夏休みの計画を立てる前に
応接室でパーシバルと二人で夏休みの計画を立てる! まぁ、メアリーが隅の椅子に座って縫い物をしながら観察しているんだけどさ。
「今年は、夏の離宮にリュミエラ王女やパリス王子、オーディン王子が招待されていると聞きました。カレン王女はどうなのかしら?」
パーシバルも聞いているのか、笑顔で答えてくれた。
「カレン王女もパリス王子と共に招待されていますよ。それに、何故かアルーシュ王子も」
他の王族は、ローレンス王国との縁談があるから理解できるけど、アルーシュ王子は関係ないよね?
「王立学園に留学している王族を夏の離宮に招待するのに、一方だけ除け者にするのは如何かと思われたのか、南の大陸からの魔石が欲しいからか? それとも竜の谷の情報が欲しいのかもしれませんね」
ああ、そう言えばブロッサム公爵は、その件をとても気に病んでいたようだ。私も思い出すと不安になる。
パーシバルがそっと肩を抱き寄せてくれる。暖かさにホッとするよ。
「竜がこちらの大陸まで飛んでくるかどうかは、わかりません。それに、私がペイシェンスを護ります」
そう言いながら、クッと苦笑する。
「今のままでは、ペイシェンスの方が強いですから、修業が必要ですけどね」
ええっ、青葉祭の優勝者に制服のまま勝ったパーシバルの方が絶対に強いよ。
「パーシー様の方が剣も扱えるから、頼りにしていますわ」
二人でいちゃいちゃモードになったのに、メアリーの大きな咳払いで離れる。
ここにメアリーがいるから、秘密の結婚式について話せない。何処かに行かせられないかな? キャリーなら少しぐらいの間、代われるんじゃない?
「あっ、それでは魔法合宿は無しですよね?」
アルーシュ王子も夏の離宮に招待されているなら、合宿には来られない。
「ペイシェンス、ゲイツ様に確認したのですか?」
パーシバルの目が厳しい。
「藪を突いて、蛇が出そうで……ええ、このままでは駄目ですよね。明日、手紙を書いて確認します」
パーシバルがクビを傾げている。
「魔法授業で聞かれなかったのですが?」
「それが、青葉祭の準備で忙しいから、この二週間は休講にしてもらっているのです」
ふぅ、とパーシバルが溜息をつく。
「怪しいですね。あのゲイツ様がそんな理由で休講? チョコレートでも要求されましたか?」
そう言われると怪しいかも? チョコレートは、バーンズ商会で販売されているけど、相変わらず上等なチョコレートはエバが作って半分は納めている。
その中にはゲイツ様用もあるけど、私が会う時はゲイツ様とサリンジャーさんにも持って行っているんだ。これは、授業料とご迷惑代だよ。
「私が持っていくチョコレートを要求しないゲイツ様なんて、おかしいわ!」
休講だろうと、こちらの勝手だからと要求するのがゲイツ様だ。
「何を考えておられるのでしょう? 兎も角、魔法合宿について質問してみましょう」
魔法合宿も、これ以上考えてもゲイツ様の意図がわからないから無駄だ。
「パーシー様、本当に歴史研究クラブの合宿をグレンジャーでしても良いのかしら?」
これは重要だから、パーシバルの気持ちを確認しておきたい。
濃い藍色の目を見ていると、恋する乙女の気分になるけど、気を引き締める。
「グレンジャーは、ペイシェンスの館です。そこに弟のナシウス君の友だちを招待するのは、何も問題ありません。それに、私は婚約者を信じていますからね」
ああ、やはりパーシバルは良いな! 私の弟ラブを理解してくれている。
ここからは、私のプランを話してみる。
「カザリア帝国の遺跡には、グレンジャーからの方が近いから、そちらを合宿所にして、私たちはハープシャーに滞在しても良いかも?」
父親とヘンリーは、ハープシャーだよ。
「それは……二手に分かれる程の使用人がいれば名案ですが……できるのか、分かりませんね」
そうなんだよね! 多分、歴史研究クラブのメンバーも侍従を連れてくるから、各自の面倒はみてくれると思う。ただ、その侍従達の食事なども用意しないといけないんだ。
「私達も海に近いグレンジャーに滞在しても良いのかもしれませんが、ハープシャーですることの方が多いのでは?」
うっ、そうなんだよね。
「ええ、味噌蔵と醤油蔵を作って貰っています。春に一度、領地に戻った時に大きな樽が並んでいて驚きましたわ。管理人のモンテス氏に大豆は買い付けてもらっていますの」
まだ、味噌も醤油も手付かずなんだ。
「それと、ソースも作るのでは?」
ああ、忙しい夏休みになりそうな予感! パーシバルに笑われた。
そう、仕事的にはハープシャーに滞在した方が都合が良い。でも、海の近くも魅力的なんだ。
「カザリア帝国の遺跡には、ハープシャーからも直接行く道がありますから、然程、時間的に違いはありませんよ。でも、あのグレンジャー館にも魅力は感じますよね」
幽霊屋敷みたいだったグレンジャー館、ラドリー様のお陰でまるっきり違う館にリフォームされたんだ。
「まだ建築途中までしか見ていませんの。だから、一度、グレンジャーに行ってみたいですわ」
ここから、二人でテスト前の忙しい時期だけど、なんとか領地にいけないか相談する。
グレンジャーで滞在できるのか? 食器とかリネン類はまだ買っていないから、そちらの確認もしないといけないんだ。
「基本的にハープシャーに滞在して、海水浴する時はグレンジャーに滞在しても良いですね。使用人は、モランから借りても良さそうです。父も母も、今年は領地に行く暇はないと言っていましたから」
それに、パーシバルはモラン伯爵領にも何日かは滞在して、管理人と話し合う必要があるみたい。伯爵が来れないなら、息子がしないとね。
「彼方の良い馬と馬の王を掛け合わしても良いと思っているのですが、ペイシェンスも何頭か良い雌馬を買いませんか? ハープシャーの警備体制が整うまで、モラン領で育てます」
あっ、それは良いかも?
「宜しいのですか?」
「勿論!」
ああ、パーシバルの騎士萌が眩しい。
結局、この日は夏休みの計画ではなく、その前の領地行きの話し合いになった。




