私の護衛?
エルビス卿は、九時過ぎに来てくれた。
バーンズ公爵領から来る騎士について話すと、やはり若いジェラルディン卿とは、王立学園の騎士クラブで一緒だったと言う。
「ジェラルディン卿は、とても頭の良い方でした。それに、サリエス卿と親友だったと思います。ロマノ大学に一緒に行こうと誘って、断られていたのを思い出します」
騎士クラブの繋がりは大きい。ノースコート伯爵がサミュエルに騎士クラブか騎士コースを選択するようにと言うのも少し理解できる。
ノースコートは、西部の防衛拠点の意味合いもある領地だからだ。
軍港にもなっているし、騎士との繋がりも深い。
ただ、サミュエルは騎士クラブのメンバーとは、ちょっと違うタイプなんだよね。乗馬は上手いけど、文官タイプなんだ。
「サリエス卿は、ユージーヌ卿がロマノ大学に進学されないから、自分も見習い騎士から修業すると決められたみたいですわ」
えっ、パーシバルも驚いている。
「そんな理由でロマノ大学に進学されなかったのですか? 私は、昔気質だからとばかり考えていました。昔は、見習い騎士を務めてから、騎士になるのが推奨されていましたから」
エルビス卿は、少し理解できると頷く。
「これまでも、何人かの女性騎士はいましたが、親が騎士で女性王族の警護の為に騎士になるというパターンが多かったのです。ユージーヌ卿は、子爵家の令嬢ですし、母上は反対されていたから、かなり大変だったでしょう。同級生なので、少しは知っています。サリエス卿は、ユージーヌ卿の手助けをしたいと考えられたのでしょう」
そうか! エルビス卿とユージーヌ卿は同級生なのだ。
「ユージーヌ卿は、子爵令嬢ですし、優秀でしたからAクラスで、私はBクラスでした。ミリアムは、入学した時はBクラスでしたが、卒業する時はAクラスだったのです」
ああ、ミリアムへの惚気もあるけど、本当に優秀な成績だったんだね。村の先生では勿体ないかも。
「ミリアム様のご両親は、教師をする件をどう考えておられるのでしょう?」
「父上のシャービー卿は賛成しておられます。ただ母上は、領主のペイシェンス様が領地に居られない時が多いのを心配していました」
成程、私が居るなら、ミリアムの保護者代わりになると考えられたのだ。
「秋学期は、社交界デビューもありますが、月に一度は領地に来るつもりです。それと、エルビス卿のお住まいは、兵舎の上でも宜しいのでしょうか? ミリアム様は、ハープシャー館に住んで頂くつもりですわ」
まだバーンズ公爵領からの騎士が来るまで時間があるから、兵舎の二階を案内する。
「これは、清潔で良いですね! 私の部屋より快適そうです」
パーシバルがクスッと笑っている。
「もう少し、広げても良いのですが?」
「いえ、十分ですよ!」
エルビス卿は、兵舎の二階で満足そうだ。勿論、結婚する時は、家を準備しなくてはいけないだろうけどね。
そろそろ、十時になるので、応接室で待機する。
「子爵様、バーンズ公爵様からの手紙が届きました」
銀のトレイの上に手紙が置いてある。
「今日、来られる予定の騎士が都合悪くなったのかしら?」
パーシバルが「開けてみたら」と言うので、ペーパーナイフで封を切る。
「まぁ! ローラン卿の奥方は、冒険者として活躍されていたのですね。私の護衛に推薦されていますわ。それと、騎士が護衛になるからと、管理人の助手を同行させますって書いてありますわ」
管理人の助手は嬉しい! モンテス氏だけでは、ハープシャーとグレンジャーの両方は大変そうなんだもの。
「ローラン卿の奥様はベリンダ様と言われるの。冒険者をされていただなんて、凄いわ!」
冬の魔物討伐の時、冒険者も参加していたけど、騎士や学生や魔法使いは、治療師が同行していたが、全て自己責任っぽくて、大変そうだと思ったんだ。
「管理人助手は、どの様な方なのでしょう?」
パーシバルは、騎士にも興味があるけど、管理人がしっかりしていないと私が困るから、心配してくれる。
「ええっと、まだ若い方だわ。あら、妹さんも同行すると書いてあるけど?」
結婚しているなら、妻を同行するのは当たり前だけど、妹を?
「ミッチャム夫人を呼んで!」
メアリーにミッチャム夫人を呼んでもらう。バーンズ公爵領には詳しいと思うから。
「アダム・ナイトリー様と妹のメーガン・ナイトリー様が来られるみたいなのですが、何か知っていますか?」
ミッチャム夫人が、パッと笑顔になる。これ、良い感じだよね。
「ええ、有名な双子ですから。アダム様と妹のメーガン様は、お二方とも優秀で、容姿も優れているから、バーンズ商会でも人気者でしたわ」
えっ、そんな人気者が、寂れたハープシャー領に?
「モンテス氏の助手なのですが、大丈夫でしょうか?」
そんな華やかな人達が、農業や漁業に興味があるのか首を捻る。
「バーンズ公爵様が推薦されたのですから、本人も納得して受けたのだと思います。公爵様は、無理強いされる方ではございませんから」
パーシバルも横で頷く。
「面接の時に、何故、ハープシャー領に来る気になったのか、聞いてみたら良いと思う」
そうだよね! そろそろ、約束の時間だ。ちょっと緊張してきたよ。
管理人の助手も来るのだから、モンテス氏にも面接に参加してもらう。
ハーパーが騎士達が到着したと告げるので、ピシッと座り直す。
「ハープシャー子爵様、お初にお目に掛かります。ローラン・クレイトンと申します。隣にいるのは妻のベリンダです」
三十二歳と推薦状には書いてあったけど、思ったよりスラリとした身体つきで、若く見える。濃い金髪と明るい青い目、北部っぽい容貌だ。
「子爵様、冒険者をしていたベリンダと申します。バーンズ公爵領では、奥方が外に出られる時の護衛を務めていました」
ベリンダは、ゴージャスな美人だ。燃える様な赤毛を後ろで無造作に括っているけど、華やかな容姿を少しも損なっていない。
革の胸当てとズボン姿なのに、ドレス姿より艶やかだなんて、羨ましいよ。
パーシバルは、護衛と聞いて、私の手を軽く握った。常に、私の安全を気にしているからだ。
「子爵様、お初にお目にかかります。ジェラルディン・マートンと申します。こちらにお仕えできれば幸いです」
ローラン卿は、スラリとしていると言っても、騎士らしく背も高く筋肉も付いている。
ジェラルディン卿は、銀髪に薄いブルーの目、デーン王国の人に似た容貌で、長身だけど、かなり細身だ。
「子爵様、手紙が届いているか、わかりませんので、バーンズ公爵様からの推薦状を持参いたしました。アダム・ナイトリーと申します。こちらは妹のメーガン。二人ともバーンズ商会でフロアマネージャーをしていました」
ミッチャム夫人から容姿の良い双子と聞いていた通り、アダムは華やかなハンサムだし、メーガンもクールビューティだ。キラキラとした金髪、それにブルーグレイの瞳。人気者なのもわかるよ。
モンテス氏が推薦状を受け取り、私に渡してくれた。
「皆様、お座りになって下さい。公爵様からの推薦状を拝読させていただきますわ」
ペーパーナイフで封を切って、推薦状を読む。ああ、本当にこの二人は優秀だったみたい。王立学園をAクラスで卒業している。ただ、商会ではもっとやりたい事があるのを我慢している感じで、勿体ないと公爵は考えて、こちらに推薦したのだ。
それと、文末にベリンダについても信用できる護衛だから、常に側に置くようにと書いてあった。うん、簡単な文章だけど、信頼が滲み出ているよ。
「私は、ペイシェンス・グレンジャー・ハープシャー。見ての通り若いです。今年からハープシャー領とグレンジャー領を拝領したばかりで、やるべき事が山積みなのです」
見栄を張っても仕方ない。それに、ハープシャー館に来る前に、寂れた領都も見ているからね。
さて、この騎士達、管理人の助手の話を聞いてみよう!




