教授会で指導教授ゲット!
今日の教授会は魔法関係の教授が多い。グース教授がいないのは、シュヴァルツヴァルトにいるからかな? まぁ、いなくてホッとしているけどね。
リリアナ伯母様がホステス役だ。気候が良くなったら、遺跡見学のお客様が増えそうなので、この時期にして貰ったのだ。
金曜の夕方に打ち合わせに来てくれた時にあれこれ話し合ったよ。
「再来週末はノースコートにお邪魔します」
リリアナ伯母様に許可を貰ったしね!
「それは良いですよ。こちらも調理助手を引き受けて貰って感謝しているのです。春から本格的に観光客が来られそうだから」
それまでに色々なレシピを覚えてノースコートに戻るみたいだね。そろそろ、アンもモラン伯爵家に戻るみたいだし、グレンジャー家と新居の料理人を本腰を入れて育てないとね。
それに、メアリーがグレアムと結婚するなら、侍女見習いを早く育てないといけないのだけど、キャリーはまだメイド見習い。もう少しキャリアのある侍女見習いを雇わないといけないのかも?
新年から孤児院の女の子三人と男の子三人を雇って、下女と下男から始めているけど、ミッチャム夫人が厳しく教育してくれているから、それは安心なんだよね。
早朝、パーシバルが馬の王の運動の為に来てくれた。
「パーシー様、おはようございます!」
休みの日なのに悪いなぁと思うけど、パーシバルは気にしていない。
「馬の王に乗れるのは嬉しいのですから、気にしないで下さい」
サンダーやジニーがいつもは運動させてくれているけど、やはりパーシバルの方が馬の王は張り切っている気がする。
朝食を一緒に取って、少し打ち合わせをする。
「明日、葡萄畑の管理人との面接と、領地の管理人の面接を一緒にして欲しいのです」
父親にも付き添って欲しいけど、どうだろう? 読書に逃げてしまいそう。ワイヤットに頼んで書斎から引っ張り出して貰おう。
「それは、良いですよ」
パーシバルは、快く了解してくれたので、これだけでも心強い。
「私はモンテス氏には会ったことがないのですが、ペイシェンスは夏休みに会ったのですよね?」
まぁ、チラッと会っただけだよ。
「ええ、カザリア帝国の遺跡の扉の開閉係として、王都からいらしたのです。ゲイツ様も言われていましたが、上司と合わなくて辞職され、次の職を得る前のバイトとして来られたのです」
ふむ、とパーシバルが頷く。
「上司と合わないで退職ですか? その上司を調べておきたいですね」
確かにね! ゲイツ様の推薦だから、大丈夫だとは思うけど、領地をほぼ任せるのだから慎重にしておくべきかも。これは、パーシバルがお父様に頼んでくれる。
昼食会の為に着替えて、招待した教授達の名簿をチェックする。昨日、リリアナ伯母様とも調べたけど、建築や植物学も魔法関係なんだね。
「お父様、もしかして私の指導教授を考えて招待して下さったのですか?」
薬学か領地管理か植物を学びたいと思っている。この異世界には、前世と同じような野菜や植物もあるけど、歩く植物とか上級薬草とか、他にももっとありそうなんだよね! 凄く興味があるんだ。
「まぁ、今回は魔法関係の教授が多いだけだ。だが、ペイシェンスが指導教授にと思えるような優れた教授を選んだのは確かだな」
ふうん、学長のお眼鏡に適った教授なんだね。
前回の教授会のヴォルフガング教授やクレーマン教授みたいに、超個性的じゃなければ良いな。
「ノースコート伯爵夫妻がお越しになりました」
接待役が来て下さったので、私も応接室に降りる。
「伯父様、伯母様、今日はありがとうございます」
父親も書斎から出て、応接室で待機している。
「招待された教授の中にはザッカーマン教授がおられると聞いて、私も領地管理について御教授願いたいぐらいですよ」
ノースコート伯爵は、これまで領地は軍事関係に重点を置いていたからね。ロマノに近いサティスフォードの方が港が栄えているのは仕方ないけど、あの寂しい町にやっとテコ入れをしようと考えているみたい。
「カザリア帝国の遺跡が公開されたら、見物客が大陸中から押し寄せて来そうですからね。私ですら、地下坑道を見てみたいと思うぐらいです」
暇があれば書斎に籠って読書三昧の父親が、遺跡見学! まぁ、家族で自分だけ見ていないのだから、興味が湧いたのかも。
「夏休みには是非、いらして下さい」
まぁ、社交辞令として、そう言うよね。
「今年の夏休みは、大勢の客人が来られるのでしょう。私は、少し落ち着いてからにします」
父親としては、忙しいだろうからと配慮したのか? それとも他の貴族との付き合いを避けたのか? グレンジャー館が修復できたら、そこから遺跡見学に行っても良いんだけどね。いつになるやら。
子爵家って伯爵家の寄り子というか庇護を受けるのが多いけど、私はパーシバルと婚約しているし、いずれはモラン伯爵家に嫁ぐので、自然とモラン伯爵配下という感じなんだよね。地理的にはグレンジャーだけなら、ノースコート伯爵家に近いんだけどさ。
どちらにせよ、親戚や縁戚がお隣さんで良かったよ。面倒な争い事が減りそうだから。あっ、西隣はチェックしてなかったな。
春から夏は、領主も領地に滞在しているから、ご挨拶しておこう。
なんて事を考えているうちに、次々と教授夫妻が到着した。今回は、クレーマン教授みたいにカルメン・シータのような若い婦人を同行している人はいない。熟年カップルばかりだから、私はにこにこして話を聞いているだけだよ。
食事会は、メニューもチェックしてあるし、給仕もなんとかミスなくできた。
蟹クリームコロッケは、とても評判が良かったよ。
「ペイシェンス、これはとても美味しいわ!」
リリアナ伯母様がレシピを欲しがっている。きっと、調理助手がもう覚えていると思うよ。
やはりロマノ大学を模したゲームパイは見た目が良い。食べても美味しいしね! 教授会らしい食べ物に拍手が湧いたよ。
デザートのチョコレートケーキ、特にご婦人達に好評だった。
応接室でお茶を飲みながら、歓談する。ここまで、ほぼ私は頷いたり、和やかに微笑んだりしているだけだったよ。年上の方ばかりだからね。
ご婦人達の相手はリリアナ伯母様が引き受けて下さったので、私は少しザッカーマン教授とお話しする。
白髪混じりの金髪の落ち着いた紳士風だけど、茶色い瞳の眼光は鋭い。
ノースコート伯爵が色々と領地管理について質問しているのを、横で聞いている感じだよ。
私は、一番知りたいのは領地管理だけど、話を聞いていて、これを学びたいのかと言われると違う気もする。
植物学者のカール・リンネル教授、かなり食事中の話も気になったんだよね。小柄なお爺さん的な教授で、横の奥様もほんわかとしてて良いカップルバランス。
奥様はリリアナ伯母様達とソファーに固まって座って、わいわい話している。
私は、為になるザッカーマン教授の話から、ほのぼのと父と書物の話をしているリンネル教授の方に席替えしたい。
こんな時は……クッキーやチョコのお皿をお勧めするのが良いんだよ。
メアリーに目配せしたら、ワイヤットに新しい皿を持って来させてくれた。それを手に持って、父親とリンネル教授の椅子の近くに持って行く。
「お父様、リンネル教授、新作のチョコレートです。一ついかがですか?」
父親は、このところコーヒーに凝っている。夜更かししすぎないでね!
「ああ、チョコレートとコーヒーはよく合うのだ。リンネル教授もお勧めしますよ」
ワイヤットがすかさずコーヒーを持ってくる。私は、横の椅子に座って質問したいんだよね。
「リンネル教授、友だちがトレントの甘い樹液を集めようとしているのですが、甘味になるでしょうか?」
美味しそうに、チョコレートを一口食べては、コーヒーを飲んでいたリンネル教授がほのぼのと笑う。
「それは、前にも考えた人がいるのですが……甘い樹液のトレントだけを討伐するのが難しいみたいですね。美味しいナッツが取れるトレントは、すぐにわかるのですが……」
そうか、なら駄目なのかな?
「でも、それを考えながら討伐していけば、いずれはどの種類のトレントが甘い樹液を出すのか、研究できるかもしれません」
「今年は北部にはデーン王国からトレントが多く押し寄せて来ているそうです。だから、チャンスかもしれませんわ」
ふむ、とリンネル教授は頷いた。
「ペイシェンス嬢、どこの領地で調べるおつもりですか?」
穏やかそうだったグリーンの瞳がキラリと光った。
「今は、学園が始まりましたから、シュヴァルツヴァルトで調査していますが、バーンズ公爵領とプリースト侯爵領ではトレントの討伐をしていますわ」
ふむ、ふむと聞いていた小柄なリンネル教授がガバッと立ち上がる。
「ペイシェンス嬢、バーンズ公爵とプリースト侯爵に紹介頂けるでしょうか? 助手達にフィールドワークさせたいです」
この真冬にフィールドワーク! 穏やかそうな老教授だと思ったけど、自分の研究には熱心だね。
「ええ、それは構いませんわ」
どちらの領地も北部で、今年はトレントはうようよいそうだからね。
「勿論、討伐にも協力させます!」
だから、植物学も魔法系なのだ。「学長、南の大陸にもフィールドワークに行きたいです。是非、予算を下さい!」
ああ、父親が困っている。私は、メアリーに目で合図して、新しい皿を持って来て貰って席を立つ。
父親の困惑した視線を感じたけど、知らないよ。
後、気になった教授は、建築学のライトマン教授だ。
「ペイシェンス嬢は、領地を拝領されたと聞きました。何かお手伝いできる事があるなら、相談に乗りますよ」
ははは、見透かされているよ。領地管理のザッカーマン教授、植物学のリンネル教授と渡り歩いているからね。
「領地の館の補修や、管理人の家など問題は一杯ですわ。でも、それよりも重要なのは、治水管理なのです」
ふむとライトマン教授は頷く。
「川の浚渫工事は大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、二月に浚渫工事をしようと思っています」
よし! と頷いてくれた。
「雪解け水が出る前にした方が良いのですが、極寒の中での作業を嫌う領主が多いのです」
こちらも、自分の専門の話題になると茶色の目を煌めかせる。
「ただ、領民を人海戦術で使うと嫌われますが、大丈夫ですか?」
心配してくれたけど、それは大丈夫だと思う。
「王宮魔法師のゲイツ様が、強力な吸泥ポンプを作って下さいましたから。でも、大きな岩とかは、魔法で砕くしかありませんわ」
えっ、ギュッと手を掴まれたよ。
「私と助手を連れて行って下さいませんか? そんな画期的な浚渫工事を見学できる機会を逃したくないです」
ひぇぇ〜! ロマノ大学の教授と私は相性が悪いんじゃないかな? まぁ、すぐに手を離して、謝ってくれたけどね。
「治水管理は重要です。見学させていただくだけでなく、助手達と領地の治水についてアドバイスさせて頂きます」
これは、嬉しいね!
「ええ、ライナ川が土砂を運びますから、浚渫工事をしてもすぐに浅くなってしまいそうなのです。砂防ダムを作らなくてはいけないと考えていますの」
うむ! とライトマン教授は頷く。
「館の改修も助手にさせましょう!」
どこの教授の助手も大変そうだね。
「うちの助手は魔法量も多いのが揃っていますから、配管などの設置もお手のものですよ」
ふぅ、建築学も魔法系なんだね。ただ、設計図とかは、ちゃんと書くみたい。
一周回って、ザッカーマン教授の横に座る。
「ふふふ……、指導教授は見つかりましたか?」
ああ、この教授は一番よく見ているのかもね。
「私は、指導教授の意味がよくわかっていないのです」
若いからねと笑われた。
「何をしたいのですか? それを決めてから指導教授を選ぶと良いですよ」
「領地の管理を学びたいですが、植物や薬学にも興味があるのです。建築学は、専門家に任せたいですわ」
ザッカーマン教授は、ふむ、ふむ、と聞いてくれた。
「なら、私を指導教授に一応してから、植物学と薬学を学べば良いのでは?」
「それって良いのですか?」
「植物も薬学も大きな意味では領地管理するペイシェンス嬢の為になるのでしょう。だから、大丈夫ですよ」
ああ、この教授なら、他の授業を受けても反対しないだろう!
「ロマノ大学に入学できたら、お願いします」
指導教授をやっと見つけたよ。