リヴァイアサンを料理
二月が終わり、三月になった週末、私はパーシバル様と応接室であれこれ話し合っていた。
「ゲイツ様がリヴァイアサンの討伐に行かれたのが二月の中旬でしたわね」
「そろそろ帰還されるかもしれませんね」
リヴァイアサンを討伐できたのか? 怪我などされていないのか? 少し心配だけど、私にできる事はない。
「ノースコート伯爵夫妻が三月の第二週から領地に戻られるそうです」
リリアナ伯母様から手紙で知らせて貰ったのだ。
「三月の最終金曜は、錬金術クラブの体験コーナーでしたよね」
二人でスケジュール帳を見ながら、領地に行く日を考える。
「二月は一度も領地に行けませんでしたわ」
パーシバルは、不満そうな私を宥めて笑う。
「でも、こちらから馬を送ったり、ラドリー様と館の改修工事を話し合ったりしていたじゃないですか?」
それに、マッドクラブを週一で冷凍車で送って貰っている。
討伐と解体は冒険者ギルドでして貰い、急速冷凍はモンテスがして、冒険者ギルドで荷馬車の護衛を頼んで運んでもらったのだ。
その荷馬車にモンテスは、領地の様子を書いてくれている。
「ラドリー様の館の改修プラン、とても素敵ですが……本当に1ヶ月でできるのでしょうか?」
パーシバルもそれはわからないと肩を竦める。今は、必要な材料を領地に集めている段階なのだ。
「三月の第三週に領地に行きましょう! その頃なら、ラドリー様も行けると言われていましたし」
なら、行く準備をぼちぼちしておかなきゃね。
それと体験コーナーのご褒美のりんご飴! 麦芽糖だけでは上手く固まらなかったけど、砂糖と色粉をたして、料理クラブとコラボして成功したんだ。
麦芽糖も米のお粥だけじゃなく、とうもろこしの粉で作ったお粥でも作れる事がわかった。でも、いずれはグレンジャーでお米を栽培したいんだけどさ。
麹を作るのも麦でもできない事はない。味噌も、麦味噌もあるけど、やはり白味噌は米が無いと難しい。
それに、やはりご飯は食べたいから作るよ!
「ライトマン教授、そしてグリーン様も一緒にラドリー様の改修工事を見学したいと言われています。何人がノースコートに滞在するのか、ハープシャーに滞在するのか知らせないといけませんわ」
多分、ライトマン教授はハープシャー! ラドリー様はノースコートかな? グリーン様はどうするのか? それを確認しておかなきゃね。
味噌を作る樽は、ハープシャーは元々ワイン樽を作っていたから、簡単に作って貰えた。後、醤油を熟成させる大きな樽も作って貰っている。当分は、小さな蔵で作る予定だから、後は大豆を炊く釜と麹を作る室ぐらいかな? 色々と細かな道具は領地で作ろう!
なんて二人であれこれ考えていたら、ゲイツ様が戻って来られた。いや、無事に戻られたのは良かったのだけど……リヴァイアサンの料理! 本気だったんだね。
「ゲイツ様、ご無事でお帰りだったのですね」
私の挨拶なんか無視して、料理を所望されるけど、リヴァイアサンなんか食べた事無いよ。
「ゲイツ様、王宮に報告に行きませんと!」
サリンジャーさんが引っ張って王宮に連れて行ったけど、絶対に帰って来そう。
「リヴァイアサン、どんな味なのかしら?」
パーシバルも食べた事がないみたい。
エバに持ち込まれたリヴァイアサンの肉を少しだけ切って、茹でたのと焼いたのを持って来させる。
「ううん、蕩けるわ!」
ただし、私には少し脂っこく感じる。前世の高級牛肉に近いけど、より脂のさしが多い感じ。フォアグラみたいな食感かな?
「茹でた方が食べやすく感じるけど……パーシー様はどうですか?」
こちらの人の方が肉とか多く食べるから参考意見を聞きたい。
「焼いたのも美味しく感じました。ただ、大量には食べられないかもしれません。ああ、勿論、リヴァイアサンの肉なんか大量に食べられる物ではありませんけど」
そうか、そうだよね!
しゃぶしゃぶにしたら、脂が落ちて私的には食べやすいけど、高級な肉だから……でも、ゲイツ様はステーキを航海中にかなり食べたんじゃないかな?
ううん、悩むけど、私の好きな様に料理しよう! それが目的でリヴァイアサンの肉をお土産に下さったのだろうから。
エバにレシピを渡し、家政婦のミッチャム夫人に「昼食会を開くかも? ゲイツ様とサリンジャー様がいらっしゃると思います」と伝えておく。
後は、エバとミッチャム夫人に任せておけば良いから、パーシバルと領地行きの話をしようとしていたら、今度はサンダーが話があると言い出した。
「あのう、そろそろ春になったので……馬の王のお嫁さんを紹介していきたいのですが……」
未婚の私に言いにくそうなので、パーシバルは察して馬房で話し合ったみたい。
「本当にサンダー任せで良いのですか? ペイシェンスが頼まれた方はいませんか?」
「実は……マロンがもう数年先なら考えているのですが、まだ若いし、ヘンリーは戦馬はまだ乗りこなせないから」
パーシバルは、なるほどと頷く。
「サンダーも王家から他の貴族からの要請を受けて、それを考慮した上でお見合いを進めて行くそうですし、それで良いのかもしれませんね」
何だか、少し恥ずかしいけど、仔馬は見たい。
「あのう、デーン王国の方は?」
スレイプニル愛の激しいデーン王国が黙っているとは思えない。
「それも考慮されているのでは? ただ、馬の王を領地に連れて行けないかもしれませんね」
馬の王は、領地に行くのを楽しみにしているのにね。困ったな。
「まぁ、サンダーなら、領地の近くの馬となら、そちらでお見合いさせるかも? 馬の王は走るのが好きだから、遠征において行ったら拗ねそうですよ」
確かにね! それは、サンダーに任せよう。
「ペイシェンス様!」
応接室の扉がバンと開けられて、ゲイツ様が飛び込んで来た。後ろからワイヤットとサリンジャーさんもやってきたよ。
「ゲイツ様、私なりのリヴァイアサン料理をご馳走いたしますわ」
そうしないと帰りそうにないからね。
今日は、リヴァイアサン尽くしだ。
「前菜は、リヴァイアサンのテリーヌです」
リヴァイアサンをツナのように低温の油でコンフィにして、冷凍のマッドクラブ、冬野菜でテリーヌにしてある。
「これ! これですよ! 船の上ではステーキしか食べられなかったのです」
やはり、リヴァイアサンを食べていたんだね。そりゃ、そうかも?
スープはあっさりとコンソメにして貰った。リヴァイアサンは、やはり濃厚だからね。
「ビッグボアのステーキ、リヴァイアサン乗せです。ソースはにんにく醤油風味です」
私は、リヴァイアサンのステーキは無理なので、上にフォアグラを乗せる感じに使った。
「ううう……リヴァイアサンをこんな感じに使うとは!」
泣いているけど、ケチったと怒っているわけじゃないよね?
「ペイシェンス、美味しいですね」
パーシバルは褒めてくれたし、父親も弟達も完食だ。
「これ、凄く考えられた料理ですね。ビッグボアがより美味しく食べられるし、リヴァイアサンも美味しいです」
サリンジャーさんが認めてくれてホッとした。
「ペイシェンス様、もしかしてメインは?!」
ゲイツ様はお代わりするか悩んでいたが、流石によく私の料理を食べているね。
「ええ、リヴァイアサンのしゃぶしゃぶですわ」
これ、本当に美味しかった。噛む必要が無い程に柔らかくて、柚子風味のポン酢、美味しい!
ゲイツ様は三皿食べたけど、私は一皿で十分だな。後は、うどんにしよう。良い出汁が出て美味しいな。
「ペイシェンス様、やはり一緒に行けば良かったですね」
いや、行きたくないよ。
「ご馳走になりました。さぁ、ゲイツ様! 王宮に戻りましょう!」
えっ、まだ報告してなかったの?
「もう、陛下には報告したから良いではないか? 私は、デザートをゆっくりと食べるから、サリンジャーに任せる」
そんな事を言っていたけど、第一騎士団長が迎えに来た。
「デザートはお持ち帰り下さい」
ケーキ箱にホールごと入れてあげる。じゃないと帰りそうになかったから。




