騎士エルビス!
パーシバルも騎士には興味ある。元々、姿勢良く座っていたが、少し座り直して、真剣モードだ。
「こちらがエルビス・ラメイン卿だ。父上のラメイン卿は、我が領地の騎士長をして貰っている。エルビス卿は、次男なので土地は相続できないのだ」
えっ、思っていたより若い騎士だ。王立学園を出て、騎士団で見習い騎士になったのか? それとも、ロマノ大学で騎士コースを卒業したのかな?
「エルビス卿のお顔は知っています。確か、私が王立学園に入学した時に、騎士クラブにいらした方ですね」
それって、どちらにしても騎士になって日が短いって事だね。
「ええ、私は卒業後は、第三騎士団に見習いとして入団し、一昨年、騎士に叙されたばかりです。実は、結婚したい相手がいて……」
日焼けしたエルビス卿の頬が少し赤くなる。青春だね!
「ああ、そのミリアムも呼んでいるの。紹介しても良いかしら?」
伯母様は、その婚約者とも親しいみたい。
「ええ、勿論!」
執事が、ミリアムを連れてきた。
「お初にお目に掛かります。ミリアム・シャービーと申します」
ドレスの裾をちょこんと持って丁寧なお辞儀だ。茶色の髪を結い上げているけど、年齢は若いよね?
「ミリアムは、我が領地の騎士の娘なのだ。だから、近くに住むのを両親も歓迎している」
つまり、二人とも親はノースコート伯爵領の騎士なんだね。信頼できる相手は嬉しい。
「結婚はいつ頃を考えておられるのでしょうか?」
二人は見つめあって頬を染める。初々しいなぁ!
「エルビス様が独り立ちできるまで、私も資金を貯めたりしたいと思っています」
おや? ミリアムさんは、珍しく働く気があるみたい。
「働き口に希望はあるのでしょうか?」
「できれば、エルビス様のお近くに居たいと考えています」
リリアナ伯母様は、独身の女の子が親元から離れるのは、少し反対みたい。
「我が家のホテルでも働き手は求めているけど、ミリアムには不向きかもしれませんね」
前世ではありだけど、この世界では駄目なのかな?
「家庭教師の口があれば良いのですが……」
ああ、一応は騎士爵の令嬢だから、ホテルよりは貴族の家の家庭教師とかの方が良いのか。
「あのう、うちの領地の学校の先生は駄目でしょうか?」
ノースコート伯爵が「それは良い!」と口を挟む。
「ミリアムは、優秀な成績で王立学園を卒業したのだ!」
ただ、能力の無駄使いになるかも?
「村の学校では、読み方、書き方、計算の仕方ぐらいです。それと、女の子には簡単な縫い物を教えてやって欲しいのです」
「そのくらいなら、教えられると思います」
うん、ミリアムなら田舎の事情も詳しそう。
「ご両親に相談してからの方が良いわよ」
リリアナ伯母様は、ミリアムの両親とも親しいみたい。
「ええ、勿論です」
初めは、領都のハープシャーとグレンジャーから始めても良い。
「ところで、あと二名、騎士の方がいらっしゃるのですが、騎士長とかはどうやって決めるのでしょう?」
バーンズ公爵は、名前と年齢だけ手紙で教えてくれている。
「会ってからでないとわかりませんな。それと、年齢だけで決めるものでもないですよ」
そうなんだね。一人は三十代、もう一人は二十代半ば、どちらもエルビス卿よりは年上かもね。
どちらかというと、騎士の面接というより、村の学校の先生との面接っぽくなったけど、ミリアムは拾い物だね!
お客様が多い時期なので、長居をしないで帰る。
エルビス卿とミリアムさんには、後日、館の方に来てもらって詳しく話す事になった。
「そろそろ、王都から歴史研究クラブのメンバーも着く頃ですね」
ナシウスとも、お昼はグレンジャーで食べようと約束している。
「ええ、お父様が満足しておられたら良いけど」
この前から、カザリア帝国の歴史書を読んでいたからね。かなり事前に勉強する程、興味があるのかも?
「また、何回でも見学に行かれたら良いのですよ」
まぁ、そうだね! 今回は、パーシバルと一緒に馬の王に乗る。メアリーは、馬車だし、カミュ先生も遺跡見学だ。
少しの時間だけど二人っきりだから、嬉しい! まぁ、護衛達がいるけどさ。
「あっ、ペイシェンス! 馬の王の仔馬が産まれそうですよ」
つまり、遅くなったけど、モラン伯爵領でのお見合いが成功したのだ。
「それは、嬉しいですわ!」
馬の王が何頭とお見合いしたのかは詳しくは知らないけど、その殆どは王家が引き取る。
だから、手元に残る仔馬は嬉しい。
「戦馬との子は、スレイプニルにならないとデーン王国は言っていましたが、それでも楽しみです」
確率的には無しじゃないけど、低いみたい。今のうちのスレイプニルは、王家が騎士達に貸している状態だからね。
そちらとの組み合わせで、スレイプニルが増えるのを期待しているのかも。
種付け料は、莫大なお金になったけど、これは手をつけていない。いつか、馬の王が自由になりたいと思った時に、使うつもりだ。
例えば、どこかの煩い国が横から口出しした時とかにね。どう使うのかは分からないけどさ。
グレンジャー館に着いたけど、まだ見学組も歴史研究クラブのメンバーも来ていなかった。
パーシバルと二人で、グレンジャー館を探検してみる。
「応接室と食堂、そして部屋、そのくらいしか見ていませんの」
パーシバルがそれで十分では? と笑う。
「あっ、それと冷凍庫は見ていますわ」
マッドクラブを急速冷凍する施設は、重要だからね。
「それでは、皆が来るまで、庭を散策しましょう」
夏の庭は、花盛りだ。日本の夏ほどは暑くないから、花持ちも良いみたい。
「この花はいっぱいありますね」
バラとかはわかるみたいだけど、パーシバルは花は詳しくないんだね。
「ええ、花壇を縁取るのに良いと思いましたの。この花の雌蕊は、料理に使えますから」
それに、この地方に合っているなら、栽培させたい。
「料理ですか?」
パーシバルも期待した目で可愛い花を見ている。
「ええ、またお出ししますわ」
この雌蕊は、東ヨーロッパでもよく栽培されていたから、ここでも大丈夫な筈。
スパイスは、輸入品が多いから、作れる物は作りたい!




