パーシバルが居ない間に!
今日も味噌と醤油の作り込みがあるけど、私は他の事をする。
「クラリッサ、今日は錬金術よ!」
朝食の席で告げると、クラリッサはキラキラした目になる。ルーシーとアイラは、昼からも勉強だと言ったら、半分死んだけどね。
「ジェニー様とリンダ様、昼からは領兵とパトロールと、その後はヘンリーに剣術指南をお願いします」
三年生のルーシーよりは、二人は余裕があるからね。アイラは、自分は? って不満顔だけど、同じ魔法クラブだから付き合ってあげてね。
「ヘンリーは、午後からはサミュエルも来るから、一緒にお勉強と剣術の稽古で良いかしら?」
ナシウスはいないけど、今日からサミュエルが泊まりに来る。勉強合宿の色合いが強くなったね。
「ええ、お兄様がいらっしゃらないから、私が一緒に勉強します。それに、サミュエル様から乗馬を習います」
良い子だね! 可愛いから、キスしておこう。
錬金術工房で、クラリッサには珪砂とスライム粉を混ぜて、瓶を作ってもらう。
「これの代金も別に払うから、頑張ってね!」
「えっ、賃金を貰えるのですか! 頑張ります!」
やる気になったクラリッサ、可愛いな。頑張る女の子は、応援したい。
パーシバルや父親と相談しなくちゃいけないけど、私の口座、かなり資金が貯まっているんだ。
その一部をロマノ大学の奨学金にしたいと考えている。特に、貧しくて進学を諦めている子や、女の子だからと親がロマノ大学の学費を出してくれない子にね。
領地の改革にもかなり資金を投入したけど、どんどん増えていくんだよ。バーンズ商会のお陰だけど、それだけじゃない。
特許使用料、こんなにお金になるとは考えていなかったよ。
それは、後で相談してからにしよう! 今は、パーシバルの誕生日プレゼントを作らなきゃね。
巨大毒蜘蛛の糸を取り出して、設計図を見ながら唱える。
「ポリカーボネートの盾になれ!」
前世で、警察とかがデモの鎮圧に使っていた透明な盾だよ。とはいえ、巨大毒蜘蛛の糸は、半透明だから、少し白っぽい。
「見た目は、まぁまぁイメージ通りだけど、強度は無いわね」
コンコンと叩いてみるけど、プラスチック並みの強さしかなさそう。
「ペイシェンス様、それは盾ですか? 金属じゃないと弱いのでは?」
横で、珪砂とスライム粉を滑らかにしていたクラリッサが、こちらにやってきた。
「でも、強化の魔法陣と守護魔法陣を重ね掛けしたら、強い盾になると思うの」
それと、バリアを張る機能を付けたい。パーシバルは、私の盾になると言ってくれる。それは、嬉しいし、凄く心強いけど、パーシバルが怪我するのは嫌なんだ。
「先ずは、強化の魔法陣と守護魔法陣を組み合わせなきゃ」
魔法陣の修了証書を貰ったし、ゲイツ様の魔法陣の本を暗記したけど、まだまだ勉強不足なのをこんな時に実感する。
「でも、魔法学科にはしないわ!」
魔法学科に進学したら、そのまま魔法省にエスカレーター式に就職が決定しそうなんだもの!
ゲイツ様なら、サラサラと魔法陣を描くのだろうけど、私は、うんうん唸っちゃう。
クラリッサは、滑らかにした珪砂で、見本通りの瓶を作るのに難航しているみたい。
「大きさを揃えないと駄目よ。販売するのですからね」
不揃いなのは、家で使うよ。でも、それはクラリッサには言わない。甘やかしたら駄目だからね。
「これでは、多分、魔石の消耗が激しいかも、ループさせたら良いのだろうけど……悔しいわ!」
ゲイツ様の有能さが憎い! 相談したら、サラサラと描き直しそう。でも、これは私が考えたいのだ。だって、パーシバルの誕生日プレゼントなんだもの。
午前中は、この魔法陣を考えるだけで終わった。なんとか魔法陣を描いたけど、これでは途中で魔石が消耗してしまう。
お昼、サミュエルが来ていたけど、私の頭の中は、魔法陣がグルグル回っていた。
「ペイシェンス? 大丈夫なのか?」
「ああ、サミュエル……御免なさい。今、少し行き詰まっているの」
サミュエルは、クスッと笑う。
「何でも余裕でこなすペイシェンスが行き詰まるだなんて事もあるんだな。そんな時は、気晴らしに乗馬でもしたら良いのだ」
うっ、よりによって苦手な乗馬? でも、ヘンリーのキラキラ光線に負けちゃった。
「そうね! クラリッサにも乗馬を教える約束だったし、馬の王も退屈しているでしょう」
昼からは、予定を変更して乗馬訓練になった。
「私達も乗馬訓練をしたいです!」
ルーシー、貴女はそれどころじゃないでしょう! と思うけど、行き詰まっている自分を顧みると、数学ばかりだと嫌気がするのも理解できる。
「ええ、昼からは予定変更よ! ジェニー様、リンダ様、乗馬訓練を手伝って下さい」
ルーシーとアイラは、少しだけ馬に乗った事があるけど、クラリッサは、全く乗った事がない。
初心者三人をサミュエルだけでは、心許ないからね。
「カミュ先生も指導をお願いします」
サミュエルや騎士コースの二人は、貴婦人乗りはあまり詳しくなさそう。これは、カミュ先生の方が適任だ。
「ブフフン?」『どうしたのだ?』
馬の王にも心配されたよ。
「何でも無いわ! 少しスッキリしたいから、私でも大丈夫な程度のスピードで走って!」
えええっ、これって凄く速くない? 風景がスッ飛んでいく。
「あれっ、それ程の風は感じないわ。そうだ! 馬の王は雪も防いでくれたのよ」
馬の王を止めて、どうやって風や雪を防いでいるのか尋ねる。
「ブフフン! ブヒヒヒヒン!」
『偉いからできるのだ!』と言われてもねぇ。
「お願い、やってみて!」
走っている最中は、私は落ちないかやはり心配で集中できない。
「ブヒヒヒヒン?」『これで良いのか?』
「そうか、風のバリアを張っているのね!」
パーシバルは、風の魔法が得意だ。風の刃を飛ばして、討伐していた。
「ふふふ……良いアイデアが浮かんだわ! 馬の王、ありがとう!」
「ブフフン!」『なら、走りたい!』
えええっ、これからバリアの魔法陣を描こうとおもっているんだけど……仕方ない。付き合いましょう。
「リンダ、一緒に遠乗りしましょう!」
カミュ先生は、クラリッサやルーシーとアイラの指導に手が掛かっているから、リンダを遠乗りに誘う。ジェニーは、ヘンリーの指導をしてくれていたから、誘わなかった。
だって、ヘンリーが楽しそうなんだもの。
「私も遠乗りに参加するぞ!」
サミュエルは、厳しいから、誘いたくなかったけど、かなりお客様の相手でストレスが溜まっているみたい。
「ええ、途中から、馬を交換しましょう。馬の王は、わたしだと全力疾走ができないみたいなのよ」
「それは、光栄だよ!」
鞍の交換は、リンダとサミュエルが手早くやってくれた。
「ペイシェンス様、私も馬の王に乗っても良いでしょうか?」
リンダの目がキラキラだ。
「どう?」と馬の王に尋ねたら「ブフフン!」『良いだろう!』だって。
馬の王って乗馬技術が上の人が好きだよね。何故、私を主人に選んだのか、本当に謎だよ。
遠乗りから帰ったら、メアリーが「お着替えを!」と言ったけど、思いついた魔法陣を描く方が先だよ。
「そうだわ! サティスフォード子爵館に掛けた時も、空気を病原菌が通らないようにと思ったのよ。今回は、物理攻撃、魔法攻撃が通らないようにしなくちゃいけないのだわ」
ちょっとチートだけど、こんな時は頼ってしまう。だって、パーシバルの誕生日プレゼントなんだよ。
ここで使わなきゃ、いつ使うんだよ!
「バリアの魔法陣、現れろ!」
わぁぁ、かなり魔力が取られちゃった。メアリーが支えてくれなかったら、倒れたかも。
「お嬢様、また無理をなさって!」
メアリーのお小言は、後で聞くよ。
「これを、この盾に組み込むのだけど、後ろに金属と持ち手を付けなきゃいけないわね」
魔法を通す金属、それは一番はミスリルだ。でも、手元には無いし、手に入れる手段もない。
「ゲイツ様に頂いた剣を溶かせば……でも、誕生日プレゼントを溶かすのはマナー違反だわ」
パーシバルの誕生日プレゼントの為に、ゲイツ様からの誕生日プレゼントを溶かして使うのは、流石にやめておこう。
銀を溶かして魔法陣を二つ描き、魔石をセットできるようにする。
「持ち手は、パーシー様に待って貰って、少し変更しても良いわ」
領兵が使っている盾を見本にしたけど、こっち方面は素人だからね。




