歴史研究クラブの合宿!
馬車でメアリーもグレンジャー館に着いた頃、ナシウス達の遺跡見学組と歴史研究クラブのメンバーも到着した。
「ペイシェンス様、お招きありがとうございます」
部長のフィリップスが代表して挨拶する。他の部員四人とユーリも一緒に頭を下げている。
「お疲れでしょう! 部屋を用意する間に、昼食にしましょう」
本当は、部屋で寛いでから昼食の方が良いだろうけど、もうお昼を過ぎているからね。
「朝早く王都を発ちましたので、お腹が空いています。ありがたいです」
門が開くと同時に出発したみたい。
そうは言っても、手と顔は洗って貰う。各自の部屋は、まだ荷物を運んでいる状態だから、空いている部屋で二、三人ずつ。
「ああ、やはり海の幸が美味しいです」
去年、ノースコートでも新鮮な魚料理が多かったからね。
ユーリとその弟のフランシスも美味しそうに食べている。薄い色の金髪がよく似た兄弟だ。
フィリップスと歴史研究クラブのメンバーは、ナシウスから遺跡の様子を聞きながら食べている。
どうやら、今年は観光客が多くて、地下通路は、時間制限があるそうだ。
灯がついているとはいえ、暗いし、階段があるから、大人数は危険だとノースコート伯爵は考えたみたい。
「去年みたいに、自由には地下通路にはいけないのか……」
「ええ、でも中に入ったら、少しぐらい長く居ても良い感じです。格納庫の開閉時間も決まっています。勝手に開けては駄目みたいですよ」
フィリップスは、少しガッカリしているけど、まだ見ていないメンバーもいるからね。
「格納庫が開くのを見てみたいのだ!」
「地下通路を歩くのが楽しみです」
食事が終わった時、ユーリが「泊めてくれて感謝している」と言った。
父親が言わなければ、泊めていなかったよ。
「遺跡の調査、頑張って下さい」
一応は、激励しておく。ナシウスの先輩になるからね。
グレンジャー館にナシウスを置いて帰るのが辛い。
でも、ナシウスは歴史研究クラブのメンバーと、これからすぐに見学に行こうとわちゃわちゃ騒いでいる。
「お姉様?」
ヘンリーが怪訝な顔をして、私を見ている。
「ナシウス、暑いから、気をつけるのよ」
ナシウスは、ケロッとしているから、抱きしめたりできない。
「はい! 気をつけて調査します」
ううん、これ以上は引き延ばさない。
「ペイシェンス、ハープシャー館に帰りましょう」
パーシバルに言われて、渋々馬車に乗る。
パーシバルは、馬の王で颯爽と走っている。その姿は、素敵だけど、今は涙で霞んでいる。
「ペイシェンス様?」
同じ馬車のルーシーとアイラとクラリッサが何故泣いているのかと不思議そうだ。
「ナシウスをグレンジャー館に置いて帰るのが寂しくて……」
ハンカチで涙を拭いて、空元気を出して答える。
「えっ! ペイシェンス様は弟君を凄く可愛がっておられるのですね!」
ルーシーとアイラは、兄弟はいるけど、そんなに仲が良くない。いや、悪くは無いけど、あまり気にしない感じだと笑う。
「クラリッサは、エドと仲良しでしょう?」
錬金術クラブでも仲良く話しているよね?
「仲は悪くはありませんが、エドは父に優遇されているから、少し腹が立つ事が多いですね。ロマノ大学にも普通に進学できますし」
ああ、そう言っていたね。それに、誕生日が年を跨いでるのを厳密に捉えて、一年遅れて王立学園に入学させられたのにも腹を立てて、髪を伸ばせとか、我儘を言っていたのを思い出した。
二人の関係は悪く無さそうだけど、父親の扱いは良くないと思うな。
「まぁ! クラリッサ様は、ロマノ大学に進学されるのですか!」
ルーシーとアイラが驚いている。二人の数学の成績を見る限り、無理っぽい。
「ええ、ロマノ大学で錬金術を習いたいのです」
二人は、同じ魔法使いコースでも、錬金術には重きを置いていないから、変わっていると首を傾げている。
「ルーシー様は、王宮魔法使いを目指しておられるのですか?」
学科もある程度できないと、難しいのでは?
「ええ、でも……実技もですが、学科の成績が振るわないから、父から本当に目指すなら、この合宿で頑張れと言われています」
えっ、勉強も目標の一つだったの? そんな風には見えなかったけど。
「お二人と騎士クラブの二人も数学ができていないと聞いています。クラリッサ、私も時間が空いていたら、勉強を見ますが、お願いしておきますね!」
クラリッサは、快く引き受けてくれた。
「中等科の数学を予習するつもりですから、良いですよ」
ルーシーとアイラが信じられないって顔をする。
「クラリッサ様! 数学の予習ですか!」
「ええっ! 予習なんかした事がないですよ」
だから、駄目なんじゃん!
「ゲイツ様がいらっしゃるまでに、数学をマスターして貰いますからね。それと、午後からは私も一緒に水路の整備をしましょう!」
特にルーシーは、卒業試験があるのだ。バシバシ指導しなくてはね!
騎士クラブの二人は、パーシバルが鬼教官になりそうな予感。
何だか、二人の勉強を見なきゃ! とか思っていたら、ナシウスとの別れの悲しさも癒えた気がする。
それと、パーシバルの誕生日までにプレゼントを用意しなくてはね!
巨大毒蜘蛛の糸、魔法をよく通すんだ。前に流行病の時にそれをパネルにして、サーモグラフィーにしたんだよね。
あれは、熱に反応させる魔法陣を使ったけど、守護の魔法陣ならあるから、それと組み合わせたら良い物ができそうなんだよね。
パーシバルがモラン伯爵領に行った時に作って、実験しておきたい。
これも、ヘンリーが騎士になるなら役に立つと思うんだ!
「ペイシェンス様? 何か作られるのですか?」
クラリッサは、勘が鋭いね。錬金術クラブのメンバーは、私が何か作ろうと考えていると、すぐに気がつく傾向にあるけど。
「ええ、クラリッサにも手伝って貰うかもしれませんわ」
特に強度の試験は、手伝って欲しい。
「私も手伝えるなら!」
うん? アイラも勘は良いのかも? 魔法攻撃の試験は、手伝って貰いたいかも。
「ふうん、ペイシェンス様はあれこれ錬金術で物を作るのが得意なのか!」
「ルーシー様、ペイシェンス様は錬金術クラブのエースですから!」
えっ、クラリッサ、その呼び方はやめて欲しい。微妙な気持ちになるよ。
「お二人にも強度テストに協力して頂きたいです。パーシー様の誕生日プレゼントにしたいから、内緒でね!」
クラリッサが「それって守護魔法のマントの再来では?」と驚く。
「マギウスのマントを作ったのですか!」
「国宝級では!」
ルーシーとアイラは知らなかったみたい。
「ええ、キューブリック先生が守護魔法陣を提案して下さり、ゲイツ様がより効率的になおして下さったの。私は刺繍をしただけですわ」
あっ、万が一、竜が飛来する可能性があるなら、守護魔法のマントも作らなきゃいけないのかもね? これは、ゲイツ様が来られたら聞いてみよう。
それと、私が考えている物も量産した方が良いのかも? でも、先ずはパーシバルの誕生日プレゼントにするけどね。




