パーシバルとタッグを組もう
キャリーに「なるべく早くいらしてください」と手紙を届けてもらったので、パーシバルはすぐに来てくれた。
「急にお呼びだてして、申し訳ありません。この手紙を読んで下さい」
パーシバルにゲイツ様からの手紙を差し出す。
「えっ、竜ですか!」
パーシバルも先ずはそこで驚く。読み進めて、今すぐの話ではないとわかって、安堵の息を漏らした。
「本当にゲイツ様ときたら、先制攻撃が激しいのです」
これを最初に書いたのは、私を脅すつもりかな?
「でも、これは考えないといけないことですよ」
それは、その通りだけど……竜が来るかどうかは不明なんだよね。来るかも? 来ないかも?
パーシバルは、来る可能性があるなら、その脅威に備えなくてはいけないと顔を引き締める。
「パーシー様! 備える必要はあるでしょうが、それを私の領地で夏休みにするのは如何でしょう?」
パーシバルは、ハッと思考の渦から醒めた顔をした。
「そうですね。これは、王宮魔法師としての仕事です」
そう、そう! 魔法省や騎士団が対応策を考えて欲しい。
二枚目のエクセルシウス・ファブリカ案件の話は、パーシバルはううむと唸ってしまう。
「これも国の機密案件だと思いますわ」
「ああ、そうですよね! つい、太陽光から魔素を取り出して、魔石の代わりに使えたらと考え込んでしまいました」
確かに、エネルギー革命になりそうなんだよね。飛行艇に使うのは、軍事利用になりそうだけど、街灯とかに使いたいのも本音。
「これをペイシェンスは作れそうなのですか?」
「まさか! 私は作れそうにありませんわ。だから、王宮魔法師のゲイツ様が作られたら良いと思うのです」
パーシバルが疑わしそうな目で私を見ている。
「でも、ペイシェンスは、ゲイツ様も作れなかった浄化の魔法陣を描いたのですよね?」
うっ、それはチートだよ。
「凄く魔力を使って、気絶してしまいましたの」
パーシバルが、急速冷凍の魔法陣を描いた時を思い出して、反省した。
「それは、心無いことを言いました」
ゲイツ様は、もしかして、それを期待しているのかもしれないけど、紙に魔法陣を描いただけでも大変だったのに、ソーラーシステムなんか無理だよ。
「これは、拒否しましょう!」
パーシバルは、私を抱き寄せて宣言した。
「コホン!」
えっ、メアリーがいつの間にか、キャリーと交代している。
ゲイツ様に返事を届けて、直ぐに帰って来たんだ。少しはサボれば良いのにね。
「ああ、ルーシー様は三年生でしたね。私とは違うクラスですし、魔法使いコースの方とは知り合いが少ないので、うっかりとしていました」
魔法使いコースは、カエサルとアーサーぐらいしかパーシバルは、知らないそうだ。
まぁ、元々は騎士コースだしね。あれっ? 今までの魔法クラブの部長は誰だったのかな? アンドリューが偉そうにしていたけど?
「魔法クラブの元部長は……名前は分かりますが、顔を思い出せません。部長会にもアンドリューが代理で出席していましたし」
つまり、アンドリューが次期部長どころか、実際的に部長だったんだ。
「それなのに、卒業間近のルーシー様が部長で良いのでしょうか?」
私の疑問に、パーシバルは肩を竦める。
「魔法クラブが、アンドリューよりルーシー様を選んだのだから、それは問題ありません。卒業後は、また選挙をすれば良いだけでしょう」
ふうん? そんな感じなの? 音楽クラブや錬金術クラブは、選挙はなかったけど、自然と決まったから不思議。
「多分ですが……ルーシー様がアンドリューに魔法決闘を申し込み、勝ったのではないでしょうか?」
うっ! 私も決闘をルーシーに申し込まれたよ。
「騎士クラブもそういった決め方ですか?」
決闘とか血の気が多いよ!
「いえ、実力は無視できませんが、立候補して投票で決めています」
パーシバルは、実力は問題ないけど、文官コースに変わるから立候補しなかったんだね。
「そうか、アイラ様はこのままではアンドリュー様に勝てないのですね」
ふぅ、単なる魔法合宿だと思っていたけど、魔法クラブの新部長を決める為なのかな? アンドリューが新部長になったら、錬金術クラブと揉めそうで嫌なんだよね。
「ペイシェンス! ゲイツ様のワナに掛かっていますよ」
うっ、その通りだ。これも、私の領地で夏休みにしなくはいけないことじゃない。
「ふぅ、アルーシュ王子は夏の離宮に招待されているし、魔法合宿はなしですよね!」
これで安心して、パーシバルと弟達と夏休みを過ごせるよ!
「他国の王族を夏の離宮に招待するのは、最初の二週間ですよね? その間、陛下も一緒でしょうが……王都に先に戻られるのでは?」
いつも忙しそうな国王陛下だ。その留守の間は、ゲイツ様が王都に残っている筈。
「えっ、もしかして……」
嫌な予感がして口を噤む。パーシバルも同じ考えみたいで、口を閉ざしている。
「一つ、一つは、論破できますが、全てを絡めてこられると拙いですね」
そうなんだよね! 竜の件も、太陽光蓄魔器も、魔法合宿中も、全てローレンス王国の将来の防衛に関連してくる。
「ルーシー様とアイラ様だけなら、良いのですけど……指導とまで言えるかどうか不安ですが、手ほどきぐらいはしても良いです。それに領地の開発のお手伝いをして貰っても良いし」
女の子の友だちは少ないから、その手助けはしてあげたい。
「ペイシェンス、それもゲイツ様の手ですよ」
そうなんだよね! パーシバルの言葉で、溜息が出ちゃう。
「二人でタッグを組んで、ゲイツ様の罠から逃れましょう!」
パーシバルと手を取り合って、気合を入れる。メアリーが隅の椅子で呆れているよ。




