過剰なプレゼントは迷惑?
ハープシャー館に戻ったら、サッとお風呂に入って、夕食の為に着替える。パーシバルには、夕食後にプレゼントの盾を渡すつもり。
「お嬢様、どうされたのですか?」
メアリーに心配されちゃった。
「パーシー様に作った盾、誕生日プレゼントには過剰な物だったかもと気づいたのです」
メアリーは、元々、令嬢が婚約者に盾などを贈るものなのだろうかと首を捻る。
「でも、パーシバル様が欲しい物だと思われて、それを贈る事に決められたのでは?」
そうなんだけど……あああ! パーシバルが盾を持っている姿を見た事がないよ。
剣術の稽古の時も盾を持っていないし、魔物討伐の時も!
しおしおな気分だ。サリエス卿とか盾を使うのかな? 弟達との剣術指南では使っていなかった。
冬の魔物討伐の時、何人かの騎士は盾を装備していたよね。サリエス卿はどうだったかな? 馬に乗っている時は、盾は使っていなかったような?
集団討伐で、横から逸れる魔物を追い込む冒険者達は、盾を装備していたと思う。でも、そちらに参加したカエサル達は、盾を持っていなかったよね?
「パーシー様は、盾をお使いにならないのかも? 他のプレゼントを用意した方が良いのかもしれないわ」
私は、騎士関係に弱い。何も知らないからだ。
来年、私が購入した戦馬が良い仔馬を産んだら、それをプレゼントしたら喜ぶだろうか?
「ああ、モラン伯爵家も戦馬と馬の王を掛け合わせたのだわ」
メアリーが、うら若き令嬢が言う言葉ではないと睨んでいるけど、がっかりしていて、それどころではない。
「私って、こんな風だから、ゲイツ様に似ていると言われるのだわ」
完全に落ち込んできたよ。ゲイツ様の私や弟達へのプレゼント、いつも貴重な物過ぎて、相応しくないと感じていたのだ。
魔物討伐の打ち上げ会でも、大きな冷凍庫を手土産に持ってきた。
確かに、パントリーに魔物の肉がいっぱいな状態だったから、とても有り難かったけど、ワインや紅茶やトリュフの方が受け取るのに気が楽だと感じていたのに!
メアリーは落ち込む私の気分をあげようと、薄いグリーンのカルディナ帝国の生地で作ったドレスを着せ、共布を編み込んだ可愛い髪型にしてくれた。
「お嬢様、お綺麗ですわ」
鏡に映った私は、眉も口角も下がっている。これではいけない。
これでは、お休みの挨拶をしに行った時、ヘンリーに心配されちゃう。あの子は自分のせいで、パーシバルに盾の事がバレたと気にしているのだ。
指で口角をあげ、にっこりと微笑む。うん、なかなか可愛い。
自己暗示って大切だよね。パーシバルに盾を見せて、使わないか聞いたら良いだけだ。
誕生日までは、日にちがあるのだから、別の物を用意できる。マクナリー先生が推奨されていたハンカチに刺繍をしても良いのだ!
それなら、婚約者へのプレゼントに相応しいのだろう。
うん? 守護魔法を刺繍したら……普段着る服のベストに守護魔法を刺繍して、背中に魔石を嵌めたら良いんじゃないかな?
でも、マントなら巨大毒蜘蛛の糸で刺繍しても良いけど、ベストだと太すぎるかも。あっ、糸を裂いて使えたら? 細くできたら良いな。
「ハッ、これも過剰なプレゼントなのかしら?」
でも、ナシウスが将来外交官になって、外国に赴任する時は、持たせたい。勿論、パーシバルもだけど、叱られるかな? そんな守護魔法のベストを着た外交官なんていないって!
「アルーシュ王子の指輪! あのくらいなら、外交官が身に着けていても、大丈夫なのかしら? でも、素材が無いし……。何か代用出来る物は無いのかしら?」
錬金術関係の事を考えていると、色々思いつく。それに、気分が上昇してきたよ。
「お嬢様、そろそろ夕食の時間ですよ」
メアリーに言われるまで、守護魔法を閉じ込められる素材が無いか、考え込んでいた。アルーシュ王子の指輪の素材は、元々、守護魔法がある。
でも、そんな物はローレンス王国にはない。
無いなら、作れば良いじゃん!
守護魔法の魔法陣はあるのだ。それを何かに刻み込むことができれば、作れるのかも? ただ、その何かがあるのかな?
それに、アルーシュ王子の指輪は、それ自体が魔力を持っている。
「ああああ! 魔石に守護魔法陣を刻めないかしら? 魔石って固いわよね……刻んだりできないのかも? でも試してみたい!」
メアリーが、私の背中に手を添えて「お嬢様!」と声を掛けた。
「ああ、夕食なのね。わかっているわ」
ハープシャー館では、私が当主なのだ。私が居ないと、夕食は始まらない。サティスフォード子爵館みたいに、ドラを導入するべきなのかも?
夕食は、昼間が豪華だったから、あっさりとした物をエバが選んでいた。
サラダの上に乗せたスパイシーチキン! 美味しいし、レモンドレッシングだから、さっぱりしている。
「これ、大好きです!」
昼は、騎士達がいたから、大人しくしていたジェニーとリンダがはしゃいでいる。
スープもあっさりだ。コンソメだけど、少しトマトの賽の目切りが入ってて、夏らしくて美味しい。
魚は、アクアパッツアだよ。これは、エバにレシピを渡してから、なかなか出てこなかった。
つまり、エバ的に満足できる出来栄えになるまで、苦労したのだろう。
「これは、美味しいな!」
昼食で、かなり食べた父親も、白身の魚をトマト、貝、オリーブの実を加えて炊いたアクアパッツアが気に入ったみたい。
本場のアクアパッツアは、潮水で炊くと聞いたけど、塩は海塩だから良いよね。それに、白ワインも混ぜてある。
貝、大きいけど、美味しい!
口直しのシャーベットの後は、火食い鳥の蒸し物。
これは父親の好物だよ。それに付け合わせのパプリカが、甘くて美味しい。
デザートは、レアチーズケーキ。これも、かなり前にレシピを渡したのだけど、なかなか出てこなかった。
「私は少しで良いわ」 お腹いっぱいだから、ハーパーに少しだけ切り分けて貰う。
冷たくて、美味しいと私は思うけど、他の人はどうかな? こちらでは、砂糖ザリザリのケーキが主流だった。
これは、クリームチーズに少し砂糖を加え、レモン汁も入っている。土台のタルト部分も、厚くて固いのは嫌いだから、薄くしてあり食べやすい。
「これは美味しいですね!」
パーシバルに褒められると、気分が上昇するよ。
あらら、父親も珍しくお代わりしている。始めに、私と同様、薄く切って貰っていたからね。
レアチーズケーキ、完売でした。使用人達は、きっとエバの試作品を口にしただろうから、今回は許して貰おう。
残りのケーキ、少しずつ食べるのを、女の子達は楽しみにしているのだ。
さて、夕食は終わった。私は、食卓から立って、応接室に行く。いつもは、パーシバルは少し父親の相手をする為に食堂に残るのだけど「ペイシェンスと話があるので」と断って、一緒に席を立った。
ああ、叱られるのかな? 呆れられるのかも?




