生活魔法教室!
水路の整備、今日の予定は完了したので、ハープシャーの館に戻って少し休憩する。
ヘンリーと父親も一緒にお茶をしていると、パーシバルと騎士クラブの二人も戻ってきた。
「パーシー様、お疲れ様です」
どうやら、パトロールの最中にアルミラージの群れを見つけ、討伐したみたい。
「夏のアルミラージの毛皮は茶色なのね!」
冬の白の毛皮の方が可愛いけど、これは、これで需要がありそう。
「ところで、領兵は如何でしたか?」
パーシバルは、飲みかけていたティーカップをソーサーに戻す。ああ、やはり訓練不足なのだ。
「乗馬技術も足りませんね。農家の次男とかは、馬に乗る機会も無かったのでしょうから仕方ありませんが、冒険者も未熟です」
馬車用の馬だけでなく、乗馬用の馬も購入したのだけど、領兵全員には行き届いていない。
「それは、少しずつ訓練するしかありません。それに、剣や槍の訓練もしなくては!」
パーシバルは、騎士クラブの二人にも「お茶の後は剣の訓練をします!」と厳しい。
私には、常に優しいパーシバルだけど、騎士クラブの脳筋連中には結構厳しい態度だった。でも、騎士クラブは、そう言う風潮なのか、二人は「はい!」と喜んでいる。
「あのう、私も一緒に剣の稽古をしても良いでしょうか?」
あっ、ヘンリーは昼から暇にしていたのだ。ナシウスがいないのに、お姉ちゃん、うっかりしていたよ。
「勿論だよ!」
パーシバルは、笑って参加したら良いと言ってくれた。
「ヘンリー、明日は、お昼からはルーシー様やアイラ様に生活魔法を教えてあげて欲しいの」
明日は、グレンジャー館で海洋生物学科と植物学科の教授と打ち合わせがあるからね。
「ヘンリー様も生活魔法が使えるのですか? 身体強化だと思っていたのですが?」
ルーシーは、数学はできないけど、魔法関係は勘が鋭い。ヘンリーの魔法を見抜いていた。
「ええ、教会では身体強化を賜ったと言われましたが、お姉様に生活魔法を習ったのです。お兄様ほどは、上手くできませんが、騎士になるなら浄化ができると便利だと教わりました」
お茶を飲んでいたジェニーとリンダがピクッと反応する。討伐の時、やはり女の子だから清潔にしたいと思っていたようだ。
「ヘンリー様、私も生活魔法を教えて下さい」
「生活魔法があれば、遠征中も快適に過ごせます」
あれれ? お茶の後は、剣の稽古の筈が、生活魔法の練習になっちゃった。
ライトマン教授や助手達も参加で、大人数になった。
「ペイシェンス、私も是非!」
ああ、パーシバルにも教えると約束したままだったね。
家政婦のミッチャム夫人が、お菓子のお代わりを勧めながら、話を聞いていた。
「お嬢様、その生活魔法教室を見学させて頂いても宜しいでしょうか? 三人の指導に役立てたいと思います」
お針子組の三人、生活魔法が少し使えるようになったけど、あまり上達していないみたい。
「ええ、見学は構いませんわ。ただ、魔力量が少ない方は、朝のオルゴール体操で魔素を身体に取り入れた方が有効かもしれません」
ミッチャム夫人は「明日から、私も参加します!」とやる気だ。ただ、メイド見習いの三人は、毎朝は無理みたい。交代で参加させるとミッチャム夫人はタイムスケジュールを考えている。
父親は、お茶の後は読書だ。本当にブレない態度だけど、まだ遺跡に興味があるのか、カザリア帝国の歴史本だね。
「お父様、ナシウス達と一緒に遺跡を見学されても良いのですよ。馬車を出しますわ」
一応、声を掛けておく。
「ああ、だがナシウス達は、遺跡の建物を全て調査すると言っていたから、別行動の方が良さそうだ。合宿が終わってから、ナシウスに案内してもらおうと考えている」
暑い最中、陰のない遺跡を調査するのは、父親の体力的に無理みたい。
「ええ、それが宜しいかと思います」
ヘンリーは、生活魔法の先生をするのだと張り切っているから、領兵達の訓練所に移動する。
「ヘンリー、ルーシー様とアイラ様に『綺麗になれ!』を教えてあげてね」
この二人は、ちょこっと指導してあるし、魔法関係の勘は良いからね。
私は、ライトマン教授達とパーシバルと騎士クラブの二人だ。
「皆様、生活魔法はとても簡単なのです。庶民でも使える魔法ですからね」
先ずは、簡単だと思う事が大事だよ。
「見本をお見せするので、よく見ておいて下さい」
いつもは、無詠唱でする事が多いけど、見本だから、少し大袈裟に詠唱する。
「パーシー様、綺麗になれ!」
パーシバルもお茶の前に、さっと顔や手は洗っていたけど、夏だからね。パトロールで少し汗をかいていた。
「ああ、とてもスッキリしました」
見た目にも、髪の毛サラサラ、キラキラ度アップだよ。
「ペイシェンス様! 私にも教えて下さい!」
ああ、騎士クラブの二人、本気度がマックスだ。
「ええ、他の皆様もよく見て下さい」
女の子二人は、身体の接触もしやすい。背が高いから、ちょっと遣り難いけど、後ろから抱え込むようにして、一緒に詠唱させる。
「綺麗になれ!」
うん、殆ど私の魔力だけど、少しだけジェニーのも混ざっているね。
「まぁ! 本当にスッキリします!」
「後は、何回も練習しておいてね!」
リンダもちょこっとだけ、できた。
「お二人は、今日はこれを練習して下さい」
女の子は、良いけど……教授達はね。どうやって教えよう?
「ペイシェンス、私の手を握って教えて下さい」
パーシバルは、抱きついても良いけど、他の方の目もあるからね。
「ええ、パーシー様、一緒に唱えてみましょう。『綺麗になれ!』」
今度も、ほぼ私の魔力だけどパーシバルのも少し混ざっている。
「ああ、こういった感じなのですね」
パーシバルには、練習してもらって、少し恥ずかしいけど、ライトマン教授の手を握る。
「ペイシェンス様、社交界ではダンスもするのですから、そんなに恥ずかしがらなくても良いではないですか」
そうなんだけど、ダンディな教授と接近すると、少し緊張しちゃうよ。
「ペイシェンス、私と三人で手を握りましょう!」
パーシバルとライトマン教授と私で三角形に手を繋いで『綺麗になれ!』と唱える。
うん、これだと向かい合わなくて良いから、気が楽だ。
「ああ、こういう感じなのか! これは良いですね!」
ライトマン教授も手や顔は洗っていたけど、土木作業だったからね。
他の学生達とも、パーシバルと一緒に手を握って練習する。えっ、パーシバルだけいつも参加だって? だって婚約者だし、何回も練習したら上手になるからね。
「明後日は、生活魔法で土を耕したり、浄水を作る方法をお茶の後で練習しましょう。明日は、ベッカム教授とリンネル教授と話し合いですから、今日の復習をしておいて下さいね」
でも、ライトマン教授はミッチャム夫人との会話も聞いていた。
「ナシウス君がやっていたオルゴール体操、私達も参加したいです。魔力はいくらあっても嬉しいですから」
あらら? 台紙が足りるかしら?
「きっと、リンネル教授やベッカム教授の助手達も参加すると思いますよ」
パーシバルが笑う。
「台紙は、お渡ししますわ!」
ミッチャム夫人やメイド見習いの三人のも作らなきゃいけないからね。
ヘンリーも上手く、ルーシーとアイラに『綺麗になれ!』を教えている。これ、本当に便利だよね。




