春学期の終わり
「やったぁ!」
クラスの全員が、テストが終わって喜んでいる。
担任のケプナー先生が少し苦笑して、注意事項を伝えているけど、Aクラスで留年しそうな学生はいないから、殆ど右の耳から左の耳へと流れているね。
「ペイシェンス、一緒に成績を見に行きましょう」
マーガレット王女とリュミエラ王女と一緒に廊下に張り出されている成績表を見に行く。
本当に、個人情報がダダ漏れだよね。毎回、この風景を見るたびに呆れちゃうんだ。
パーシバルも文官コースだから、一緒に確認する。
「外交学では、ペイシェンス達の赤組に負けてしまいましたが、何とかテストで挽回できたようです」
ディベートは、ラッセルとアルーシュ王子が、ローレンス王国側を僅差で勝たせたんだ。
パーシバルとフィリップスも頑張っていたけど、フォッチナー先生の判定は、ローレンス王国の赤組に上がった。
「まぁ、パーシー様が一番ですね!」
ディベートの負けを覆すだけのレポートとテスト結果だったのだろう。パーシバルは、負けず嫌いだから、奮起したのだ。
「ペイシェンスも良い成績ですよ」
私は、ディベートでは、あまり活躍できなかったからね。でも、ディベートの時に配布した資料の纏め方が評価されたのかも。円グラフとか、棒グラフとか、こちらではあまり見ないのかな? これで外交学も修了だ。
「あっ、国際法も修了証書が取れましたわ!」
これは、ゲイツ様に記憶術を教えて貰ったお陰かも?
「私は、ギリギリですね」
パーシバルも修了証書を取っているけど、私より点数が低いのを悔しがっている。ふふふ、こんな少年っぽい所も好きなんだ。
「秋学期は、ペイシェンスは第二外国語のカルディナ帝国語だけですか?」
領地管理は、一度授業を見学したけど、教科書を読むだけだったから、取らない事にしたんだ。
それに、教科書の内容も前世の中学の公民程度だったからね。それなら、管理人のモンテス氏に尋ねた方が早いもの。
領地の管理については、ロマノ大学で勉強するよ!
「織物と染色は、もっと学びたい事もあるのですが、ダービー先生が修了証書を出して下さったの」
ハンナ達は、秋学期も柄物を織るのだけど、私は生活魔法で織りあげちゃったんだ。彼女達と離れるのが辛い!
「秋学期は、社交界デビューもありますが、初収穫も大変です。税金に、治水工事に掛かった費用を申請したり、モンテス氏に任せてはいますが、領地に何回か行かないといけないでしょう」
そうなんだよね。だから、取れる科目は修了証書をと頑張ったんだ。
「それに、ハープシャーで初葡萄酒の仕込みがありますからね」
それは楽しみにしている。まだペイシェンスは子どもだから、ワインを飲ませたりしないけど、前世では好きだったんだよね! 自分のシャトーワインを飲めるだなんて、夢にも思っていなかったよ。
今年は、まだスミス氏も葡萄畑の手入れをし始めたばかりだから、あまり期待はできない。でも、ワインは葡萄で決まるって聞いたから、夏休みに少し魔法で後押ししたいと思っている。
「ペイシェンス、作品の展示を見に行くわよ!」
マーガレット王女もリュミエラ王女も家政数学を無事に合格したみたいで、とても機嫌が良い。でも、修了証書ではないから、秋学期も頑張らないとね!
「ペイシェンスの暗記メモのお陰で世界史も合格しましたわ」
リュミエラ王女もマーガレット王女のやる気に触発されて、文官コースの世界史や地理や行政や法律を学んでいる。
「来学期は、カザリア帝国の滅亡後の暗黒の戦国時代です。夏休み中に予習された方が良いですよ」
本当に、ややこしいからね。思い出しても、嫌になるぐらい。
「ペイシェンスのノートに上手く纏めてあるのです。リュミエラ様、お貸ししますわ」
マーガレット王女は、秋学期の範囲は写し終えたそうだ。頑張ったんだね!
そんな話をしながら、展示室に向かう。
「ああ、ペイシェンスったら、青葉祭のドレスだけじゃなく、収穫祭のドレスも縫ったのね!」
マーガレット王女に呆れられたけど、仮縫いまではしていたのを仕上げたのだ。
そうしないと、収穫祭の時に文句を言う女学生が数名いそうだからね。ダレダロウネ?
キャメロン先生のお勧めの赤は、やはり今のペイシェンスが着るとセクシー路線ではなく、幼く見えそうなのでやめた。
赤のドレスは、仮縫いまでしてあるから、大学生になってから着よう。
私が縫ったのは、濃い青色のドレスだ。
去年の騎士コースの二人が着ていたドレスに似ているかも? でも、あれほどシンプルにはしていないけどね。あれは、騎士の修業をしているスタイル抜群な二人だから似合ったんだよ。
ペイシェンスは、そんなに背が高くないから、ストンと落ちるだけのドレスは似合わないけど、スカートもあまり広がらないデザインだ。
「シンプルなデザインなのに、とてもゴージャスで素敵だわ」
マーガレット王女に褒めて貰えたよ。
「本当に、ペイシェンスのビーズ刺繍の腕は、本職の職人よりも上手かも」
エリザベスに絶賛されたのは、シンプルなドレスにキラキラ光るガラスビーズで雪の結晶をあちらこちらに刺繍しているからだ。
銀ビーズだけでなく、ガラスビーズがキラキラ光に反射して、ちょっと大人っぽいけど、背伸びし過ぎないドレスになっていると思う。
「本当に、本職のドレスメーカーでも、こんな手の込んだドレスは作れないと思いますわ」
キャメロン先生にも絶賛されたのは、嬉しいな!
ナシウスの成績も気になるけど、大丈夫だと信じている。サミュエルの時は、気になって見に行ったんだけどね。
でも、やはり気になるかも? なんて、初等科の発表を見に行くか迷っていたら、フィリップスに話しかけられた。
「ペイシェンス嬢、本当にグレンジャーに歴史研究クラブのメンバーで滞在させて貰っても良いのですか?」
パーシバルと婚約したのに、歴史研究クラブのメンバーは男子学生ばかりだからと、フィリップスは気にしているみたい。
「ええ、今年の夏休みは、父も一緒にハープシャー館で過ごすつもりです。グレンジャー館には、他にもロマノ大学の学生さん達が滞在すると思いますわ」
フィリップスは、なるほど! と納得した様子だ。
「学期初めのクラブで、夏休みにカザリア帝国の遺跡調査に行こうと提案しました。全員が賛成してくれたので、すぐにホテルを予約しようとしたのですが、既に満室だったのです。何とか近隣の知り合いの屋敷に泊めて貰おうと探していたのですが、やはり同じ考えの人が多くて……ナシウス君から招待して貰った時は、嬉しくて!」
あっ、パーシバルがやってきて、私とフィリップスの間にスッと身を入れる。少しは、嫉妬しているのかな? ナシウスのクラブのメンバーだから、平気だって顔をしていたのに。ちょこっと嬉しい!
「私も夏休みは、ハープシャーで過ごすので、会えると思います」
わぁ、牽制しているのかな? 珍しいね。でも、これは後でフォローしておかなきゃいけないかも。




