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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科
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夏の離宮 海だ!

 マーガレット王女の精神攻撃に撃沈したが、10歳の肉体に引っ張られたのか立ち直りは早い。そう、近頃だんだんと若くなっている。精神的にだよ。2回も思春期を体験するのは嫌なんだけど……ああ、前世の失敗の数々を思い出したよ。

 気分が乱高下しているのも思春期の傾向かも知れない。ああ、なんでこんな馬鹿な事を考えているか? キース王子が馬車に乱入してきたからに決まっているじゃん。

「マーガレット姉上、何故リチャード兄上が怒っているか分からないけど、一緒の馬車には乗っていられません」

 昼食後、途中で休憩の為に馬車が止まった時に強引にキース王子が乗り込んで来たのだ。今、シャーロット女官は怒れるリチャード王子と同じ馬車なんだ。お気の毒様だよ。

「キース、前から言おうと思っていましたが、貴方は人の気分を悪くする発言が多いわ。リチャード兄上は特に失言に反応しやすいから気をつけるように」

 そう、その通りだよ。でも、機嫌が悪くなったキース王子をどうにかして下さいよ。えっ、私にふるのやめて。

「マーガレット様、夏の離宮は海に近いと聞きましたが、私は海を見たこと無いのです。本当に見渡す限り水がいっぱいなのですか? それに海の水は塩辛いのも本当なのですか?」

 無邪気な10歳児のふりをするのは、精神年齢25歳にはキツいよ。

「お前、海を見たこと無いのか? もしかして泳げないのか?」

 私を小馬鹿にしてキース王子の気分は浮上したが、そういう所を直さないとまたリチャード王子の逆鱗に触れるよ。

「あら、ペイシェンスは泳げないの。それはいけないわ。キース、教えてあげなさい」

「ええ、姉上。ジェーンでも少しは泳げるのだぞ。それに水に落ちた時、泳げなかったら死ぬぞ」

 張り切ったキース王子に水泳を習うのは避けたいが、前世で泳いでいたから何とかなるでしょ。

「おっ、海の香りがしてきた。ほら、ペイシェンス、海が見えるぞ!」

 メアリー、馬車から身を乗り出しても叱らないで。キース王子が悪いんだからね。

「ああ、あれが海ですか? 小さくないですか?」

「馬鹿だなぁ、まだ遠いから小さく見えるだけだ。どんどん近くなったら大きさに驚くぞ」

 キース王子、私に海の自慢をして機嫌上昇ですね。良かったよ。

 海は大きかった。知ってるよ。でも、異世界の海は初めてだからさ。それに綺麗なんだもん。

「そんなに見なくても海は逃げませんよ。ほら、着くわ」

 海ばかり見ていたが、夏の離宮に目を向けて驚く。デカいよ!

 馬車の行列が止まり、王妃様が離宮の中に入る。勿論、私達もそれに続く。メアリーは他の女官やメイド達と荷物と一緒に各自の部屋へと急ぐ。ジェーン王女やマーカス王子は、ここでも家庭教師や子守りと一緒なんだ。

 部屋が整うまで、サロンで待つ。勿論、王妃様の部屋はすぐに整えられ、女官と部屋に向かわれた。残されたのは機嫌が悪いリチャード王子と気分上昇したキース王子と、マーガレット王女だ。何とかしろと私に目で指示するのやめて下さいよ。

「本当に海って広いんですね。でも、本当に塩辛いんですか? あっ、だから塩は海で作っているんですね」

 3人の呆れた目が向けられる。あっ、わざとらしかったですか?

「ペイシェンス、塩は岩塩に決まっているでしょ。本当に世間知らずね」

 マーガレット王女に叱られる。

「ええっ、海水を炊けば塩ができませんか? 岩塩も知っていますけど、海塩はまろやかで美味しいみたいですよ」

 リチャード王子が食いついてきた。

「海水から塩が取れるなんて、何処で聞いたのだ?」

「ええっと、それは……何処かで読んだ気がするのですが、違うのですか?」

 キース王子に馬鹿にされた。

「塩はハルラ山の岩塩採掘場で採れるのだ。勉強はできても物知らずだな」

 あっ、そうなんだね。ハルラ山は知らなかったよ。

「でも、ハルラ山で岩塩がとれるのは、昔、そこが海だったからでしょ。海が隆起して山になり、そこの海水が固まったからだわ。だから、海水から塩が作れるのですよ」

 リチャード王子が真剣に考え出す。

「そうか、海水は塩辛い。それを熱すれば水は蒸発して塩が残るのだな!」

 えっ、異世界では岩塩だけだったのですか? しまったな。

「ペイシェンス、実験してみよう」

 まぁ、リチャード王子の機嫌が直ったので良いか、なんて簡単なものでは無さそうだ。塩の専売とか国の利権だよね。莫大な利益も有りそうだけど、免職になったグレンジャー家なんて関わったら、吹き飛ばされちゃうよ。だから、ほんの少しアイディア料で良いから欲しいな。

 ああ、お金が欲しい。夏の離宮では内職はできないんだよ。それに裏庭の畑もジョージ任せだし。

『そっか、塩を作って持って帰れば、少しは節約できるよね。保存食には塩も必要だもの』

 国の為に塩を作ろうとしているリチャード王子と違いすぎてみみっちいけど、グレンジャー家は貧乏なんだよ。

 マーガレット王女の部屋の用意ができ、王子達も去り、やっとメアリーが呼びに来た。

「お嬢様、お待たせしました」

「そんなに急がなくても良いわよ。窓から海を眺めていたから」

 そう、金の元になる海水を見ていたんだよ。少なくとも、グレンジャー家が使う塩ぐらいは作りたいな。問題はそれをどうやって持って帰るかなんだよね。衣装櫃にどれくらい入るかな?

 どうも私の悩みはちっぽけだ。異世界に来たのに、冒険もぼろ儲けとも縁がない。やはり生活魔法しか使えないからかな?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ペイシェンスなら……ペイシェンスならやれるはず……! 塩を取り出すのと、真水を抜き続けるのはどっちが楽なのかな? ……大布浸して乾けを繰り返す……!
[一言] ふと気づいたんですがペイシェンスって「忍耐・我慢・患者」って意味ですよね。 この物語の主人公の待遇から名付けたとしたらぴったり過ぎて感心しました。
[一言] 「生活魔法、海の水、お塩になーれ」 海はすべて乾き、塩の大地に変わりました。 驚いた王子が魔法をかけた貴族の娘に顔を向けると、娘の姿は無く、同じ大きさの塩の塊が残っているだけでした。 な…
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