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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第六章 中等科二年春学期

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私の結婚……メアリー視点

 このところ屋敷の雰囲気が怪しいのです。

 特に、マリーとモリー! こそこそとドレスを縫っています。


「どなたのドレスなの?」


 私が裁縫室に入ると、二人が縫っているドレスを不自然に隠しました。


「これは……」


「モリー? 隠したドレスは、令嬢向きの絹ではないわね?」


 追求しようとしたけど、キャリーが呼びに来ました。


「ミッチャム夫人がメアリーさんをお呼びです」


 仕方ないですね。何のご用事かしら? お嬢様は、あれこれされるからミッチャム夫人も忙しくて大変でしょう。


「メアリーも、そこにお座りなさい」


 家政婦の部屋で、二人っきりで話をするなんて、珍しいですね。


「メアリーは、グレアムと結婚すると聞いていますが、いつするのでしょう?」


 えっ、それは! 私だってもういい年です。グレアムは待ってくれていますが、そんなに待たせては悪いとは思っています。


「お嬢様は、今年の秋に社交界デビューされます。忙しくなりますから……」


 ミッチャム夫人が笑う。


「社交界デビューの後は、ロマノ大学に進学されます。寮生活ではなくなりますから、より忙しくなるのでは?」


 そうなのです! 今は、お嬢様は寮生活だけど、大学生になれば屋敷から通われる。

 ロマノ大学には、従者や侍女が待機する部屋があるそうだ。私も付き添うつもりです。


「お嬢様の夏休みが良い機会だと思いますよ。領地には、私やカミュ夫人も参りますから……」


 そんなの駄目です!


「お嬢様の婚約者様も一緒に過ごされるのですよ! 一瞬たりとも目を離せません」


 仲が良いのはいいが、結婚まで清らかな仲でないといけないのです。庶民でも、貞節は尊重されるが、割と田舎では自由な面もあります。

 でも、お嬢様は貴族の令嬢なのですよ! 悪い噂が流れでもしたら、大変です。ユリアンヌ様に申し訳ありません。


「ええっと、では、お嬢様がお忙しい時期、つまりメアリーが暇な時期に結婚式を挙げましょう!」


 王立学園のテスト期間、お嬢様は婚約者様とデートどころではないでしょう。

 それに、私の結婚式に出たいと無茶を言われたのを阻止できます。


「ええ、それが良いと思います!」


 ミッチャム夫人と相談してから、グレアムに言う。本当は、グレアムと相談するのが筋ですけどね。


「ああ、やっと結婚できるのだな!」


 うっ、待たせすぎたかしら?


「いや、メアリーがお嬢様を大切に思うのは尊いと思っている。その点も好きになったのだ。でも、あまりに素知らぬ顔だから、結婚するのが嫌になったのかと心配していた」


「ええ、そんなことはありませんわ」


 二人で、結婚式の日を決める。


「この日なら、お嬢様はテストですから、王立学園からお戻りにはなりません」


 私の結婚式に出たいと言われる気持ちは嬉しいが、ご主人様が使用人の結婚式になど出ないのが慣例です。

 お嬢様は、少し普通の令嬢とは違い使用人との距離が近いのを、前から注意しているが、なかなかなおりません。

 貧乏なグレンジャー家は、使用人の数も少なく、その時の影響でしょうか?


 執事のワイヤットさんは、前から結婚した使用人の為の長屋を建てていました。本当に、先を考えているのだから、少し不思議な人だと思います。

 もしかして、私とグレアムが結婚するのを見越していたのかしら?


 休憩時間に、グレアムと一緒に、新居の買い物をして過ごす。

 ベッドや箪笥などは備え付けがあるから、シーツや布団などを買えばお終いです。


 お互いの服を、クローゼットや箪笥にしまい、結婚する実感が湧いてきました。


「私が結婚する日が来るだなんて!」


 私も、そう感じていたけど、グレアムも同じ気持ちみたいです。


「お嬢様に一生奉公するつもりですが、宜しいでしょうか?」


 これ、結婚しようとプロポーズされた時も訊いたけど、もう一度確認しておきます。


「もちろんだ! それに、私の過去も知らないで、結婚して良いのか?」


 グレアムが下町(スラム)育ちなのは、ワイヤットさんが知り合いだから察しています。

 それに、リチャード王子の手の者として、グレンジャー家に来たのも。

 そうなるまで何をしていたのか、私は知りません。でも、それはどうでも良いと思います。


「貴方の過去がどうであれ、今はグレンジャー家の使用人です。そして、お嬢様が結婚されたら、一緒にお側で護ってくれるのですよね!」


 グレアムはしなやかな腕で私を引き寄せてキスしてくれた。こんな幸せな気分になれるのは、一時だけ。


 でも、だからこそ貴重なのです。


 結婚式の日、マリーとモリーが秘密に縫ってくれた茶色と緑色のチェックのドレスを着る。バレバレでしたけどね。


「メアリーさん、これを!」

 キャリーとミミが庭のバラを摘んで、花束を作ってくれた。


「ふふふ、本当に花嫁さんみたい」


 キャリーとミミが「本当の花嫁さんですよ」と笑う。


 食い扶持を減らす為に、ケープコット伯爵家に下女として出されました。

 そこで、少しずつ裁縫や字の練習をして、サイモン坊ちゃまの子守になり、ユリアンヌ様が結婚されるのに付き添って、王都で侍女見習いになったのだ。


 ユリアンヌ様が亡くなられてから数年、貧乏暮らしのグレンジャー家での生活は厳しかった。でも、こうして、幸せな日を迎えられました。


「メアリー、行こう!」


 私とグレアムが結婚式を挙げるのは、下町の教会です。


 ブライズメイドも付添人も無しの簡単な結婚式だけど、グレアムの服も新しいし、胸には一輪のバラが差してある。


 司祭さんの言葉は上の空で聞きました。


「グレアムは、メアリーを妻とするか?」


「はい!」


「メアリーは、グレアムを夫とするか?」


「はい」声が緊張して、上擦ってしまいました。


 指輪をグレアムが用意してくれていました。銀の飾り気のない指輪だけど、嬉しい!


 指輪を嵌めて、キスをする。これで、私はグレアム夫人だ。


 馬車で少し遠回りして屋敷に帰りました。

 いつもは乗らない御者台に二人で座る。

 途中で、何回かキスをしました。


「もう、グレアム! 恥ずかしいわ!」


 なんて言ったけど、本当は嬉しかったのかも。


 屋敷に戻ったら、長屋の部屋にグレアムがお姫様抱っこして運んでくれました。


「ゆっくりとしたいが、仕事があるからなぁ」


 一張羅は着替えて、普段のメイド服になる。グレアムも御者の服に着替えます。


 その日の夕食は、少し豪華でした。それに、ウェディングケーキが使用人にも振る舞われた。


「さぁ、メアリー、切って!」


 一緒に苦労を乗り越えたエバが、ウェディングケーキを焼いてくれたのです。


 私とグレアムでウェディングケーキを切り、皆で笑いながら食べました。


 後で、お嬢様から山ほど文句を言われるだろうけど、こんな気取らない結婚式が私には相応しいと思います。


 それに、とても幸せです!

これで、この章はお終いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] メアリー、グレアム結婚おめでとう!
[良い点] メアリー、本当に幸せそうで良かったです。 読んでいて嬉しくなりました。 ペイシェンスは一緒にお祝いしたかったと思うけど、決して慕われていないとかじゃなくて、これが良くも悪くもこの世界の主人…
[良い点] ㊗メアリー結婚おめでとう㊗ \(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/ [一言] 呼名はグレアム婦人に変わるのかな (*´ω`*)
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