ナシウスがグレンジャー館に行く前に!
明後日には、ナシウスはグレンジャー館で歴史クラブの合宿になる。
つまり、今日しか一緒に過ごせないのだ。
「今日の午後からは、海水浴に行こうと思うのです」
弟達はもちろん賛成! 問題は父親だ。館の中で読書したそうだけど、少しは健康的なことをした方が良いと思う。
「明後日は、歴史研究クラブの皆様がグレンジャー館にお着きになります。明々後日は、朝からカザリア帝国の遺跡見学をします。海水浴に皆で行けるのは、今日だけですわ」
一週間で合宿が終わってくれたら、そこからまた行ける日もあるかもしれないけど、ゲイツ様が来られるからね。私も一緒に行けるかわからないんだ。
騎士クラブの二人は自信満々に「泳げます!」と言っているけど、他の女学生は泳げないみたい。
「昼から、サミュエルも来るそうよ!」
もうお客様の相手にうんざりしたのかもね。それに、明々後日は、私たちもノースコートに行くから、丁度良いかも。
他の人は、カザリア帝国の見学だけど、私とパーシバルは騎士との面接だ。
今日は、勉強面は心配はいらないクラリッサに秘書として付いてきて貰う。メアリーも同行するけど、これからはクラリッサに用事を頼む事も増えるからね。
「パーシー様、冒険者ギルドに依頼を出したいのです」
パーシバルも普段は、冒険者ギルドに行ったりはしないみたい。
「巨大毒蛙の粘液、巨大ナメクジの粘液、巨大毒蜘蛛の糸、それとスライム粉とスライムのクズ魔石を常時採取をお願いしたいのですが……値段とかわかりませんの」
パーシバルは、プッと笑う。全て私の錬金術で使う物だからだ。
「値段は、ギルドに任せたら良いですよ。でも、巨大毒蜘蛛の糸は……」
私の耳元で「守護魔法陣のマントですか?」と怪訝そうに尋ねる。
「いえ、それとは違う物を考えていますの」
これ、上手くできたらパーシバルの誕生日プレゼントにしたいんだ。
パーシバルがモラン伯爵領に行っている間に作って、実験したいと思っている。
「クラリッサも冒険者ギルドに行くのは初めてでしょう? 少しガラの悪い冒険者もいるかもしれないから、侍女のキャシーだけじゃなく、護衛も連れて行くのよ」
そう言いながら、パーシバルにエスコートされてギルドの中に入る。
いつもの如く、ハープシャーの冒険者ギルドは閑散としている。まだグレンジャーの方が活気があるんだよね。
「これは、子爵様!」
うん、もう子爵様が呼び名として固定されているね。諦めよう。
「これらの採取をお願いしたいのです」
後は、クラリッサに任せる。これから何回も来て貰わないといけないからね。
それに、パーシバルがいるから、誰も舐めた真似はしない。その点、私の見かけは、可愛い令嬢だから、押しが弱いんだよね。
「これは、孤児院の子や農家の子でも集められそうです」
スライムは子どもでも捕まえられるみたい。
「そういえば、スライムを見た事ないのよ」
パーシバルは驚いているけど、クラリッサも頷いている。
「ああ、王都育ちでしたね。メアリーは子どもの頃突っついて遊んだだろう?」
えっ、メアリーはくすくす笑って頷いている。
「そうなの? では、館にもいるのかしら?」
「まさか! そのような物は駆除してありますよ」
へぇ、そういう感じなんだね。
「でも、見かけた事がないわ」
「モラン領でもよくいますが、お客様がいらっしゃる前に駆除しますからね。川の近くや沼地には、よく居ますよ」
「ふうん、一度見てみたいわ」
メアリーが眉を顰めているけど、クラリッサも興味深々だ。
「それと、ついでに教会にも案内しておかないといけないわね」
ロバはモンテス氏に手配してもらっているけど、現物を子ども達に支給したい。つまり、古着と冷凍肉だよ。
午前中は、ハープシャーの教会。午後からは、海水浴に行く前にグレンジャーの教会だ。
「これは、冷凍肉と古着なの。うちのお針子が繕ってあるから、すぐに着られると思うわ」
このお使いは、クラリッサとキャシーに任せる。あの老夫妻なら、危険はないからね。
「ナシウスがいなくなるのが寂しいわ」
私の愚痴を、パーシバルが笑う。
「一週間だけですよ。それに、会おうと思えば、いつでも会えるでしょう」
そうなんだけどさ。
「私がモラン伯爵領に行く時も、同じぐらい寂しく思って下さるのでしょうか?」
「勿論ですわ! ついて行きたい気分なのです」
これは本心だよ! でも、こちらの領地でする事がいっぱいあるから、我慢しているんだ。
ちょこっと二人でいちゃいちゃモードになったけど、お邪魔虫のメアリーがいる。
「今日は、早くお昼を食べて海水浴に行く予定では?」
そうなんだよ! それにサミュエルも来るからね!
早くお昼を食べるのを喜んだのは、女学生四人だ。本当に、ルーシー、卒業できるのかな?
でも、今日はそんな心配している暇はない。ナシウスがグレンジャー館に行く前に、いっぱい遊ばないといけないんだからね!




