歴史研究クラブの合宿の準備
今朝は、テンションだだ下がりだ。
ナシウスが今日からグレンジャー館に行くからね。寮でもあまり接触がないから、夏休みを楽しみにしていたのに。
「今日は、午前中の勉強は無しです。グレンジャー館に行って、カザリア帝国の遺跡を見学しましょう!」
これは、父親も参加する。元々、興味があったみたいだからね。
「やったぁ!」と喜んでいる中等科女学生四人、特にルーシーは卒業の危機みたいだけど良いのかな? えっ、もしかして、留年するから魔法クラブの部長になったの? 違うと思いたいけど……ありなのかな?
「パーシー様、王立学園を留年するとかあるのでしょうか?」
コソッとパーシバルに質問したら「まさか!」と驚かれた。
「いえ、ルーシー様の数学が致命的だとカミュ先生に言われたのです。それに、他の方も……」
クラリッサが優秀なのは知っているから、パーシバルは騎士コースの二人も数学が駄目なのに気づいて、眉を顰める。
「サリエス卿とユージーヌ卿が来られるまで、勉強面を強化しなくてはいけませんね!」
「ルーシー様も卒業できないと困りますよね」
二人で深い溜息をつく。本当は魔法合宿、騎士合宿だったのに、勉強合宿も加わりそうだ。
「兎に角、今日はグレンジャー館に行きましょう。昨日、ライトマン教授と助手の学生さん達は到着されていますわ。モンテス氏と打ち合わせをして下さったみたいですの」
海水浴していたから、モンテス氏に丸投げしちゃったけど、今日は挨拶しよう。本当なら、ルーシーとアイラと一緒に水路の整備と農地改革をしなきゃいけないんだ。
「夏休みは長いから、一日ぐらい遊んでも良いと思います」
パーシバルも、海水浴を楽しんだみたい。
「お父様や弟達は、カザリア帝国の遺跡を見学しますが、私はノースコート伯爵夫妻と会う予定です。パーシー様も一緒にお願いします」
遺跡は、この前に見学したし、ナシウスに案内を頼めば大丈夫だ。
「これを首に掛けておけば、暑くありませんわ」
遺跡見学組に冷え冷えマフラーを配っておく。陰が少ないから、結構暑いんだよね。
グレンジャーには、私とパーシバルは馬の王で行く。
ナシウスとヘンリーも馬だ。カミュ先生に付き添いを頼む。
先着したので、ライトマン教授に挨拶する。
「昨日は、お出迎えもしないで申し訳ありません」
ライトマン教授は、笑って手を振る。
「いや、ここは素晴らしい館になりましたね。途中までしか見ていなかったのです」
「ラドリー様は、二週間後に来られますの。それまで、モンテス氏と協力して水路の整備をお願いしますわ。魔法クラブの女学生が二人、時々、お手伝いをすると思います」
その時は、私も一緒かもね! モンテス氏と打ち合わせした地図を見せてもらい、水路の整備は準備できているのがわかった。
「道もまだまだ整備が必要なのですね」
ハープシャーとグレンジャーの間の大きな道は、かなり良くなっているけど、まだまだ未整備な道が多い。
「冬の間に、領民を使って整備しても良いのですよ」
そうか、それでも良いのか!
「ペイシェンス、少しずつやっていきましょう」
パーシバルに言われると、少しだけホッとする。
「拝領したばかりなのですから。それに、これほどの治水工事をされる領主はいませんよ」
それは、今までが放置されていたからだよ。
「ライトマン教授と助手の方々にお任せ致しますわ」
任せる所は、任せないとね!
「グレンジャー館の住み心地は如何ですか? 今日から、王立学園の歴史研究クラブの学生が五人来ますの。ナシウスと一緒に合宿をするから、賑やかになりますわ」
ユーリは王立学園の学生じゃないけど、一緒に言った。
「それは構いません。それに、ここの使用人達は、とても行き届いています」
ゲイツ家の使用人、とても優秀みたいだね。領地で雇った下女と下男を上手く指導してくれているみたい。
「明日には、植物学科のリンネル教授、海洋生物学科のベッカム教授が到着されます。また、こちらでお話するので、その時に問題があれば仰って下さい」
他の大学生や助手達は、教授が引率しているけど、歴史研究クラブは学生だけだからね。
夜遅くまで、うるさいとか問題があったら困る。まぁ、ナシウスとフィリップスは、そういうタイプではないと信じているよ。
こちらの使用人の責任者は、ゲイツ家の執事見習いのエイムズだ。
「エイムズ、とてもよく管理してくれているのね。今日から、ナシウスと歴史研究クラブの学生が滞在します。昼は、多分、遺跡で食べると思うのでランチボックスの手配をお願いします」
本当は、暑い遺跡で昼を食べるなんて反対したいけど、フィリップスも遺跡愛が強いからね。
朝からランチボックスを持って行っても良いけど、夏だから傷んだら怖い。それは、エイムズも心得ている。
「これは、保冷剤です。ランチボックスに入れて下さい。それと、これは保冷容器です。冷たい水を入れて、各自に持たせて下さい」
商品化は難しいと言われたけど、保冷水筒を人数分渡して置く。冷え冷えマフラーは、ナシウスに渡してあるよ。
私が教授やエイムズと話している間に、馬車も到着した。少し休憩してから、遺跡見学に出発だ。
「ペイシェンスも少し見学しますか?」
パーシバルに聞かれたけど、私はノースコート伯爵館に行かなきゃ。
「いえ、騎士を紹介していただくので、そちらを優先しますわ」
今回は、馬車で移動する。パーシバルには馬の王の運動を兼ねて、そちらに乗ってもらうよ。
「ペイシェンス! よく来てくれたね」
あれっ、ノースコート伯爵の熱烈歓迎だ。
「あの遺跡のブロックが大好評なのだ! で、少し他のものもあるかなぁと思って」
ああ、あれはどちらかというと男の子向きだからね。
「バーンズ商会には、女の子向きのブロックもありますわ」
すぐに注文しようと、ノースコート伯爵は頷く。
「まぁ、貴方。ペイシェンスにお茶もお勧めしないで。パーシバル様もどうぞ」
リリアナ伯母様は、笑ってお茶を勧めてくれる。
「それから、メロン、とても美味しかったわ。ありがとう!」
何個か王都でメロンを渡していたのだ。
「領地でも作っています。今日も何個かお持ちしましたわ」
リリアナ伯母様が手を叩いて喜ぶ。
「今年の夏は、お客様が多くて……とても嬉しいわ」
これは、定期的にお譲りした方が良いかもね。
「紹介したい騎士を呼んでも良いかな?」
勿論! それが目的で来たんだもん!




