じるのですが、欲しいと思う気持ちが抑えられません」


 兎も角、明日、盾のテストをする事にした。

 パーシバルは、盾を抱きしめて部屋に戻った。


 ふぅ、失敗したと、落ち込む。

「ペイシェンスの盾になりたい!」と言われて、パーシバルを護る盾を作るだなんて、単純な発想だったね。


 今夜は、賑やかな応接室に行く気にならず、かと言って部屋に戻ったら、もっと落ち込みそうだ。

 ヘンリーは、まだ起きているかしら? でも、こんなに元気のない顔で行ったら、心配させるかも。


「お嬢様?」メアリーが心配そうだ。

 やはりヘンリーの部屋に行こうと思った時、東の端のモーニングルームに灯が見えた。


「お父様が本を読んでいらっしゃるのかも?」

 ハープシャー館の東側にモーニングルームを作ってある。

 王都では、書斎に籠って読書している父親だけど、ハープシャー館の執務室は私が使っているからね。


 モーニングルームは、まだ基本的な家具しか置いていない。

 本来は、旦那様が執務室にいる間、奥方がお茶を飲んだり、読書したり、刺繍をする部屋なのだ。


 ハープシャー館の場合、いずれは図書室にしても良いかもと思っている。グレンジャー家ほどの書籍は置かないけど、好きな本をゆったりとパーシバルと読みたいな。

 本を読んでいるパーシバルの横で、刺繍をするのも良い感じ。


 でも、きっと私はヘンテコな錬金術に夢中になっているのかも?

 うっ、自分の失敗を思い出し、しおしおな気分だよ。


「ペイシェンスかい?」

 読書していた父親が気づいたみたい。


「ええ、まだ寝るには早いですが、何となく応接室で皆と騒ぐ気分にはならなくて」


 父親が本をサイドテーブルに置く。メアリーが気を効かせて、ハーブティーを持ってきてくれた。


「これは、良い香りだわ」

 バラの花とハーブ、心が和む香りだ。

「ペイシェンス、元気がないな」

 おお、珍しい。父親との雑談だ。


 そうだ! 前から父親には訊きたいと思っている事があったのだ。


「お父様、私の名前(ペイシェンス)は少し子どもに付けるのは相応しくない気がします。何故、この名前を付けられたのですか?」


 父親の灰色の目が見開かれる。意外な事を言われたと、驚いているみたいだけど、誰が考えても忍耐(ペイシェンス)なんて子どもに名付けないと思うよ。


「そう言えば、私は名付けの意味を話した事がなかったな。ユリアンヌも話さなかったのか……。もっと大きくなって話そうと思っていたのだろう」


 えっ、凄く良い意味なの? 忍耐(ペイシェンス)だなんて、あまり良い名前じゃないと思っていたよ。


「私は『忍耐(ペイシェンス)は学識に勝る』という格言が大好きなのだ。学問の家に生まれた第一子に相応しいと考えた」


 そんな格言があったの? 元ペイシェンスも知らなかったみたいで騒ついている。


「だが、ユリアンヌがペイシェンスと名付けるのに同意したのは、別の意味があるからだ」


 父親は、陛下も認める非常識人だから、娘に変な名前を付けたのも分かるけど、母親もなの?


「別の意味とは?」


 母親のユリアンヌを思い出して、ぼんやりしている父親に話を催促する。


「ユリアンヌは、植物が好きで、調子の良い時は、庭のバラの手入れを楽しんでいた。だからかもしれないが、庭に関した格言から付けたのだ。『忍耐(ペイシェンス)は、誰の庭にでも咲く花ではない』それと『忍耐(ペイシェンス)の庭でこそ、強さがいちばん育まれる』という格言が好きだった」


 えっ、何だかペイシェンスって良い意味に感じてきたよ。心の中の元ペイシェンスも満足そうだ。


「ユリアンヌは、自分の身体が弱いのを苦にしていた。だから、娘にペイシェンスと付けたのだろう。『忍耐(ペイシェンス)が世界を救う』と言う格言もあるぐらい強い名前だからだ」


 へぇ、聞いて良かった! 忍耐(ペイシェンス)は、ネガティブな意味じゃなく、強いポジティブな意味を持つんだね。

 いや、一般的にはちょっとな名前だけど、両親の願いが籠った名前なんだ。


「お父様、話して下さってありがとうございます。名前に恥じないように生きていきますわ!」


 うん、気分が上昇したよ。

「ゲイツ様があの盾を世間に出さない方が良いと判断されたら、名前を刺繍したハンカチを何十枚も贈りましょう!」


「ペイシェンス……ほどほどに……」


 父親は、何か言って、読書に戻った。

「ヘンリーにお休みのキスをしに行きましょう!」



✳︎ ✳︎ 参考格言 ✳︎ ✳︎



Patience surpasses learning.

忍耐は学識に勝る。


It is in the garden of patience that strength grows best.

忍耐の庭でこそ、強さがいちばん育まれる。


Patience is a flower that grows not in every one's garden.

忍耐は、誰の庭にでも咲く花ではない。


Patience is the remedy of the world.

忍耐が世界を救う。



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― 新着の感想 ―
 盾はむしろ近衛騎士団に持たせたい装備では?  珍しく父親の明確な愛情を感じる回だった。いつも影薄いから余計に(笑)
[良い点] ペイシェンスの由来に目から水が滴ります (´;ω;`) [気になる点] ロマンス成分不足は ペイシェンスが一途過ぎるからかなぁ (*^^*) [一言] パーシバルは盾を気に入ったみたいで…
[良い点] 更新お疲れ様です。 なるほど名前はそういう由来だったんですなぁ。でもなんとなくですが、お母さんは自身が居なくなった後の家族は確実に苦労する→挫けずに忍耐力を付けて欲しい的な意味合いもあっ…
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