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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科
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お寝坊マーガレット王女

「ペイシェンス、一緒に乗りましょう」

 王妃様が許可されたのに断れるわけがない。4人の馬車の道中では、シャーロット女官とメアリーは口を開かない。つまり、マーガレット王女と私しか会話しないのだ。

「ペイシェンスが来てくれて本当に良かったわ。お母様がとてもご機嫌が悪いの。同じ馬車だと息も詰まってしまうわ」

 文句を言うマーガレット王女の髪はお世辞にも整えられているとは言えない。一応はリボンで括られているが、髪先には寝癖がついたままだ。王宮には何人も女官や侍女がいる筈だよね。

「まさか、寝坊されたのですか?」

 自分でリボンをほどくと、髪をどうにかしてと突きつけられる。

「だって、王宮のメイドはペイシェンスのような起こし方をしてくれないのよ。起こし方が悪いのに、私がお母様に叱られたの」

 甘やかしてしまったようだ。反省しなくてはいけないが、先ずは髪だ。昼食までにキチンと整えなくてはいけない。

 王妃様は側仕えと一緒に乗りたいなら仕方ないと許可されたのだ。言葉に含めた意味は分かるよ。

「メアリー、ブラシは持っている?」

 侍女の見本のメアリーは手下げにブラシを入れていた。本当はメアリーの方が髪を整えるのは上手だが、王宮のメイドのプライドを潰すことになる。マーガレット王女の側仕えがするのは良いとペイシェンスの許可も出た。

「綺麗になれ!」と生活魔法を唱えると、寝癖もなおり、艶やかな髪になった。

「簡単な髪型しかできませんよ」

 ブラシでハーフアップにして、リボンでとめる。これでは私の髪型の方が派手だ。メアリーが張り切ったせいだ。

 おろしてある髪の毛を指先に巻きながら「カールになれ」と生活魔法を何度も唱える。学友のキャサリンのような巻き髪になった。あそこまでドリル髪ではないけど、良い感じだと思う。

「鏡はある?」

 メアリーは黙って私に鏡を渡す。それを私がマーガレット王女に渡す。わたしの侍女が直接渡すのは駄目だそうだ。面倒くさいね。

「あら、素敵じゃない。今度からはこの髪型にしてね」

「時間がありましたら、そうします」

 朝起きるのがぎりぎりじゃなければね。

「ねぇ、何処で昼食なのかしら?」

 女官のシャーロットに向かって質問する。こんな時は口を開いて良いようだ。

「ラフォーレ公爵の屋敷で昼食の予定でございます」

 何処かで聞いた事がある名前だ。

「あら、変人アルバートの屋敷で昼食なの。ペイシェンス、気を付けなさい。ラフォーレ公爵は、息子に輪をかけた変人です。絶対に私の側から離れてはいけませんよ」

 メアリーの顔が青ざめている。

「アルバート様は音楽クラブの副部長をされるぐらい音楽愛が深い方なだけです」と安心させる。

「あら、あれは音楽への愛を通り越しているわ。ペイシェンス、そんなに呑気だと、ラフォーレ公爵の屋敷に監禁されてしまうわよ。ラフォーレ公爵は新曲発表会でも拍手喝采して目立っていたでしょ」

 あっ、興奮して立ち上がっていた保護者がいた。そういえば豪華な衣装だったね。

「わかりました。マーガレット王女の側を離れません」

 朝食抜きのマーガレット王女が機嫌が悪くならないうちに着けば良いなと願う。

「とても退屈だわ。こんな時にリュートが弾ければ気が紛れるのに。ペイシェンス、夏の離宮にはジェーンやマーカスの為に家庭教師も同行しています。貴女はハノンは上手だけれど、リュートは弾けないわ。音楽教師に習いなさい」

 それくらいは良いと思っていたら、次々と付け加えられる。

「ダンスも苦手だと言っていましたね。音楽が得意なのだから、リズム感は良い筈よ。青葉祭でも上手く踊っていたわ。後、少し上達すれば修了証書も取れるでしょう」

 確かにダンスも修了証書が貰えたら自由時間が増えるなんて考えていた私は間抜けです。

「私は春学期でダンスの修了証明を頂いたから、貴女が免除になれば、その時間、音楽が楽しめるわ」

 それは勘弁して欲しい。

「私は中等科に飛び級しなくていけませんので、その時間は勉強に当てたいのです」

 全く相手にされなかった。

「何を言っているの。貴女は数学も修了証書貰ったし、ほぼ実技は免除でしょ。私が免除の時間ぐらい側仕えとして音楽を共にしても良い筈ですわ」

 ダンスの特訓が決まったようだ。

「あっ、そう言えばキースが馬を捕まえられないと言っていたわね。もしかして、乗馬が出来ないとか無いでしょうね?」

 キース王子め! 余計なことを。

「私は乗馬はした事がありません。したいと思った事もありません」

 きっぱりと断る。けど、無駄だった。

「まぁ、乗馬ができなかったら、狩りに招待された時に困るでしょう。夏休み中に乗れるようにならなくてはね」

 狩りに招待されないし、されても馬がいないから行けないよ。とは言えないんだね。乗馬なんか前世でもした事ないよ。落馬して死ななきゃ良いけどね。

 マーガレット王女の空腹からの嫌がらせを、シャーロット女官とメアリーは口を一文字に閉ざして聞いていた。

 私? 私は話半分で聞いていたよ。リュートとダンスの練習はさせられるだろうけど、乗馬は少しだけだと思う。だって音楽愛の溢れるマーガレット王女は、ハノンの連弾曲とかで買収できるもの。モーツァルトの二台のピアノの為のソナタ、覚えているかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] マーガレット王女が大嫌い過ぎてwwww 側仕えって王族の奴隷ですか?って言いたくなるわ。 寮での過ごし方とか詳細な報告もなく、王女の言だけで自立とは程遠い生活態度だし、ありがた迷惑極まりない…
[気になる点] マーガレットの顔面にワンパンかますのはまだかな?
[良い点] マーガレット王女の空腹からの嫌がらせ 心意気が器がでかいなと。 乗馬のレッスンなんて、お金がないとそれこそ受けられない貴族や、上流階級のレッスン。 主人公の懐事情を把握しての現物支給じゃな…
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