領地行きは、大人数になったね!
早朝から、領地に行く準備だ。今回は、家族全員が王都の屋敷を留守にするから、ここには最低限の留守番しか置かない。
使用人の半分は、先日出発して、私達を出迎える準備をしている。
早朝なのに、騎士コースの女学生の二人と、魔法クラブの二人は保護者が送ってきた。
それぞれの保護者と挨拶する。こんな時は、父親も引っ張り出す。
「不出来な娘ですが、宜しくご指導、ご鞭撻をお願いします」
こんな時の常套句だけど、これを四回も聞かせられると、少しイラッとしちゃう。
私も父親に同じように言われるのかなってね! 不出来だなんて、謙遜だとは分かってても、言われるの嫌だよ。
領地に行くのだから、長々とした挨拶はしない。
「お嬢様をお預かりします」と私が最後に言って、馬車に乗る。
今回は、大人数になったから、モラン伯爵家からも馬車を二台借りている。
一台目に、父親と弟達とジョージ。二台目に私とクラリッサとルーシーとアイラ、三台目にメアリーとエバ、ミッチャム夫人、そしてカミュ先生はここに乗る予定。
四台目は、使用人達! この馬車は普通の馬車と違って、三列の長椅子があり、九人乗れる。
ミミ、キャリー、マリー、モリー、マシュー、ルーツ。それと、ルーシーとアイラの侍女。
ライラ、イルマ、カミーユは、先に領地に行っている。ミッチャム夫人が鍛えて、かなり生活魔法が使えるようになっているんだ。
夏休み中に、ルーシーやアイラと一緒にレベルアップさせたい。
後は、グレアムみたいに御者台に乗ったり、馬に乗って行く。時々、馬車に乗ったり、そこは任せておく。
私もパーシバルと合流したら、馬の王に乗ることもありそう。
領地までずっと馬はないよ! でも、ナシウスとヘンリーも途中で馬に乗ると張り切っている。
グレンジャー家から馬車が四台。そして、南門でモラン伯爵家の馬車が合流する感じ。
「ワイヤット! 本当に領地に行かないの?」
私は、何故かワイヤットが一緒だと思い込んでいた。父親の側から離れないと信じていたのだ。
「ええ、お屋敷の留守番をしなくてはいけませんから。子爵様のお世話は従者のジョージに任せます」
屋敷には、警護の人、下女、下男、そして料理人助手が一人ずつ残る。
「来年は、一緒に行きましょう!」
ワイヤットは、王都しか知らない。海を見せてあげたいな。
「お嬢様、早く発ちませんと、パーシバル様をお待たせする事になりますよ」
おお、そうだった! 私がワイヤットとの会話を終えると、一斉に動き出す。
騎士コースの二人とその従者は、勿論、馬で颯爽と走っている。
冬の魔物討伐の時より、ずっとしっかりしている気がする。
「ペイシェンス様、私も王都から出るのは初めてなのです」
錬金術クラブの後輩、クラリッサの父親は、王宮の官僚だからね。領地は持っていないのだろう。
「それは楽しみだわね! 海があるから、泳げるわよ」
クラリッサは、頭の固い父親の元から離れて、凄く嬉しいみたい。でも、秘書としての仕事もしてもらうからね。
「私の祖父の領地は北だから、こちらの門から出るのは初めてです」
ルーシーは、興味深そうに下町の様子を見ている。貴族の令嬢は、下町には来ないからね。
「早くゲイツ様に魔法の訓練をしていただきたいです!」
アイラは、ゲイツ様に憧れていたけど、冬の魔物討伐で食い意地が張っているのを見て、げんなりしたと思ったのだけど?
「この子は、凄く張り切っているのです!」
ルーシーが笑うと、アイラが頬を真っ赤にして怒る。
「張り切るのも当然です。あのリヴァイアサンを討伐されたゲイツ様に指導していただけるのですよ!」
アイラ、また失望しないと良いけどね。
「ゲイツ様もですが、ラドリー様もいらっしゃるのですよね! 父が是非とも技を習得してくるようにと言っていました」
ルーシーの父親は、王宮魔法使いで、娘が少し能力的に王宮魔法使いになるのに足りないのを知っているから、建築家にさせたいのかな? でも、ルーシーもどちらかというと、攻撃魔法が好きなタイプだと思うけど?
南門でパーシバルと合流するのは、馬車の他に馬も何頭も連れて行くからだ。
「パーシー様、お待たせしました」
ここから、次の休憩場所までは、馬の王に二人で乗って走る。
馬車組と馬組とでは、速度が違うけど、休憩場所で時間調整をして、昼食は一緒に食べる予定だ。
弟達も馬に乗って、次の休憩場所まで走る。ナシウスもヘンリーも安心して見ていられる。私より上手いもの!
昼食は、予め予約していたから、私達女の子は部屋に案内してもらって、手や顔を洗う。
私はメアリーが世話をしてくれるし、同じ部屋のクラリッサの世話をキャリーが頑張ってしている。
「このままなら、お茶の時間にはハープシャーに着くでしょう」
天気も良いし、暑いけど、馬に乗っていると爽快だ。
「お嬢様、お疲れにならないように」
うん、ペイシェンスも少しは健康になったけど、普通の令嬢並みの体力しかない。
「ええ、昼からは馬車に乗るわ」
領地に着いても、色々と忙しいのだ。去年の夏休みみたいにノースコート伯爵領のお客様ではいられない。体力温存しておかなきゃね!
管理人のモンテス氏から報告を受けたいし、家族やお客様が寛いで過ごせるように気をつけなきゃいけないのだ。これは、ミッチャム夫人やリラに任せておける。
「あれがグレンジャー館よ。クラリッサには、何回かお使いに行ってもらうから、覚えておいてね!」
クラリッサは、海や初めて見るグレンジャー館に興奮している。
「素敵なお館ですね!」
ルーシーは「ラドリー様が改修されたのですね!」とじっくりと観察している。
「またグレンジャー館に行く日もありますよ。それに、ハープシャー館もラドリー様に改修していただいたのです」
海に別れを告げて、ライナ川沿いに登ると、ハープシャーの館が見えてきた。
「わぁ! 素敵なお城ですね!」
クラリッサが手を組んで喜んでいる。女の子が好きそうな外見になっているからね。
えっ、使用人達が勢揃いで出迎えている。
大袈裟にしなくて良いと、モンテス氏に伝えておいたのだけど?
「ハープシャー子爵様、お帰りなさいませ!」
うっ、これも父親が一緒だから『ペイシェンス様』にして欲しいと伝えた筈だけど?
馬組も途中で合流して、パーシバルが素早く馬の王から降りて、私が馬車から降りるのをエスコートしてくれる。
私の後ろで、ルーシーとアイラとクラリッサが声を殺して『きゃあ! 素敵!』叫んでいる。
この夏休み、パーシバルとデートする暇があるかな? リラとハーパーに館の中に案内してもらいながら、エスコートしてくれるパーシバルと一緒に入る。




