それって……
初めは、カエサル様が迎えに来て、父親に許可を貰って私をバーンズ公爵家に連れていく予定だったのに、サリンジャーさんの「早く王宮に戻らなくては!」というプレッシャーを受けて、さっさと行く事になった。
「急ぐなら、お前だけ帰ったら良いのだ」
ゲイツ様を睨みつけ「目を離したりしません!」とサリンジャーさんもバーンズ公爵家に行くみたい。
「こんなに大勢で押しかけて大丈夫なのでしょうか?」
私とパーシバルは、少し迷惑なんじゃないかなと及び腰だ。
「ああ、王宮を出る時に通達を出しているから、彼方は知っていますよ」
確信犯なんだ! それにしても、何の用事なのかな? 竜関係なら、先ずは南の領地に警告を発するんじゃないの? バーンズ公爵領は、北部だよ。
サリンジャーさんは、ゲイツ様から一瞬たりとも目を離す気がないので、二人は同じ馬車に乗った。
私はパーシバルと一緒の馬車だよ。もちろん、メアリーも付き添っている。
「ペイシェンス、どのような用事なのでしょう?」
パーシバルも首を捻っている。ゲイツ様に挑発されて、それを買った感じでバーンズ公爵家を訪問する事になったけど、マナー的には違反だよね。
「さぁ……カザリア帝国の古文書を復元して、それを複製したのをバーンズ公爵は保管されています。その件かしら? 私に付き纏っていたヴォルフガング教授に、陛下から緘口令を出して貰ったとか、お父様から聞いていますが……」
そういえば、この件も聖皇国に知られたらまずいんだったね。
「その件なら、陛下の意向をバーンズ公爵なら厳密に守ると思うのですが……他の件では?」
確かにね! カエサル様もバーンズ公爵は、陛下の命令には厳密に従うから、古文書を簡単には見られなくなると愚痴っていた。
「ゲイツ様は、あの遺跡で使われていた動力源を調査されていたのです。そのヒントをグース教授に与えたが、全く理解できていないと馬鹿にされていましたわ。そちら関係でしょうか? でも、それには私は関わっていませんわ」
おかしいな? と二人で顔を見合わせる。
「ナシウスの誕生日パーティだったのに……」
私の愚痴を、パーシバルが笑う。
「あんなに素敵な誕生日パーティなんか、誰も開いてもらっていませんよ」
パーシバルも誕生日は、夏休みだから盛大に開くつもりだよ! プレゼントは、まだ決めていないんだ。
騎士関係のが良いとは思うけど、そちらは全く分からないからね。
バーンズ公爵家も近い。すぐに着いた。
「ペイシェンス! 王宮から手紙が届いたが、ゲイツ様も……」
カエサル様が出迎えて、どうなっているのかと質問しかけたが、ゲイツ様とサリンジャーさんが馬車から降りて来たので、口をつぐむ。
「バーンズ公爵は、いらっしゃいますね」
ああ、本当に傲慢な態度だよ。カエサル様が丁重に応接室に案内している。
私は、メアリーにチョコレートやメロンやスイカなどを執事に渡させてから、パーシバルと応接室に向かうのだけど……?
あれは、ゲイツ様の従者だよね? 冬の魔物討伐の時に、魔物を追い立てていたから顔見知りだ。何か大きな箱を運び込んでいる。
「プレゼントとかかしら?」
「ペイシェンスみたいに、何か新製品かもしれませんよ」
パーシバルに、冷え冷えマフラーと保冷剤を入れた小さな箱を持って貰っているから、笑われた。
「ゲイツ様が? それなら、ご自分で製品化されるのでは?」
私は、まだ子どもだし、女の子なので、目をつけられたら大変だからと、初めはバーンズ商会で売ってもらっていた。
その後もエクセルシウス・ファブリカというダミー会社をゲイツ様を代表にして作ったけど、殆どの生産はバーンズ商会に任せきりだ。
「あっ、そう言えば……」
前にゲイツ様から来た手紙に、クズ魔石を纏めて中魔石にする件や、卵の浄化器について書いてあった。
「何でしょう?」パーシバルに説明したいけど、もう皆は椅子に座っている。
「多分、クズ魔石と卵の浄化器についてですわ」
簡単に告げて、ソファーにパーシバルと一緒に座る。
相変わらず美しい公爵夫人がにこやかに挨拶しているけど、ゲイツ様は従者に運ばせた箱から、クズ魔石を纏めた物と卵の浄化器を机の上に出している。
やはり、この件なのかな? パーシバルと目と目で確認する。
「麗しい公爵夫人、もっとゆっくりとしたいのですが、横にいるサリンジャーが早く王宮に帰れと煩いので、仕事の話をさせていただきます」
うっ、本当にベネッセ侯爵夫人の息子なのかな? 気配りのできる貴婦人なのにさ!
「いえ、お忙しい王宮魔法師様ですもの。どうぞ」
バーンズ公爵夫人は、仕事の話にも慣れているみたいだね。
「バーンズ公爵、これはペイシェンス様が考えられたクズ魔石を纏めて中魔石にする製法です。魔導具を多く発明しているのに、庶民は魔石が高くて使えないローレンス王国には、とても有益だと思います」
バーンズ公爵も「勿論です!」と熱心に同意している。
「これは、庶民にも安価で売って欲しいので、バーンズ商会で生産して下さい」
ここまでは問題ないよね? 卵の浄化器も同じじゃないの?
「こちらは、ペイシェンス様と私とで作った卵の浄化器です。これで、卵を安心して食べられるとペイシェンス様が考案されたのですが……これを公表するのは、少し拙いのです」
「何が拙いのですか? 安心して卵が食べられるし、マヨネーズも作れますわ」
一緒に作った時は、問題があるなんて言っていなかったじゃん。
ふぅ、と大きな溜息をゲイツ様がついた。
「ペイシェンス様は、自分が非常識だから、作った製品の非常識さがわからないのですよ」
えっ! 私が非常識なの? 招待もしていない誕生日パーティに来るなんて、そちらが非常識でしょう。
「違いますわ! 非常識なのはゲイツ様でしょう!」
二人の言い争いをバーンズ公爵が止める。
「つまり、この卵の浄化器は、機密にしなくてはいけない物が含まれているのですね」
うん? そうなのかな?
「ええ、でもこれからのローレンス王国にとって、とても重要になる機密です。今の特許では、他国にダダ漏れですから、別の法案を考えているのです。本当に、ペイシェンス様の後始末で大変なのです! チョコレート一箱では足りません!」
うん? よくわからない。
「卵の浄化器を少しでも分解したら、爆発するようにしようと苦労しているのです。ペイシェンス様も手伝って欲しいです」
それって、前世のスパイドラマでテープが燃えたりする感じの機能を付けるのかな?
「えっ、ペイシェンス! 理解できるのか?」
バーンズ公爵の横で大人しく座っていたカエサル様が驚いている。
「何となくですが……機密にしたい内容を他の人に知らせないようにするのですよね。分解したら、爆発は危険だけど、真っ黒になって分からないようにすれば良いって感じでしょう?」
ゲイツ様が手を叩いて喜ぶ!
「その通り! それを陛下や大臣達に説明しても、なかなか理解してくれなくて困りました。特許の様に公開するのではなく、機密として魔法省で別に扱う必要がある物ばかりペイシェンス様が発明するから、私が苦労しているのです! だから、あのメロンケーキを差し入れに下さい!」
「それって……」
もしかして、体温を検査するゲート、塵を飛ばすゲート、浄化ゲートもかな? 身に覚えがありすぎる。
でも、私のせいじゃないよね!




