騎士達と昼食
雑談の方が本音がわかるかなと思いつつ、お茶を飲む。
アダムがふと思いついたように質問する。
「ところで、グレンジャー館とハープシャー館の距離はどのくらいなのでしょう」
アダム・ナイトリーとメーガン・ナイトリー、二人とも乗馬ができるだろうか? 王立学園を卒業しているなら、アダムは最低限の乗馬はできるだろう。
「馬なら三十分ぐらいですが、馬車だと一時間掛かります。それと、今は王立学園の歴史研究クラブの合宿と、ロマノ大学の教授と助手達が滞在しています」
アダムは乗馬ができるようだが、メーガンが困った顔になる。
「妹は、あまり乗馬ができません」
そうだよね。王立学園でも女学生は乗馬が苦手な人も多い。私だけじゃないよ!
「馬車を用意させますが、本採用になったら、グレンジャー館ではない方が便利ですね」
やはり、騎士の家や管理人助手の家も必要だ。
「エルビス卿は、どこに住む予定なのだ?」
ジェラルディン卿が、顔見知りのエルビス卿に質問する。
「私は、独立資金を貯めたら、結婚したいと考えているのです。だから、兵舎の二階に住もうと考えています」
ジェラルディン卿も仮採用期間が終わったら、そこに住みたいと言い出した。
「モンテス氏は、何処に住まれているのですか?」
アダムだけなら、管理人の家に同居でも良いのかも? でも、メーガンが一緒だからね。
「仮採用期間が終わるまでに、騎士の住む家と管理人助手の住む家を用意致しますわ」
それまでには、ラドリー様もいらっしゃるだろう。
「いえ、私は少しでも倹約したいので、兵舎の二階で良いです!」
エルビス卿? 家賃の心配をしているのかな? 騎士も社員みたいなものだから、家賃なんて取る気はなかったけど、モンテス氏に任せよう。
「エルビス卿、騎士の家でも安く設定しますが……結婚されたら、住むことにしますか?」
ぶるん、ぶるんと首を横に振るエルビス卿に押されて、兵舎になった。
「ミリアムに、少しでも早く結婚したいと言われているのです。倹約して、資金を貯めないと見捨てられます」
あらら、結婚前から尻に敷かれているね。でも、高圧的な男の人よりは、好感が持てるな。
「そろそろ、昼食の時間ですわ。私の家族とお友達に紹介します」
今日は、一緒に食べる。モンテス氏もだよ。
父親、ヘンリー、サミュエル、そして騎士クラブのジェニーとリンダ、魔法クラブのルーシーとアイラ、そしてカミュ先生とクラリッサ。
やはり、食堂は広い方が良かったね。ハープシャー館は、元々広かったけど、サリエス卿が購入された屋敷の食堂では、狭かったかも。
「グレンジャーには海がありますから、魚介類が多いのですが、苦手なら肉と変更もできます」
前のキース王子とか、魚が嫌いだったからね。一応、言っておく。全員が、魚介類がたべられるなんて! っと喜んでいるから、大丈夫そうだね。
今日は、他所からの騎士が来られるからと、エバが張り切っている。メニューでわかるんだ。
いつも手抜きはしないエバだけど、やはり材料とか違うね。きっと、若い領主だからと舐められないように応援してくれるのだろう。
前菜から、パワー全開。マッドクラブと雲丹のゼリー寄せだ。
「これは、美味しいですね!」
メーガンが一口食べて、ゼリーの柚子の味に、うっとりとしている。
今日は、ジェニーとリンダがとても大人しい。騎士が三人も同席しているからかも。
いつもなら「美味しいです!」と騒いでいるのにね。
スープは、冷たいヴィシソワーズ。じゃがいもを丁寧に裏漉ししてあるから、とても口当たりが良いし、少し特別なアレンジがしてある。
「ペイシェンス、これはアイスクリームなのか?」
サミュエルの質問に、ヘンリーが「でも、ジャガイモの味がします」と首を捻る。
「ヘンリー! よくわかったわね。これは、ジャガイモのアイスクリームなのよ。砂糖はほんの少ししか入れていないけど、作り方はアイスクリームと同じなの」
他の人も、ヴィシソワーズの真ん中に浮かんでいるアイスクリームをスプーンで砕きながら、一緒に口にして「うううん」と唸っている。
「ペイシェンス、これは美味しすぎますよ! 母上がレシピを欲しがります」とパーシバルが笑う。
「ペイシェンス、私の母上も絶対に欲しがると思う」
サミュエルも食べたいんじゃないかな?
「勿論、レシピは差し上げますわ。アンなら作れると思います」
アンは、ヴィシソワーズもアイスクリームも作っていたからね。ただ、今回はそれをアレンジした料理なんだ。
魚のメインは、勿論、マッドクラブだ。
綺麗に焼いたマッドクラブを並べて、その上にベシャメルソースを掛けたグラタンだ。
チーズのカリカリ、ベシャメルソースには隠し味に白味噌が少し。
「これは、マッドクラブですか? グレンジャー海岸では、これが狩れるのですね!」
ローラン卿の目がキラリと光る。マッドクラブは、魔物だから討伐しても良いとは聞いているけど、絶滅させないでね。
美味しいものを食べていると、皆、無口で、幸せになるよね。
口直しのシャーベットの後は、肉料理だ。今日は、エバが気合を入れて、ゲームパイを焼いた。
「わぁ! これはハープシャー館ですね!」
ヘンリーが喜んでいる。この型は、私が作ったんだ。
「見事だな」と父親も褒めている。
さて、ワイヤットは綺麗にゲームパイを切り分けたけど、ハーパーはどうかな? 少し心配して見ていたけど、堂々と切り分けた。
「まぁ! 綺麗だわ!」
「白は、火食い鳥でしょうけど、赤は?」
ルーシーとアイラが賞賛の声をあげる。
本当は、肉と魚を混ぜるのは良くないのもしれないけど、グレンジャー海老の赤、それを使いたかったんだ。
「火食い鳥とグレンジャー海老のゲームパイです。ソースは、お好みでオランデーズソース、トマトソース、さっぱりソースから選べます」
ハーパーの説明だけでは、皆は選べないみたい。父親からサーブされたけど、迷っている。
「お父様、オランデーズソースは、マヨネーズにレモン汁を混ぜたものです。トマトソースは、トマトをハーブと煮詰めていますわ。さっぱりソースは、カルディナ帝国の調味料の醤油とレモンを混ぜた物です。どのソースでも美味しく召し上がれますわ」
父親は、かなりお腹がいっぱいみたいで、さっぱりソースを選んだ。
「お姉様、どれが良いのでしょう?」
ヘンリーとサミュエルは迷っている。
「グレンジャー海老には、オランデーズソースが合うと思いますわ。ただ、コッテリしてしまうから、トマトソースとあっさりソースも選べるようにしたのです」
その説明で、各自が自分のお腹の満腹度に合わせて、ソースを選んだ。
「私は、オランデーズソースにします」
ハーパーもエバに言われているから、私のパイは一番小さく切り分けている。これなら、一番合うソースを掛けよう。
ヘンリー、サミュエル、パーシバル、ジェニー、リンダは私の真似をする。
「アイラ、半分こにしない?」
あらら、ルーシーはちょっとマナー違反をしそうだ。
「ハーパー、ルーシー様に小さなパイを二皿、ご用意してあげて」
全員の目が私に集中する。
「ペイシェンス、それができるなら先に言って下さい」
パーシバルに文句を言われるのって、珍しい。
「食べてお代わりされても良いのですよ」
騎士達やパーシバルやヘンリーやサミュエル、騎士クラブの二人、ベリンダとアダムは、お代わりしたよ。
「うん、トマトソースもさっぱりして美味しいです!」
ヘンリーは二皿目は、トマトソースを選んだ。
「このさっぱりソース、冬の魔物討伐の時に、第一騎士団に譲ってもらったのに似た味です」
ベリンダは、よく覚えているね。
「ええ、第一騎士団には、ソースを販売していますから」
「本当に、ペイシェンスのソースがあったから、冬の魔物討伐も耐えられたのです」
パーシバル、それは言い過ぎだよ。
デザートはメロン! 今回は他のが手が込んでいるし、お腹いっぱいになりそうだから、果物にしたんだ。
「メロン! こんな高級品が!」
アダムは、バーンズ商会で物の値段を知っているみたい。
「これは、ハープシャーで作っていますの。さぁ、召し上がって下さい」
これは、まだ魔法で育てたメロンだけど、片方の魔法無しのメロンも実が少しずつ大きくなっている。
「これを王都に運べば……」
アダムは、ぶつぶつ言いながら食べている。
他の人は、黙って完食だ。
「ペイシェンス、また餌付けしましたね」
パーシバルに耳元で囁かれたけど、エバが張り切りすぎたんだよ。




