バーンズ公爵家にゾロゾロ
良い雰囲気でナシウスの誕生日パーティを開いていたのに、招待もしていないのにゲイツ様がやってきて台無しだよ。
「ペイシェンス様! 申し訳ありません!」
後ろから、サリンジャーさんが飛び込んで来た。逃げ足が早いから、サリンジャーさんは、大変だね!
こんな時、貴族のマナーが憎い!
「お二人ともお食事はお済みですか?」
ペイシェンスのマナー! 寝る時も、いまだにお姫様寝なんだよ。
「いえ、すぐに王宮に戻らなくてはいけませんから」
サリンジャーさんが連れて戻ろうとするけど、ゲイツ様は無視してワイヤットが用意した椅子に座る。
「サリンジャー様もどうぞ」
どうせ王宮でも食べなくてはいけないのだから、ここで食べていけば良い。それに、サリンジャーさん、凄く疲れている様子なんだもの。
「そう、君も食べなさい!」
貴方に言われると腹が立つが、父親も「どうぞご一緒に」と勧めている。
うちの父親、貴族の一般常識はないのに、マナーだけは仕込まれたみたいね。
「ワイヤット、お二人に料理をお出しして」
昔のグレンジャー家だったら、こんな事を言ったら、使用人の食べる物が無くなるし、きっと数日は薄いスープだけになっていたね。
でも、今は余分に作っている。だって、ナシウス、ヘンリー、サミュエルがお代わりするかもしれないんだもの! 成長期の男の子の食欲、凄すぎる。
今年も冬の魔物討伐に行かなきゃいけないかもね!
ゲイツ様と少し遠慮がちなサリンジャーさんが前菜から食べている間に、こちらはケーキを食べる。
「ううう、美味しい! このところ夕食は、王宮の味気ないサンドイッチばかりでしたから、ペイシェンス様の料理を食べると生きている気がします!」
大袈裟なゲイツ様は無視するけど、サリンジャーさんも食べる勢いが凄い。
もしかして、本当に竜が飛来してくるから、魔法省は大変なのかな?
ビッグバードの蒸し物をゲイツ様はお代わりしていたけど、凄いスピードで食事を終えた。
「このバースデーケーキ、美味しすぎます!」
ああ、そんなに厚く切ったら、使用人にケーキが行き届かなくなるんじゃないかな? 女の子達は、楽しみにしているのに!
「ゲイツ様? 突然、来られたのは何故でしょう?」
ナシウスの誕生日パーティだと察知したのかな? 怖いんですけど。
「昨日は教授会でしたし、明後日は母とのお茶会です。ナシウス君の誕生日パーティは、今日の昼しか考えられません。なのに、サリンジャーが煩いから、遅刻してしまいました」
いや、招待していないからね!
「これは、ナシウス君に誕生日プレゼントですよ」
長細い箱をナシウスに手渡す。
「開けてみても良いですか?」
ナシウスが許可を得て、箱を開けると、綺麗なペーパーナイフが入っていた。
「ありがとうございます!」
ゲイツ様にしては、常識の範囲内のプレゼントだね。それに実用性もあるし!
「このペーパーナイフ、もし部屋に賊が押し入ったら、投げると良いですよ。どんなに下手に投げても、命中するようにできています。そこの丸い的に投げてみなさい」
その丸い的は、私がナシウスの誕生日パーティの為に作ったバルーンゲートなんだけど!
パーシバルの目がキラキラだよ。それに、ヘンリーとサミュエルも見てみたいと目が語っている。
「お姉様、宜しいのですか?」
バルーンなんて、どうせすぐに片付けるのだから、平気だよ! 何故だろう? ゲイツ様に言われた時は、ムカッとしたのに、ナシウスだとイイヨ、イイヨと思う。
「ええ、試してみたら良いわ」
ナシウスがバルーンに向かってペーパーナイフを投げると、パン! と割れた。
「後ろを向いて投げても当たりますよ!」
えっ、それは危険だよ!
「人を遠ざけた方が良いでしょう」
パーシバルが使用人達を遠ざける。
「どの的を狙うのかだけ決めてから投げなさい」
カラフルな風船擬、ナシウスは見て「青の的にします」と言ってから、後ろを向く。
後ろ向きでナイフを肩越しに投げる。パン! と青色の風船擬に当たった。
「凄いですね! このペーパーナイフは、魔導具なのですか?」
ああ、パーシバルが夢中だよ。それにヘンリーやサミュエルも投げてみたそう。
もう、バルーンゲートは諦めた。
「皆で的当てをしたら良いわ」
危ないから、外にバルーンゲートを運ばせて、ペーパーナイフを投げて遊ばせる。
さて、そろそろ誕生日パーティもお開きにして、バーンズ公爵家に行く準備をしなくては!
お土産にチョコレート一箱とメロンを渡す。ゲイツ様とサリンジャーさんにもね! これで帰ってくれるでしょう!
パーシバルは、少し残って欲しいな。庭を散歩しても良いし……なんて考えていたら、ゲイツ様が居座っている。
「あのう、忙しいのではないのですか?」
これ、帰れ! って意味だよ。サリンジャーさんは、ゲイツ様を帰らそうと一生懸命だ。
「そうですよ! 書類の山が机から雪崩れ落ちています」
相変わらず書類仕事をサボっているんだね。あれっ? 夜遅くまで王宮で働いているのに、変だよね?
「私が忙しい理由の一つは、ペイシェンス様にあります。それと、バーンズ公爵家にこれから訪問されるのなら、一緒に行った方が用件が片付きますね」
えっ、私の心を読んだの? 精神防衛魔法をかなり鍛えているつもりなんだけど。
サリンジャーさんが横で大きな溜息をついている。バーンズ公爵家に行くのを止めないのだ。
つまり、いずれは訪問する予定だったって事なのかな?
「パーシバルも一緒に行きませんか? 貴方は、ペイシェンス様の婚約者なのだから、少しは知っておいた方が良いでしょう。どのくらい貴重な才能の持ち主か、そして狙われる可能性について知るべきです」
えっ、パーシバルを挑発しないでよ!
「それは知っておきたいです」
あれれ、パーシバルも喧嘩を買っている? これって、私が思っていたバーンズ公爵家訪問とは違う感じになりそう。古着の販売どころじゃないかも。




