少し、錬金術で作ろう!
お茶の後、生活魔法教室をしたけど、クラリッサは不参加だった。
彼女には、冒険者ギルドに材料を調達しに行って貰ったからだ。
「ああ、良かったわ! 巨大毒蜘蛛の糸がいっぱいあるわ」
「これは、元々、漁師達が使うから、集めていたようですわ」
キャリーと護衛達が大きな木箱に入った巨大毒蜘蛛の糸を、錬金術工房に運んでいる。
「ペイシェンス様、これで何を作るのですか?」
クラリッサの目がキラキラしている。
「一つは、網ですのよ」
ちょっとガッカリしたみたい。漁師も使っているからね。
「ふふふ、でも使い方は違うし、魔物に襲われないようにしたいのよ。でも、先ずは網を作りましょう」
海老の養殖をするのに、浅瀬を仕切って生簀を作りたい。
「土魔法で仕切っても良いけど、水を循環させるより、網の方が良いと思うの。でも、マッドクラブの餌場にはしたくないから、網に電撃作用を付けたいのよ」
ゲイツ様から、魔法陣の本を暗記させられたから、電撃の魔法陣もわかっている。
「網に触ると、ビリビリするのですか!」
クラリッサも単なる網ではないと分かって、やる気満々だ。
「箱から、糸を出して……あらら、くちゃくちゃのも混ざっているのね」
クラリッサも驚いている。
「まぁ、不良品も混ざっていたのですね!」
「いえ、これが普通なのでしょう。それに、簡単に真っ直ぐにできますよ」
クラリッサにも生活魔法を教えよう。
「真っ直ぐになれ!」
くちゃくちゃだった巨大毒蜘蛛の糸が真っ直ぐになった。
「ペイシェンス様! これは、錬金術ではありませんわ。生活魔法ですか?」
ううん、私の錬金術は、他の人と少し違うみたいだから、よくわからない。
「多分、生活魔法と錬金術のミックスだと思うの。でも、できるようになったら便利だと思うわ」
クラリッサは、まだ私よりちょこっとだけ背が低い。後ろから抱き込むのも楽だね。
「真っ直ぐになれ!」
クラリッサは、錬金術の腕が良い。それに魔法の勘も良いから、何回か一緒に唱えたら、コツを覚えた。
「これは、私がやりますわ」
真っ直ぐにするのは、クラリッサに任せて、私は網を作る。
一応は、設計図を描いてある。明日、ベッカム教授と話し合うのに使おうと用意してあったのだ。
「最初は小さな範囲でやりたいわ」
実験してから、養殖をしたいからね。
「クラリッサ、網の作り方も見ていてね」
真っ直ぐになった巨大毒蜘蛛の糸で網を作る。
「大きな網なのですね!」
「いえ、これは実験用ですから、小さいのですよ」
網ができたら、電撃の魔法陣を描いて、それを網に付ける。
「本当に、ビリビリするのでしょうか?」
「今は、魔石を設置していませんが、ビリビリする魔法陣ですからね」
その魔石もクズ魔石を纏めた物を活用したい。これは、ナメクジの粘液はまだ集まっていなかったから、王都で作った物を利用する。
「後は、これを浮かせる必要があるわね」
浮きは、珪砂とスライム粉を混ぜて作る。
「錬金釜に入れるのを手伝って!」
メアリーとキャリーとクラリッサとで、錬金釜に材料を入れていく。
「クラリッサ、混ぜてみて!」
スライム粉がぶつぶつになっているのを、錬金術で滑らかにしないといけないのだ。
「ええっと、スライム粉よ、珪砂に混ざれ!」
少しは滑らかになったけど、ぶつぶつが少し残っている。
「クラリッサ、このままでは質が悪くなるの。もっと滑らかにしないといけないわ」
何回か錬金術を掛け直させて、やっと滑らかになった。
「後は、この設計図通りの浮きを作るのよ」
クラリッサは、魔力切れみたいだから、私が作ろう!
「浮きになれ!」
十何個かの浮きを作り、それを網に取り付けて、今日の作業はお終いだ。
「クラリッサも魔力量をもっと多くした方が良いわね。オルゴール体操で魔素の取り込みを頑張りましょう」
夕食の為のお着替えの時間だ。メアリーが少しイライラしてきているからね。
「クラリッサも着替えなさい」
こちらは、キャリーが待ちくたびれている。それに、キャリーは未だメアリーみたいに、手早く髪を整えられないから、気が急くみたい。
クラリッサの父親は、昔気質だから、ロマノ大学の進学資金は出さないけど、ドレスは持たせている。
でも、それは昔ながらの子供服で、フワッとスカートが膨らんでいるんだよね。
私が用意させたのは、もう少し今風のだよ。それと、秘書服も用意させた。
メイドは黒の木綿ドレスだけど、濃紺の絹のドレスだ。それと、白のレースの襟。清楚だけど、使用人とは違う感じが出てて、良いと思う。
王宮の女官程はかっちりとしていない。それに、クラリッサは未だ若いから、膝下ぐらいの長さだしね。
今夜は、パーシバルと少し夜の散歩をしたいから、おめかしするよ。
髪の毛にバラの蕾を飾ってもらう。ドレスはカルディナ帝国の薄いピンクの生地で、細かなプリーツが上から下まで入っている。
「お嬢様、とてもお綺麗ですわ」
メアリーは身贔屓が凄いけど、鏡の中の私は、かなり可愛い。
後は、メアリーをなんとか撒いて、パーシバルと夜の庭を散策したい。ううん、難問だよ!
夕食は、パトロールで狩ったアルミラージがメインだ。
今夜は、壷焼きにして貰った。こうすると、柔らかいし、野菜の旨みが肉に染み込んで美味しいんだ。
「まぁ、これは可愛い料理ですね」
壷焼き自体は、王都でも食べられているけど、壺が大きいんだ。これは、小さな可愛い壺に一人ずつ。ルーシーは、喜んでいる。
「ペイシェンス様、これでは足りません!」
「お代わりをすれば良いのですよ」
騎士クラブの二人、パーシバルは、お代わりしたけど、私にはこれで十分。
だって、今夜のデザートはメロンケーキなんだもの。大好物なんだよね!
「もしかして、デザートは?」
パーシバルは気がついたみたい。
「ええ、メロンがいっぱい実りましたから」
お代わりした組も、メロンケーキは美味しそうに食べている。デザートは別腹だよね。
さて、これから普段は居間に移動して、話をしたり、音楽を楽しむのだけど……今夜は二人になりたいのだ。
「パーシー様、馬の王の様子を見に行こうと考えています」
パーシバルは、ピンときたみたい。
「そうですね! ペイシェンスは馬の王に今日は乗っていませんから」
サッとエスコートしてくれる。ああ、でもメアリーも付いてくるよ。仕方ない。
「今日は満月ですわね」
「ええ、月が綺麗です」
馬の王に会いに行く途中、パーシバルと話をする。このところ、ゆっくりと話していないからね。
「明日は、グレンジャー館に行きますが、パーシー様はモラン領に行かれるのですか?」
モラン伯爵が王都を離れられないから、その分、パーシバルが領地の管理をしないといけない。
「いえ、明日はグレンジャー館に一緒に行きますよ。私も米の栽培や海老の養殖が可能か興味がありますから」
あれっ? もしかして、グレンジャー館にフィリップスが滞在しているから、嫉妬しているのかな?
「フィリップスは、ペイシェンスのことが好きですから、私は目を離さないつもりです」
あらら! なんだか、凄く良いムード。
バラのアーケードを素早く回って、キスする。
「馬の王が待っていますね」
メアリーも足早についてくるから、キスは一瞬だ。でも、ドキドキが止まらない。
「ええ、馬の王に角砂糖を持って来ていますのよ」
二人で笑いながら、馬小屋まで走る。
「ブヒヒン?」『何だ?』と馬の王に不審がられたけど、角砂糖を手のひらに乗せてあげると喜んだ。
「ブヒヒヒヒヒン!」『美味しい!』
「明日は、グレンジャー館にまで一緒に行きましょう!」
「ブヒヒン!」『わかった!』
久しぶりに、パーシバルと一緒にブラッシングしてやる。メアリーは、薄い絹のドレスを心配しているけど、生活魔法があるから大丈夫だよ。




