騎士達はどんな人?
今日は、パーシバルがハープシャー館に帰ってくる。
朝からテンションが上がるね! それに秘密の誕生日プレゼントも用意できたから、パーシバルの留守は、もういらないよ。
一緒にいたい! モラン領にも一緒に行きたかったなぁ!
私が帰ってくるパーシバルに想いを馳せているのに、メアリーは予定を話しだす。
「お嬢様、バーンズ公爵様が紹介して下さった騎士の方々が来られるのですよね。服装は、キチンとした威厳のある物を選びませんと!」
夏休みなのに、正装なんかしたくないよ。
「私が若いのは、彼方も承知の上だと思うわ。それに、暑苦しいのは嫌よ。キチンとした格好で面会するのは、必要だと思うけど、大袈裟にしないでね」
釘を刺しておけば、メアリーに任せておいても大丈夫だ。
「ミッチャム夫人を呼んで来て」
私は、騎士を雇うのは初めてだ。エルビス卿は、近くのノースコート領からだから、今日も気軽に来てくれる。
「お呼びですか?」
ミッチャム夫人も忙しそうだ。
「ええ、今日来られる騎士の方々をどう待遇したら良いのか、聞きたいと思ったのです」
ミッチャム夫人は、成程と頷く。
「本来なら、採用が決まるまでは、町の宿に泊まらせても良いのですが、ここの宿は少し……。ですから、グレンジャー館に宿泊させては如何でしょう」
宿のテコ入れもしたいよ! こんな時に不便だし、ワインを買い付けに来た商人も、あんなボロ宿には泊まりたくないだろう。
「幸い、グレンジャー館はとても素敵に改築されていますから、彼方に泊まるのは快適でしょう」
ふむ、ふむ、それは良いとして、採用ならどうすれば良いのかな?
「エルビス卿は、まだ細かい条件は決めていませんが、採用するつもりです。彼は、いずれはミリアム様と結婚したいそうです。彼女は、教師になって貰う予定です。住む場所は、どうしたら良いのでしょう」
ミッチャム夫人は、少し考えて口を開いた。
「すぐに土地持ちの騎士にされるので無いなら、領都に家を用意する必要がありますね。でも、若い騎士なら、兵舎に一時的に滞在するのを受け入れるかもしれません。ミリアム様は、彼方のご両親の考えもありますから、それを考慮してから決めた方がいいですよ」
ふうん、その人次第なんだ。でも、いずれにしても家が必要なんだね。ミリアムは、ちょっと保留だ。この世界では、親の意見が強いからね。
「グレンジャー館に一時的に住んで貰う事もできるのが大きいですね。ハープシャー館に独身の騎士が住むのは、お嬢様がお若くて独身だから、悪い評判が立ったら困ります」
ああ、エルビス卿は、婚約者はいるけど独身だし、バーンズ公爵が紹介してくれた騎士の一人は独身だ。
三十代の騎士は、結婚していると書いてあった。今回は、奥方は同行しないのかな?
「妻帯者は、家が必要ですよね?」
このハープシャーにも貸家はあるみたいだけど、私が住みたい家はない。王都のグレンジャー屋敷みたいな大きな家じゃなくても良いけど、ボロくて不潔なのは嫌だよ。
「ええ、ラドリー様がいらしたら、依頼しては如何でしょうか? これから、使用人も増えますし、雇う人も増えそうですから」
成程! 宿屋は、前からあるのをテコ入れしようと考えていたけど、家は領主が建てて、貸しても良いのだ。
オルゴール体操をした後、朝食の時にパーシバルが帰ってきた。
「こんなに早くすみません」
「いいえ、少しでも一緒の時間が長い方が嬉しいです」
これは本音だよ。えっ、サミュエルが呆れている。
少し遅れて朝食をとるパーシバルを、見ているだけで、にまにましちゃう。
「本来なら、十時前に着くようにしようと考えていたのですが、騎士の面接が楽しみで、起きたらすぐにきてしまいました」
それは、本当だろうけど、できたら『ペイシェンスに一刻も早く会いたかった』と嘘でも良いから、言って欲しかったな。
「パーシー様にも一緒に面接して欲しいと思っていましたから、嬉しいですわ」
朝食後は、執務室でパーシバルと資料を見ながら、騎士について話す。
「ローラン・クレイトン卿は、三十二歳ですか。この方は結婚されているのですね」
うん、バーンズ公爵が変な騎士を紹介したりしないとは思うけど、結婚している騎士が他の領地に変わるって有りなのかな? 奥様は、いやがらないのかしら?
「そして、もう一方はロマノ大学を卒業されて、騎士になられたジェラルディン・マートン卿ですか。若いですね! この歳なら、エルビス卿は知っておられるかも?」
パーシバルが騎士クラブでエルビス卿の顔を知っていたように、ジェラルディン卿とも顔見知りかもね。
「エルビス卿には、少し早めに来て頂くように手紙を書いてあります。ジェラルディン卿について、何か情報があるかもしれませんね」
それから二人で、騎士長をどうやって決めるのか? 住む場所は、どうするのか? 色気のない話をする。
「妻帯者のローラン卿は、家を用意しないといけないでしょう。他の二方は、モラン領では、兵舎の二階に騎士の部屋を作っています。独身の騎士は、従者が身の回りの世話はしますが、料理とか困る場合が多いですから」
兵舎も、ハープシャー館を改築した時に、清潔に住みやすくしてある。
「二階に、騎士長の執務室と騎士の待機部屋はありますが、大きな騎士の部屋は無かったと思います」
パーシバルも見学していたので、兵舎の間取りは知っている。
「まだ領兵は少ないので、空いているスペースはありますよね。二部屋を繋げて、広い部屋にしても良いし、本人が気にしなければ、隣に従者の部屋を配置しただけでも良いかもしれませんね」
「えっ、そんな感じで良いのですか?」
騎士だから、一応は貴族だよね?
「遠征に行ったら、野宿もあります。若い騎士なら、ハープシャーの兵舎で満足すると思いますよ。それに従者の部屋に荷物を置けば、応接家具を配置できるスペースもできます」
そんな感じなの? まぁ、いずれは家が必要だろうけどね。
メアリーに急かされて、少しキチンとしたドレスに着替える。綺麗なブルーだけど、レースの襟がついたかっちりとしたデザインだ。クラリッサの秘書服に似た感じだね。
「髪は結い上げましょうか?」
まだ幼さが残った顔で、髪の毛を結い上げるのは似合わない。ゆるふわなら、似合うけど、面接には不似合いだよね。
「いいえ、ハーフアップで良いわ。無理に大人びた格好をしても、駄目だと思うの」
ただ、少しだけかっちりしたイメージを与えたいから、眉墨とリップクリームで薄化粧した。
「どう見ても、威厳とかは無いわね」
鏡の中の私は、精一杯頑張っても若い令嬢だ。この点、やはりマーガレット王女は、王族としての威厳を感じる時があるんだよね。朝一と音楽愛が炸裂している時は、全く感じないけどさ。
ジェーン王女は……これからだよ!
「私もこれからだわ!」
ピシッと気合いを入れて下に降りる。




