ご機嫌なゲイツ様は怖い!
お昼までにノースコートに着いた。
「ゲイツ様のご機嫌が悪くないと良いのですが……」
パーシバルもやはり心配なのかな?
「エバにゲイツ様の好物を作って貰っているのですが……」
何とはなく小声で話しちゃう。ただ、話し合いがいつまで続くか分からないから、軽食っぽいメニューになっちゃうんだよね。
「昼から、どうしますか?」
話し合いは続いている様なので、パーシバルと昼からの予定を考える。
「ゲイツ様は、昼からもお話し合いかしら?」
逃げそうな予感がするけどね。
「さぁ、まだ冷凍車に余裕があるなら、マッドクラブ狩りをしても良いですね。母からも頼まれているのです」
それは、良いお土産になりそう!
「それと、雲丹の瓶詰めも!」
かなり父親も気に入っているみたいだからね。
「乾物も買いたいですね!」
パーシバルも私と婚約して、食いしん坊になったのかもね。
ノースコート伯爵は、話し合いに参加していない。ブロッサム公爵に遠慮したのかな?
「私がコルドバ王国の元提督と密談だなんて、洒落にならないよ」
私の視線に気づいたのか、伯父様が笑う。
「では、この話し合いは、ご迷惑なのでは?」
私にゲイツ様が付き添うのを見越して、ブロッサム公爵とグラント元提督が決めたのなら、やはり気になる。
「いや、ブロッサム公爵は先代の王宮魔法師、マグナム様と親友だったから、ゲイツ様に悪い様にはされないだろう」
年頃としては同じぐらいなのかな? マグナム様が金の内装が好きだったとしか知らないけどね。
少しお昼を回った頃、長い話し合いが終わったみたい。機嫌が悪いんじゃ無いかなと、少しビクビクしていたけど、上機嫌だった。
余計に怖くなって、隣に座っているパーシバルの手を握っちゃった。
「ノースコート伯爵夫人、お昼を遅らせてしまったのではないでしょうか?」
ブロッサム公爵は、礼儀正しくしているし、グラント元提督も笑顔をキープしている。
「いえ、では昼食にしましょう。時間が分からなかったから、軽食になりましたけど……」
何だか、薄い氷の上を歩いている様な気分になったよ。
「やはり、ペイシェンス様の料理人は凄いです。私の好きな味ばかりですね」
それは、機嫌が悪いだろうと思って、ゲイツ様の好物を作らせたからだよ。このテンションの高さ、何故なの?
蟹の内子のスープとゲイツ様が大好きなサンドイッチ、それとエビフライ。
軽いランチだけど、どれも美味しい! 特にサンドイッチは男性陣に好評で、お代わりしている。
デザートはアイスクリームクレープのチョコレートソース掛けだ。
エバのこれでもかっ! って言うほどのゲイツ様の好物を重ねたデザートだ。
「これは美味しいですね! お代わりをお願いします」
やけ食いじゃなければ良いけど……。何とか昼食が終わったので、私はパーシバルとマッドクラブ狩りに行きたい。
ただ、この上機嫌なゲイツ様をどうしたら良いのだろう。
「ペイシェンス様、昼からはどうされるのですか? パーシバルと遺跡見物とか?」
ふぅ、正直に言うしかないね。
「冷凍庫にはまだ積めますから、マッドクラブを狩りたいと思っています」
「おお、それは良いですね。ヘンドリック・ラドリーにも贈りますから、私に余分に下さい」
これって、前に王妃様にチョコレートを渡すから二箱欲しいと言って、自分が食べたのと同じにならないかな?
私の微妙な顔にゲイツ様が抗議する。
「ペイシェンス様! いつまでチョコレート一箱の事に拘っているのです。あれは、偶々、王妃様にお会いする機会が無くて、疲れた時につい食べてしまっただけですよ」
普通、王妃様宛の物を食べたりしないよね!
見知らぬ方に冷凍とはいえ、生物を贈るのはちょっと遠慮した方が良いから、今回はゲイツ様を信じる事にする。
馬の王でグレンジャー海岸まで行く。馬車は後から持って来て貰う。
「ゲイツ様……」どう聞けば良いのか躊躇しちゃう。もしかして国家機密なら聞いてはいけないのかもしれないしね。
「ああ、リヴァイアサンの討伐を手伝う事になりそうです。まぁ、コルドバ王国から正式に協力要請があり、それを陛下がお認めになればですけどね」
パーシバルが、馬の王の手綱をギュッと掴んだ。これって外務省も巻き込む話だよね。
「これで魔石の関税もかなり抑えられるでしょう。モラン外務大臣には頑張って貰わなくてはね!」
リチャード王子とリュミエラ王女の縁談でも、魔石の関税引き下げが条件の一つになっていると聞いたけど、これでより強気な交渉になるのかも?
「ゲイツ様、リヴァイアサン討伐だなんて、危険なのでは?」
フッとゲイツ様は笑う。
「あんな水蛇なんか、大した事はありません。でも、肉が美味しいとグラント元提督に聞いて、やる気になりました。素材も貰えるそうですし、ペイシェンス様も一緒に討伐しませんか?」
いや、それはお断りしておく。パーシバルも「駄目です!」と怒っている。
「まぁ、まだペイシェンス様を外国に出すのは難しいから、今回はサリンジャーを連れて行きますよ。リヴァイアサンの肉を持って帰るので、美味しい料理を期待しています」
リヴァイアサン、海蛇なの? あまり食べたいとは思わないけど……。
「どんな系統なのかしら? グラント元提督は美味しいと言われたのだから、食べられたのよね?」
それは、ゲイツ様が詳しく聞いていた。
「どちらかというと火食い鳥に似た食感だそうです。でも、脂が乗っていて、全く別物だと言っていました。それに、リヴァイアサンの皮は、魔法防衛が強いから、防具に良いですよ」
魔法防衛が強いなら、魔法使いのゲイツ様は不利じゃ無いの?
「心配しなくても、魔法防衛より強い魔法で攻撃したら良いだけです。リヴァイアサンは水属性なので、火の魔法や雷系に弱いから簡単ですよ」
でも、やはり心配だ。
「ゲイツ様とサリンジャー様のマントに守護魔法の刺繍をさせて下さい。これまで、魔法の訓練をして下さったお礼です」
パーシバルも「そうしたら良い」と同意してくれた。
「ペイシェンス様が私の婚約者なら良かったのですが……まぁ、効果は友達でも一緒でしょう。サリンジャーも喜ぶと思いますよ」
サリンジャーさんは、できたら行きたくないのでは?
「ただ問題は、ペイシェンス様の魔法訓練が遅れてしまう事ですね」
それは、まぁ、良いんじゃない?
「南の大陸の竜については、アルーシュ王子に訊いておきますわ。わざわざ、ローレンス王国まで留学されたのは、魔法を習う為みたいですから」
ゲイツ様が少し考えて笑う。
「それなら、アルーシュ王子に少し魔法の訓練をしてあげても良いですね」
「良いのですか?」
パーシバルが驚いている。
「バラク王国は、エステナ教ではありませんし、竜の繁殖期が近づいているなら、強化しておいた方が良いでしょう。それに、彼は留学生だから、来年はロマノ大学に入学するのでは? ペイシェンス様と一緒に魔法学科で学べば良いのです」
うっ、私は領地管理のザッカーマン教授を指導教授に選んだんだけど……まぁ、リヴァイアサン討伐が終わってから話そう!
マッドクラブを二匹討伐して、解体して貰って急速冷凍した。雲丹は、取れたてのを買って、瓶詰めにしたよ。
明日は、ロマノに帰るけど、リヴァイアサン討伐だなんて、本当に大丈夫なのかな?




