思わぬ伏兵
ゲイツ様がやってきて、昼食にする。普段より、少しだけ豪華だけど、招待する前から来ると言ったゲイツ様に抗議する為に、豪華な食材は控えて貰っている。蟹とかは使わないよ!
とは言っても、エバの料理は素晴らしいんだけどね。
「ううむ、やはり腕が違いますね。夏野菜のテリーヌ! こんな平凡な素材なのに、優しくて美味しい」
悪かったね! 平凡な素材で! オクラの断面が星になっているし、採れたてのスナップエンドウの緑が鮮やかだ。見た目も味も素敵なテリーヌだよ。
スープは、トマトがメインだけど、きゅうりやズッキーニなどが賽の目斬りにして入っている。初夏に相応しいスープだ。
「これも美味しいな」
昨日のカレースープも好評だったけど、こちらも良いよね。
父親のコメントに、ゲイツ様が食いつく。
「これも? では、他にも美味しいスープがあるのですね!」
ああ、煩いから無視して、スープを飲もう。パーシバルも知らぬ顔だけど、あああ、防御が甘いナシウスに質問しているよ!
「近頃、新しいスープが食卓にのぼったのではないですか?」
ナシウスは、一瞬戸惑って、私の顔を見る。素直な良い子だよ! 愛しい弟の苦境を救わなきゃ。
「昨夜、今度の教授会に出しても良いかと、新作のスープを試しましたの」
ぎゃん! ぎゃん! と煩いゲイツ様に「レシピを渡しますわ」と宥める。
うっ、この時点で気持ち的に負けてしまっているよ! パーシバル、頼りにしているからね。
魚料理は、これは仕方ないから領地から冷凍で送って貰ったケイレブ海老のクリームコロッケだ。
エバのクリームコロッケの隠し味は、ほんの少しの白味噌。ゲイツ様にはわからないかもね。ふふん!
「ううっ! 美味しい! お代わりしたいですが、肉は何でしょう?」
本当に遠慮がないよね。突然押しかけて来て、いや、一応は招待したことになるのかな? いや、承諾する前から来る気満々だったよ。
「お肉は、ビッグボアのカツレットですわ」
前世のトンカツぽいけど、どちらかと言うとミラノ風カツレットかもね。肉を薄くなるまで叩いて伸ばし、それにチーズと香草を混ぜたパン粉をまぶして、揚げ焼きした感じ。
「それも新作ですね! それなら、今回はお代わりはしないでおきましょう」
口直しのいちごシャーベット、大好きな味になっている。今回は、身内だけ? だし、ヘンリーも一緒だ。
カミュ先生は、王宮魔法師の名前で遠慮しちゃっているけどね。
この様子を見たら、遠慮する必要が無かったとわかると思う。夏休みは、私の秘書として、一緒に過ごしてもらう予定!
「お姉様、いちごのシャーベットをお代わりしたいです」
もう! ゲイツ様が悪い見本を見せるから!
「ヘンリー、これからお肉が出ますし、デザートはヘンリーが好きないちごパフェですよ」
ゲイツ様が「いちごパフェ! それは何でしょう!」と騒いでいるけど、ヘンリーを納得させる方が重要だよ。私は、ペイシェンスに弟達の面倒をみるのを託されたんだからね。多分だけど……。
お肉料理は、カラッと揚げ焼きされた薄いカツレットにトマトソースが掛かっていて、とても美味しい。
エバは、私が食べる量を把握しているから、お皿の半分ぐらいのサイズだけど、他の人のはお皿からはみ出しそうな大きさだ。
「おお、これは美味しいですね!」
こちらでもカツレツっぽい料理がないわけじゃないけど、分厚くて食べ難い。
これなら、ペイシェンスでも食べやすいんだ。
転生した当初は、他の令嬢よりよく食べていたけど、今は普通だよ。それに、リリアナ伯母様達に教えて貰ったけど、令嬢は外では少食にしているみたい。それが嗜みだそうだ。
ナシウスとヘンリーは、あっという間に食べて、お代わりをするか悩んでいる。
「若君達は、半分ずつにされては如何でしょう?」
ワイヤットが見かねて、アドバイスする。成長期の男の子、食欲魔人だよ。
今年は、冬の魔物狩りに行かないつもりだったけど、夏で肉は使い切りそうなんだ。だから、参加するかもしれない。
成長期の弟達に肉をお腹いっぱい食べさせたいからね!
「私もお代わりします!」
はぁぁ、遠慮という文字はゲイツ様の辞書には載っていないみたいだね。
「お父様やパーシー様はどうされますか?」
父親は、もう十分だと笑う。パーシバルもいちごパフェ用にやめておきますと笑った。
これが大人の分別だよ! とゲイツ様を睨んでも、二枚目のカツレットを美味しそうに食べている。
いちごパフェは、これも教授会のデザートにどうかな? と試食を兼ねている。パフェ容器も錬金術でガラスで作った。
前世でよく見た上が膨らんでフリルになっているパフェ容器だよ。底には、いちごをカットしたのをジェリーと一緒に詰めて、その上にバニラアイスクリーム、いちごアイスクリーム、生クリーム、いちごを交互に詰めてある。
一番上は、もちろん生クリームの上に鎮座しているいちご! 所々にいちごソースが掛かっていて、凄く美味しい。
これは、少し小さ目の容器だから、ペイシェンスでも完食できる。
「ペイシェンス様! こんなに美味しいのに容器が小さすぎます! ボウルぐらいの容器で出すのが良いと思いますよ」
父親が苦笑している。
「年配の教授には、このくらいの量が良いだろう」
ゲイツ様はお代わりしているし、ナシウスとヘンリーもね。
パーシバルは、少し考えている。だって、食後にゲイツ様との話し合いがあるからだ。お腹一杯だと、眠くなるからかな? えっ、それは私だけ?
冷たいパフェの後だから、温かい紅茶が美味しい。ふぅと、一息ついていると、ゲイツ様からとんでもない伏兵が投下された。
「ペイシェンス様は覚えておいででしょうか? 騎士コースのリンダ・レナードとジェニー・ウェーバーを」
うん? 冬の魔物討伐で同じテントだったから覚えているよ。ユージーヌ卿に鍛えられていたけど、未だ実力不足だった感じ。
「ええ、魔物討伐の慰労会にもお呼びしましたわ」
ゲイツ様がにっこりと笑う。
「彼女達も鍛えないといけません。夏休みは、自主練習すると言っていましたが、それでは不十分でしょう」
まぁ、それはそうかもしれないけど、私には関係ないよね?
「ペイシェンス様の従兄弟のサリエス卿と婚約者のユージーヌ卿、このお二方とパーシバル様に指導して頂ければ、二人もリュミエラ王女が結婚して、王太子妃になる頃にはお役に立つと思います。これは、王妃様と母から頼まれたのです」
うっ、それはそうだろうけど、私の領地で夏休みにしなくても良いじゃん!
「二人は、騎士クラブのパーシバルの後輩になりますよね。このままでは女性王族の警護につくのには実力不足です」
「それは、その通りですが……」
ああ、パーシバル! それは罠だよ! 騎士関係に弱いのを突かれたみたい。
でも、このままゲイツ様の言いなりにはならないよ!




