雪が溶けたからね
雪も溶けたら、デーン王国の国王夫妻の訪問! それって、私にも関係あるの? と惚けたい気分になるけど、やはり馬の王の主として、挨拶とかしないといけないみたい。
トホホな気分だけど、ジェーン王女とオーディン王子は、なかなか相性が良さそうなので、少し協力しても良い気分にもなるんだよね。
「両陛下の晩餐会は、ペイシェンスは参加しなくても良いのよね」
マーガレット王女は、ジェーン王女の姉として絶対参加みたい。ただ、機嫌が良いのは、そこにパリス王子も招待されたからかもね。
「ええ、私は社交界デビュー前ですから」
それを言ったら、マーガレット王女もリュミエラ王女もだけどね。今回は、デーン王国の国王夫妻の歓迎晩餐会に、ロマノにいる各国の要人も招待されている。
「私もリチャード様にエスコートしていただけるのです」
リュミエラ王女も正式な婚約発表は社交界デビューする秋だけど、ここはほぼ決まりだからね。
「それより、スレイプニルの仔馬が生まれたと聞いたわ。生憎、八本脚はいなかったそうだけど」
マーガレット王女はスレイプニルに興味は無いと思うのだけど、この情報はキース王子からかな。
「それは残念でしたわね」
リュミエラ王女もスレイプニルには興味はないと思うけど、コルドバ王国の大使からプッシュされているのかもね。
この件は、私も専門外なのでパーシバルに任せっぱなしなんだよ。後で聞いておこう!
「ローレンス王国としては、スレイプニルとのお見合いだけでなく、戦馬も候補にしたいのですが……デーン王国は、なんとしても八本脚のスレイプニルが欲しいみたいで、今回の国王夫妻の訪問にも何頭ものスレイプニルを連れて来られるようです」
ふうん、困ったなぁ。確かに八本脚のスレイプニルが馬の王以外にも生まれたら、こちらに執着されなくて嬉しいけどさ。
「サンダーが馬の王のお見合い計画を立てていると思うのです。彼なら、デーン王国にも少しは配慮していたと思いますが……」
押し込まれたら困るよと、パーシバルに遠回しに言う。
「勿論です。ある程度の配慮は致しますが、彼方の言う通りにはできません。デーン王国の枠内で雌馬を変更していただきます」
にっこり笑うパーシバルは、とてもハンサムだけど、少し腹黒さが見えて笑う。
「ふふふ、頼もしいですわ!」
この件は、パーシバルに任せておこう。これでデーン王国の国王夫妻に拝謁するのも少し気が楽になったよ。
私は、錬金術クラブの青葉祭の準備、そして音楽クラブの新曲発表会の準備。パーシバルは、学生会長として、青葉祭の準備に忙しい日々。
デーン王国の国王夫妻の訪問なんか、私は忘れちゃっていた。
「ナシウス! 凄く上手く魔法陣が描けるようになったわね!」
他の錬金術メンバーの指導のお陰だけど、今年の新入メンバーはメキメキと腕をあげている。
「クラリッサも凄く綺麗に描けているわ。これなら、魔導灯は自分で作れるわね」
クラリッサは、自分でロマノ大学の学費を稼ぎたいと言っているから、デザインした魔導灯をお勧めでしている。
「ペイシェンス様、このデザインで作りたいのですが、ここは金が良いのです。でも、そうなると高価になって」
ふむふむ、クラリッサのデザイン魔導灯は、こちらの貴族趣味にはマッチしているかも?
「それは、金メッキにしたら良いのですよ。それでも、少しは高価になるかもしれませんが、これは高級路線で売れば良いと思いますわ」
やはり、こちらで元々からの貴族として生まれたクラリッサと私の好みは少し差がある気がするね。
「そうだ、クラリッサってハンナ・バリー様と同じ苗字だけど親戚なの?」
「ええ、祖父の世代に別れたのです。彼方は男爵家ですが、私の家は騎士爵なのです」
ふうん、でも言っちゃ悪いけど、エドとクラリッサの方が賢い気がする。勿論、ハンナは大好きな友達だけどね。
「なら、エドは騎士になるのかしら?」
プッとクラリッサが吹き出す。
「エドは、騎士なんか向いていませんわ。流石のお父様も、エドは無理だと諦めています。官僚になって欲しいからロマノ大学に進学させようと考えているのです」
そうか、でもクラリッサの進学は認めていないんだね。こちらの世界では、女の子は早く結婚するのが当たり前だから、仕方ない面もあるけど、なんとかしてあげたい。
「クラリッサ、インテリア魔導灯だけでは、ロマノ大学の学費を稼ぐのは難しいわ。夏休み、私の秘書をしながら、学費を貯めてはどうかしら?」
カミュ先生に秘書になって貰うけど、ヘンリーの家庭教師もして欲しいからね。それに、今年の夏休みは領地の改革に力を入れたいんだ。
「えっ、とても嬉しいです!」
ぴょんと飛び上がったクラリッサの横にエドがやってきて、心配する。
「父上に聞かなくて良いのか?」
「ふふふ、大丈夫よ。ハンナ様からも口添えして頂くから」
元の親戚、それも主家筋からの口添えなら、多分大丈夫。それに、ハンナ達のドレスも作っているから、話し合う事も簡単なんだ。
錬金術クラブも音楽クラブの新曲発表会の準備も、そして新しいドレス作りも順調で浮き浮きなのに、デーン王国の国王夫妻が到着した。少し落ち込むよ。
「明日、一緒に王宮に馬の王を連れて行くのですが、大丈夫ですか?」
落ち込む私をパーシバルが心配してくれる。
「ええ、大丈夫ですわ」
多分ね!
木曜のゲイツ様の魔法訓練の後で家に帰る予定。
今は、移動魔法の練習で……上手くいっていない。石をやっと1メートル移動できる程度なんだよね。
「ふぅ、ナシウス君を移動できたのだから、自分を移動できると思うのですが。体重は軽いでしょう?」
まぁ、レディの体重なんて失礼な! と怒りたいけど、確かにナシウスよりも軽いんだよね。あの子ときたら背がぐんぐん伸びているから。それは、それで嬉しいけど、気軽にキスできないのが不満。
「ペイシェンス様が移動魔法をマスターしたら、外国にも行けるかも知れないのに、もっと本気を出して下さい。出来ない訳じゃないのですから」
確かに一度はできたのだけど、あの時は必死だったから覚えていないんだよね。
「パーシバルを箱に閉じ込めて、空気が無くなるなら転移させられるでしょうか?」
髪の毛がバサァと立ち上がる気がしたよ。それって、窒息しちゃうじゃない!
「ゲイツ様!」
フーフーと怒る私と笑うゲイツ様の間にサリンジャーが入って仲裁してくれた。
「今日はここまでにしましょう。馬の王の仔馬が生まれるのは来年ですね」
浮き浮きしているのは、ゲイツ様の所有の戦馬をお見合い相手に突っ込むのが成功したからかも。
「私はサンダーに丸投げですが、マチアス陛下が無理を言われないと良いのですけど」
今日もエバが作ってくれたケーキとチョコレートをゲイツ様に渡して、お茶タイムだ。
「馬の王の主はペイシェンス様なのだから、彼方の要求なんて気にしなくて良いのですよ」
相変わらず強気のゲイツ様だけど、私はこの件はパーシバル、つまりモラン外務大臣にお任せするつもり。
だって、将来の義父様になるから、あまり無下にはできないんだよね。外務省的には、少しは彼方に花を持たせて、岩塩の取れる山の権利とか鉱山の所有権を確立したいみたいだからさ。
やはり、こうして考えてみると私は外交官には向いていないのかもね。




