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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第六章 中等科二年春学期

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困った問題

 小雨の中でも浚渫工事は続いているみたい。ハープシャーの館には、モラン館から、執事見習いのハーパーと女中頭の娘のリラが数人の下女と下男を連れてやって来ていた。

 下男と下女は、こちらの領地の若者をモンテス氏が採用したら、モラン館に返さなきゃいけないけど、今は手伝ってくれる。


「お昼は、ここで食べましょう!」

 ライトマン教授や助手達と食べることにする。

 用意ができるまで、私は、メアリーとリネン部屋に行って、かなり古びているシーツ類を新品にしたよ。

 だって、使用人達のベッドも必要になるからね。三階にも「綺麗になれ!」と掛けておいた。

「こちらの使用人の服も縫わなくてはいけませんね」

 それと、今度こちらに来る時には、保存食のキャベツの塩漬けの樽やトマトソースの瓶詰め、そして冷凍した魔物の肉を運ぼう! パントリーはモラン館から運んできた食料しかないんだもん。


 葡萄畑の管理人のスミス夫妻も、こちらに引越したいみたいなので、管理小屋を綺麗にしておいた。

「こちらのお風呂の施設と水洗トイレを増やして欲しいです」

 ライトマン教授と助手に伝えておく。


「ペイシェンス様は、建築を専攻されても良さそうですね」

 あちこち綺麗にしているのを察したのか、ライトマン教授に誘われた。

「私は、難しい計算とかは不得意ですから……」

 横でゲイツ様が「魔法学科に決まっています」と騒いでいるけど、ザッカーマン教授に指導して貰おうと決めたのは、話していなかったかもね。

 まぁ、ライトマン教授は「ゲイツ様のお弟子を横取りしません」とか言っていたけど、弟子じゃないよね!


「私も日曜には一度ロマノに戻ります。また、週末には来ますけどね」

 そうライトマン教授は言うけど、私は、来週は来られるかわからない。ノースコート伯爵夫妻任せだからね。

 今週末は、ブロッサム公爵が来られたから、領地に戻られたのだ。本来は、まだ社交シーズンだから、ロマノに普段は滞在している時期だもの。


「こちらに来なくてもするべき事はありますよ」

 パーシバルに言われて、その通りだと思う。

「ええ、湯たんぽや撥水生地を送りたいですわ」

 特にグレンジャーは漁師も多いから、撥水生地は使い道が多そう。雨ガッパだとか、長靴や救命胴衣なども売りたいな。

「それと、蔵を建てて、味噌と醤油を作り、ソース工房も作る計画も練らないといけませんわ」

 こちらで作る道具とか、色々と指図するにも考えないとね。

 

 ノースコートに戻ったら、少し館の中が騒ついている感じがした。

「待ち人来たるですね」

 ゲイツ様は、誰が来るのか分かっているのかな?

「ペイシェンス様も知っている方ですよ」 

 ふふふん! と笑うけど、誰だかわからないよ。

「パーシバルも会っている筈ですよ」

 こんな時のゲイツ様って子供っぽくて、腹が立つ。

「私も? ペイシェンスと一緒に会っているのですか?」

 少し考え込んだパーシバルは、ハッという顔をした。

「もしかして、グラント元提督ですか?」

 パーシバルが答えたので、つまらないって顔をする。


「まぁ、海の近くの館で密会するのだし、風次第と言われたら、船を思いつくでしょう」

 言われてみればそうだけど、何故? サティスフォードなら、貿易とかあるから理解できるけど、ノースコートはねぇ。

「ふふふん! パーシバルももっと情報に敏感じゃないと、ペイシェンス様を護れませんよ」

 嫌な事を言うね! 


「お嬢様、お着替えしましょう」

 メアリーに言われて、部屋に上がる。今日は馬車だったけど、寒かったからお風呂で温まりたい。

 お茶の時間までに着替えられるかも? 

 メアリーに着替えさせて貰っていたら、何となく騒ついている。グラント元提督が着いたのかも?


「メアリー、こちらにお茶を運んで欲しいわ」

 グラント元提督とブロッサム公爵は、何か話し合いたいのだろう。

 私は、何となく関わりたくないから、部屋でお茶をしよう!

「それは、良いですけど……ノースコート伯爵夫人のお考えもありますから」

 まぁ、伯母様がお客様をもてなすのに、私も同席するべきだと考えられるのなら、それに従うよ。

 一応、来客とお茶ができるように着替えているしね。


「本当なら、パーシー様と二人でお茶を飲みながら、色々と話し合いたいわ」

 婚約したのに、甘いデートは少ないんだもん。まぁ、私の領地関係に付き合って貰っているのだから、我儘は言えないね。

 少し時間が空いたから、するべき事を整理しよう!


「領地の帳簿はモンテス氏がつけてくれるし、その中から使用人の給与や館の維持費、そして税金も納めてくれる」

 これ、楽だよね! 勿論、チェックはしなくちゃいけないけどさ。

「私の資産から買う物は、馬車と馬車用の馬。それと、ハープシャー館のお客様用の食器類! それと、新しいベッドやリネン類」

 今のは、前のハープシャー子爵が亡くなられた時に競売に掛けられた残りだからね。バラバラだし、使用人が飲み食いする感じの食器なんだ。

「インテリア関係は、専門家に任せよう!」

 好みは言うけど、館全体のバランスとか考えてコーディネートして欲しいからね。


 そして、ハープシャーの葡萄畑が再生するまでの特産品として、味噌と醤油とソースを作って販売しようと考えている。

「これは、領地の経費でするべきなのよね」

 そして、領地の管理人や葡萄畑の管理人の為の馬や馬車も必要だ。今はモラン領のを貸して貰っている状態だもの。


「どうも、ハープシャーばかりに集中しちゃうわ」

 これでは、グレンジャーの住民が不満に思うかも? ただ、海があるから、こちらには魚介類があるんだよね。

「グレンジャー館の急速冷凍室をもっとキチンとしなきゃね。それと、雲丹の瓶詰め工房を作りたい。後は、貝柱や海老や鮑や魚の干物も工場で本格的に作りたいわ」

 麦芽糖は、こちらで作っても良いかもしれない。いずれは、ライナ川の南部の三角州で米を栽培したいからだ。

「そうだわ! 米以外でも、麦芽糖ができるか、ロマノで実験しないといけないのよ!」

 これは、領地に来れない週末にしよう。


「あと、グレンジャーとハープシャーの店をもう少しテコ入れしたいわ」

 便利な道具を売りたいのだけど、どうすれば良いのかわからない。直売店なんか作ったら、今あるしょぼい万屋が潰れそうだしなぁ。これは、モンテス氏に要相談だね!

 それと、宿も要改善だ! こちらに来る客全てをハープシャー館に泊める事ができないからね。私が未婚の令嬢だから、親戚でも独身の男性は駄目なんだよ。勿論、父親や弟達は大丈夫だけどね。


「あれっ? メアリー、遅いわね?」

 あれこれ考えていて、お茶がきてないのに気づかなかったよ。

「お嬢様、お客様とお茶をと伯爵夫人が言われていますわ」

 はぁぁ、今日は、教会で気を使ったから、あまり気乗りしないけど、仕方ないな。

 指で口角を上げて、笑顔を作ってサロンに行く。


 サロンでは、グラント元提督がブロッサム公爵、レオナールとノースコート伯爵夫妻、ゲイツ様、パーシバルと和やかに話をしていた。

「これは、可愛らしい令嬢がおいでになりましたね。ペイシェンス様、この前は失礼いたしました。イオネオス・グラントと申します」

 すっと席を立つと、私の前に跪いて手にキスをする。

「まぁ、ペイシェンスとも知り合いなのね」

 リリアナ伯母様が少し驚いている。年が離れているからね。

「ええ、秋にサティスフォード子爵様の領地を見学した際に、お会いしたのです」

 偽名の件は伏せておくよ。


 お茶を飲みながら、私が女子爵(ヴァイカウンテス)になった事やパーシバルと婚約した事などが話題になる。

「やはり、ペイシェンス様は只者ではないと思っていました。パーシバル様は幸せ者ですね」

 パーシバルは、和やかに笑っているけど、どちらかと言うと私が幸せ者だと思う。ここでは口にしないけど、後で話したいな。

 

 ゲイツ様は、黙ってクッキーをぼりぼり食べながら、お茶を飲んでいたけど、無駄話に付き合う気はないみたい。

「それで、南の海でリヴァイアサンが頻繁に出没する理由はわかったのでしょうか?」

 えっ、リヴァイアサンって、グラント元提督が討伐する時に目を負傷した魔物だよね? 頻繁に? 拙いんじゃない?


「ゲイツ様は、どう考えておられるのでしょう?」

 質問に、質問で返すのって狡いよね。

「それを話しにここまで来られたのでしょう」

 ふん! って感じだよ。仲が悪いの?

 大人なブロッサム公爵が、間に入る。

「まぁ、まぁ、南の海の安全は、ローレンス王国にも重要ですから、グラント提督のお話をお伺いしましょう」


 これって、私達が同席する意味があるのかな? 重大な話なら、席を外した方が良いんじゃない? って言うか、ゲイツ様を同席させたいから、私をここに居させているの?

 パーシバルも気がついたのか、少し緊張した顔だ。


「南の大陸の竜の谷も、活動が活発になっていると報告がありました」

 えっ、アルーシュ王子は、そんな事は言って無かった。でも、ローレンス王国に留学したのは、魔法について学ぶ為だと言っていたような? つまり、今までの魔物討伐のやり方では駄目な状態になると考えたのかも?

「竜の発情期にでもなったのでしょう。こちらに影響が出ない事を願うだけですね」

 ゲイツ様は、突き放した言い方で、我関せずだ。


「ゲイツ様、そうなると思われますか? この北の大陸で竜が目撃されてから、何百年も経ちますが、撃滅された訳ではないのですよ」

 ブロッサム公爵が、真冬にノースコートにやって来て、元グラント提督と会う理由は、竜の脅威を感じていたからなの? リヴァイアサンも南の大陸まで交易に行く商船には脅威だけど、竜に飛んで来られたら被害甚大だ。


「南の大陸の竜の谷では、百年に一度ぐらいの繁殖期が記録されています。でも、これまで北の大陸に竜が出没した事はありません」

 でも、来ないとはゲイツ様も言わないんだね。来ない事を祈るよ!


「リヴァイアサンは、どの程度の頻度で目撃されているのかね?」

 ゲイツ様が一歩引いた感じなので、ブロッサム公爵がグラント元提督に質問する。

「この半年で数度、そして商船が三隻襲撃されて、沈没しました」

 やはり、ヘンリーには海軍じゃなく、騎士団にして欲しい。海の藻屑に消えるとか嫌だもん。


「それは、多いな」

 ブロッサム公爵がぎゅっと拳を握る。グラント元提督も難しい顔だ。

「このままでは、南の大陸との貿易にも影響が出ます」

 それは、そうだろうけど……何故、ここで話をするのか? まさか、ゲイツ様に討伐して欲しいの?

 でも、本人は素知らぬ顔でクッキーを食べている。この厚顔さ、羨ましいよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 学院の生徒が憧れるパーシバルと 自国民のみならず他国民からも畏怖されるゲイツ様 パーシバルに小さな女の子が憧れるのもわかるんだけど やっぱりゲイツ様は話が動く
[一言] 他人事のペイシェンスちゃんフラグ決定笑。毎回ながら他人事から始まり気づいたら褒賞レベルの立役者になってるという。ますます弟達に憧れられてしまいますね。でもなぜ姉様がとすごく心配されそうですね…
[一言] なんか、かなりなめられていますね 引き抜き行為でもないし
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