グレンジャー館へ
昼食前に、カミュ先生に生徒達の様子を聞く。
「ナシウス様とクラリッサ様は、学業面は大丈夫ですわ。でも、お二人とも技術面は、もう少し修練が必要です」
ナシウスは、ダンスが足を引っ張っているし、クラリッサは裁縫と音楽とダンスが駄目みたい。
「それより、中等科の女学生の四人、数学が致命的にできていません。ルーシー様は、卒業できるのでしょうか?」
ああ、嫌な予感が当たったね!
「魔法合宿、騎士合宿ですが、学業面も頑張って貰います!」
そして、昼からはカミュ先生とクラリッサは、私の秘書として仕事をしてもらう。
「先ずは、お父様のご要望もあるから、グレンジャー館に行きましょう。私はパーシー様と馬の王で行きますから、カミュ先生も馬で同行して下さい」
弟達も馬を選んだ。父親とジョージ、魔法クラブの二人、クラリッサとメアリーや侍女達は馬車だよ。
「あちらの使用人とも話し合いたいです」
ミッチャム夫人も馬車で同行する。
馬の王は、田舎の道をかなりのスピードで走る。
ハープシャーとグレンジャーの間の道は、かなり整備されている。領地の他の道も整備しなくてはね! これも、ルーシーとアイラに手伝って貰おう。
グレンジャー館、本当にいい雰囲気だ。夏休みは、こちらで過ごしたい気持ちになる。
こちらには、ゲイツ家の使用人が領地で雇った下女や下男を鍛えてくれている。
そこらへんの調整は、ミッチャム夫人に任せる。
ハープシャー館には、王都から連れてきた使用人とモラン伯爵領から派遣された使用人がいる。
エバの料理を覚えさせたいから、グレンジャー館の使用人と、途中で交代させても良いかも?
「ああ、素晴らしいな!」
父親もグレンジャー館を気に入ったみたい。
窓を開け放すと、涼しい風が入ってくる。
父親は、応接室でお茶を飲みながら、読書するみたい。どこに行ってもブレないね。
お世話は、ジョージに任せて、私達はマッドクラブ狩りに出発だ。
「火の魔法が使えないなら、私にはマッドクラブは討伐できないわ」
しょんぼりするアイラ。なんとかならないかな?
「他に使える魔法は無いの?」
ルーシーは、風が得意だけど、土も使える。
「風は凄く下手くそなんです」
「アイラ、それを訓練するのが合宿の目標よ!」
ルーシーは、風魔法で討伐すると強気だ。
馬の王には、パーシバルだけ乗って全力疾走をしてもらう。私が一緒だと、あれでも加減しているみたい。
「ルーシー様も苦手な土魔法を使う練習をしましょう」
ルーシーは、少し嫌な顔をしたけど、基本的にこの二人は討伐が大好きだ。浮き浮きしている。
騎士クラブの二人は、馬の王に夢中だ。猛スピードで追いかけている。
パーシバルに夢中でないと信じているよ。
「ペイシェンス様、私は秘書らしき仕事をしていませんが、良いのでしょうか?」
クラリッサが気にしている。
「大丈夫ですよ。今は領地に着いたばかりで、貴女にも覚えて欲しい場所を巡っています。どんどん使うから、休めるうちは休んでいてね」
グレンジャー館にロマノ大学の教授や学生が来たら、そことの連絡をクラリッサには取って貰う。
「クラリッサは、乗馬は得意かしら?」
キャリーは馬に乗れないから、馬車で移動になるけど、一応聞いておく。
「父は、古い考え方なので、エドには乗馬を習いに行かせましたが、私は習えなかったのです」
ふうん、乗りたいなら、練習させても良い。物好きだと思うけどね。
「騎士クラブの二人に、乗馬を習っても良いかもね」
あの二人、ユージーヌ卿には滅茶苦茶貶されていたけど、私より乗馬は上手い。
「嬉しいです!」
クラリッサは、喜ぶけど、午前中はハノンや裁縫やダンスをもっと練習しなくてはね。
「海だわ!」
来る途中に少しは馬車の中で見たけど、やはり海は良いね!
「マッドクラブは、遠浅の浜辺にいるわ」
馬車でもう少し移動して、降りる。
「ペイシェンス! あそこにいるよ」
パーシバルも狩りが好きみたい。
「お姉様、私も攻撃して良いですか?」
ナシウスも浮き浮きしている。
「ええ、アイラ様、火の攻撃以外でお願いします」
パーシバルやジェニーやリンダは、剣を抜いて、そこから風の刃を出している。
ルーシーは、風の魔法が得意だから、ビュンビュン飛ばしている。
「ああ、私のチンケな風の刃なんか、マッドクラブに傷をつけることもできないわ!」
アイラが腐っている。
「それを練習するのが合宿ですよ。より速く、より強い風の刃を出すように!」
皆の一斉攻撃で、一匹は討伐できた。
「新鮮な方が美味しいから、今日は、一匹だけにしましょう」
風の魔法で、浜辺までマッドクラブを運ぶ。しまった! これをアイラにさせたら良かったな。
「冒険者ギルドで解体して貰って!」
荷馬車から、はみ出た脚を、騎士クラブの二人とパーシバルと弟達が切って、上に積み上げていく。
「私たちが、運びます!」
冒険者ギルドに興味津々の騎士クラブの二人が引き受けてくれた。勿論、従者も付いていくから、大丈夫だろう。
「あちらの小舟をチャーターして、雲丹と鮑とエビを取りましょう」
昼の浜辺はのんびりしている。漁師が、巨大毒蜘蛛の糸でできた網の手入れをしていた。
「あの小舟は、お前の物なのか?」
パーシバルが私の代わりにレンタル交渉してくれた。
今日は人数も多いので、漁師が近所の人も呼んできて、二艘に別れて雲丹と鮑と海老を取る。
私とヘンリーとアイラとクラリッサ。アイラは火の魔法以外で狩りをしなくちゃいけないから、指導する為だ。
もう一艘には、パーシバルとナシウスとルーシー。こちらは、風魔法が得意だから、大丈夫だろう。
「海の中なんか見えませんわ」
アイラ、ちょっとは自分で努力しよう。
「お姉様、あそこに鮑がいます!」
ヘンリーは目を魔力で強化するのが上手くなったね。
「えっ、ヘンリー君はどうやって見つけたの?」
こら、こら、小さな子に聞くの?
まぁ、でも良いか!
「アイラ様、目に魔力を込めたら、底まで見えますよ」
アイラも何とかできるようになった。クラリッサも雲丹を見つけて、はしゃいでいる。
「鮑も中途半端に火を通さないでね!」
「えっ、また火魔法はだめなのですか!」
冬の魔物討伐では、風の魔法がビッグバードには効きにくくて、ルーシーが苦戦していたけど、海では火の魔法が禁止だから、アイラが苦戦している。
「討伐するだけなら、火の魔法でも良いけど、美味しく食べたいから」
うぬぬって顔で、苦手な風の魔法で鮑を狙う。
「あっ、アイラ様! 鮑を攻撃できなくても、海面にあげて捕まえても良いのよ」
それと、鮑漁や雲丹漁では試したい事があったんだ。
「ヘンリー、海藻を採ってくれる?」
こちらでは、海藻は食べないみたい。私は食べてみたいな。
「お姉様、このくらいで良いのでしょうか?」
ヘンリーが両手にいっぱいの海藻を採ってくれた。
「ええ、これで十分よ!」
小舟に持ち込んでいた、ザルを何段か繋げたのを取り出す。
「ザルの穴に海藻を詰めて!」
この小舟に乗っているヘンリーとアイラとクラリッサが手伝ってくれた。これは、前世の雲丹漁のやり方をテレビで見たんだ。
上に半分スライム粉を混ぜたガラス浮きを付けて、ザルを沈める。
漁師が「それで雲丹が取れるのですか?」と聞いてくる。
「ええ、上手くいけば、皆にも教えたいわ」
ハッとした顔で「もしかして、領主様ですか?」と驚く。
まだ若い女の領主だとは聞いていたみたい。
「ええ、この方法なら、雲丹が自ら海藻を食べに来てくれるから、楽だと思うわ」
鮑も掛かれば良いけど、そちらはわからない。
このザルは放置して、ヘンリーとアイラとで、海老を探す。
何匹かは、岩の間に隠れていたので、風で上に上げる。
「わぁ、大きいです!」
前世の伊勢海老ぐらいの大きさだ。
「これはケイレブ海老じゃないわね」
「グレンジャー海老と地元では呼んでいます」と、漁師が得意そうに教えてくれた。
これで、味噌汁を作ったら、絶対に美味しい! でも、今夜はマッドクラブを食べたい。
「生簀があれば、良いのかも?」
いや、新鮮なうちが美味しいよね!
「お姉様、今夜はご馳走ですね!」
ヘンリーが嬉しそうでなによりだ。
ザルを引き上げたら、何匹もの雲丹が海藻を食べている最中だった。
「これは、楽で良いですなぁ」
うん、雲丹の瓶詰をグレンジャーの特産品にしたいから、この漁の遣り方を教えよう。
「ペイシェンス様、このザルを繋げた罠、私も作ってみたいです」
クラリッサにいっぱい作って貰っても良いかもね。




