リヴァイアサン討伐2……ゲイツ視点
私は簡単に作戦を説明した。
「西側と東側でビッグホエールか、そのくらいの大きさの魔物を討伐し、それを餌に四匹を引き離すのだ」
確かに上手く行くかは分からないが、四匹を相手にするより、一匹でも餌に引っかかってくれたら良い。
なのに、ああだ、こうだと文句を言い出す。
「私達の艦隊を分けたら、不利になります」
身の安全を図りたいのか? それとも別の作戦案でもあるのか?
「商船とは違い速度が出る軍艦なら、逃げるだけならできるだろう」
つまり、餌を置いて気を引いてくれたら、討伐しなくても良いのだ。
「では、ゲイツ様は三匹残っても討伐して下さるのですか?」
グラント、嫌な事を言うな! できれば、二匹までにして欲しい。
「少なくとも四匹を相手にするよりは、勝ち目があると思っている」
西側にコルドバ王国の戦艦三隻、そして東側に私が乗っているローレンス王国の戦艦とコルドバ王国の戦艦二隻。
西側の指揮はグラントが執る。まぁ、引退したと言っているが、他の軍人より腕が立つのは明らかだし、コルドバ王国の連中は尊敬しきっているからな。
「それで、西側の艦隊が獲物を仕留めたのは、どうやって判断するのですか?」
東側の私達が到達海域に航行している途中、サリンジャーが尋ねる。
「リヴァイアサンの動きがあれば、こちらでも獲物を仕留めるさ。できれば二匹と二匹に分けたい」
彼方に三匹でも良いのだ。その場合は、一匹討伐して、残りの三匹を何とか引き離しながら、討伐していく。
自分でも行き当たりばったりな作戦だと思うが、なら他の作戦を提案して欲しいものだ。苛々するのは、最後のチョコレートバーを食べたからかもしれない。
「サリンジャー、ペイシェンス様からチョコレートバーを貰っただろう?」
彼女の性格なら、私だけに渡すわけがない。サリンジャーのマントにも守護魔法陣を刺繍するぐらいなのだから。
「頂きましたが、艦長や士官に分けました」
「なんて事をするのだ! これからリヴァイアサン討伐なのに、気力が無くなった」
やる気ゼロだよ。もうロマノに帰りたい。魔石の関税なんか外務省に頑張って交渉させれば良いのだ。
「ゲイツ様、少しだけは残してありますから」
なら、先にそう言え!
「では、リヴァイアサンの動きがあった時に討伐する餌の魔物を探しておこう」
私は、ビッグホエールの肉も好きなのだが、今回はリヴァイアサンに譲ってやるのだ。これで、不味かったら、グラントを酷い目に遭わせてやる!
次の日、西の海域で何か大きな魔物を倒したのだろう。それが海に放置された事にリヴァイアサンが気づいたようだ。
「二対二に分かれろ!」
それか「三対一でも良い!」のだ。
「こちらでも魔物を討伐しよう!」
ビッグホエールは見つからなかったが、クラーケンがいたので討伐する。
海の上に浮かぶクラーケンを軍艦の乗組員達が気持ち悪そうに眺めている。
「少し離れるぞ! リヴァイアサンが二匹掛かった」
あまり近くに居たら、餌を食べる前にこちらの戦艦に体当たりするかもしれない。かといって、離れすぎては、魔法攻撃も弱くなる。
「一旦、離れてから、餌を食べている間に近づいて攻撃だ。リヴァイアサンの回収は、コルドバ王国の戦艦に任せて、西の海域に行くぞ!」
連闘は疲れるが、そろそろローレンス王国に帰りたい。それに、西の海域に行くまでに、チョコレートバーで気力回復しておこう。
リヴァイアサンは、デカい! それが海に浮かんだクラーケンを貪っている。
「本当に美味いのか?」
見た目は海蛇の親方だが、グラントが美味しかったと言うのを信じるしかない。
「ゲイツ様?」
サリンジャーが変な顔をして私を見ている。まさか、リヴァイアサンを討伐できないとでも疑っているのか? ロマノ大学で知り合った此奴を、魔法省に引き摺り込んだのは私だ。私の副官にならなければ、今でもロマノ大学で魔法の研究をしていたのかもしれない。とんだ才能の無駄使いだな。
「天空の稲妻よ! 醜く獲物を貪るリヴァイアサンに雷の鉄槌を!」
この魔法は魔力を大量に使うから嫌いなのだが、リヴァイアサンには有効だろう。
バリバリと空気中に稲妻が走り、クラーケンを貪っているリヴァイアサンに何本もの雷が落ちる。
「やったぁ! リヴァイアサンを討伐したぞ」
艦隊が歓声で揺らぐが、ぷかぁと浮いたリヴァイアサンの死体を見て愕然とした。
「しまった! 味が落ちてしまったのでは?」
前にグレンジャー海岸で、マッドクラブを火の魔法で攻撃した時、半生になったのだ。
稲妻で焼けこげたリヴァイアサンを見て、大失敗だと落ち込む。
「コルドバ王国の艦隊にリヴァイアサンの回収を小旗信号で伝えろ! 私は残りのリヴァイアサンを討伐しに西海域に向かう!」
サリンジャーの差し出すチョコレートバーを二本食べながら、あの二匹の素材と魔石は貰うが、肉はコルドバ王国に渡そうと考えていた。
「今度は、生焼けにはしないぞ!」
艦長は、勘違いして「おお、ゲイツ様はやる気ですね!」とか言っているが、違うぞ! 状態の良い肉を手に入れるなら、どの攻撃が良いか考えているのだ。
「暴れさせては、肉の味が落ちそうだ。それに風のウィンドカッターでは、あちこちに傷ができてしまう。そうだ! ペイシェンス様の技を真似しよう!」
ぶつぶつ言いながら、甲板の上を歩き回って、美味しい討伐方法を考える。
こんな時、サリンジャーがいると便利だ。艦長すらも近づかないようにガードしてくれている上に、帆に風を送って航行速度を上げてくれている。
本当に上級王宮魔法使いの誰よりも魔力の使い方が上手い。ペイシェンス様が居なければ、私の後継者に指名したいが、六歳年上だ。それに、あと一歩王宮魔法師になるには何か足りない。気配りばかりしているからか?
そんな事を考えているうちに西海域に着いた。コルドバ王国の艦隊がビッグホエールを貪っているリヴァイアサンの周りを囲っている。
「ふむ、ペイシェンス様の技を使うには、首を上げて貰わないと駄目だが……食べ終わったら、逃げるだろうな」
その時に体当たりでもされたら、迷惑だ。
「少しリヴァイアサンを怒らせよう。食べるのを止めて、こちらに向かって来てくれたら好都合なのだが」
上手く行くかな? 艦長が「先の二匹のように討伐しないのですか?」と騒いでいる。
「サリンジャー! 少し攻撃されるかもしれないので、防御は任せる」
ビッグホエールの肉はリヴァイアサンにも美味しいのだろう。うん? と言うことは、クラーケンの肉も美味しいのか? 見た目が悪くて誰も食べないが?
どうもペイシェンス様と出会ってから、私は食い意地が張って来たようだ。
「リヴァイアサンに氷の攻撃を!」
本来なら水属性のリヴァイアサンに氷攻撃は効かないが、ご馳走を食べている気を逸らして、怒らせるだけで良いのだ。
ゴツン! むしゃむしゃ食べていたリヴァイアサンの頭に氷の塊がぶつかった。
「グォォォ!」
まぁ、食事中に邪魔されたら怒るよな。私も怒るから気持ちは分かるが、美味しいお肉になれ!
鎌首を海面から持ち上げて、こちらに向かって水攻撃をして来る。
「サリンジャー!」
防御は任せる! 私は、剣を抜いて魔法を込めて「首チョッパー! 首チョッパー!」と二匹のリヴァイアサンの首を刎ねた。
「やりましたね!」
サリンジャーに背中をバンと叩かれて祝福されたが、それより早く引き上げたい。
「この二匹はこちらで貰うと、コルドバ王国の艦隊に小旗信号で伝えろ」
風の魔法でリヴァイアサンを持ち上げたが、困った。甲板からはみ出している。
「ええい! このままでは帰国できないではないか!」
美味しいままペイシェンス様に渡して、より美味しく料理して貰いたいのだ。
「ゲイツ様、やはり解体しないと無理でしょう」
サリンジャー! お前の言う事は正しい。だが、それでは味が落ちてしまうのだ。
コルドバ王国の艦隊は、リヴァイアサンの解体をした事があるので、任せる。
「肉は、こちらに! 急速冷凍!」
生よりは味は落ちるが、腐るよりはマシだ。
「サリンジャー、冷凍した肉は冷凍庫に入れておけ。少し味見をしなくてはな」
艦長の料理人に焼かせる。何故か、グラントまでやってきた。
まぁ、良い。ここで話し合って帰国だ!
「おお、これがリヴァイアサンの肉か!」
前菜もスープもすっ飛ばさせて、リヴァイアサンのステーキを一口食べる。
「美味しい! もう一枚焼いといて欲しい!」
塩と少しの胡椒だけだが、肉が蕩ける。
グラントがコルドバ王国の王宮でお祝いの宴を施すとか言っているが無視だな。
早く帰国したい!




