ナシウスの飛び級
木曜の魔法訓練が終わったら、音楽クラブだよ。
「この前の部長会議で、クラブ紹介をする事になった。一月の最終の金曜だ」
まぁ、錬金術クラブは体験コーナーを予定していたけどね。他のクラブは困らないかな?
「新入生は、講堂でクラブ紹介を見ても良いし、決めている学生は各クラブハウスに来るそうだ。我が音楽クラブは推薦制だが……才能のある学生には門戸を開こうと思う」
これについて決を取りたいみたい。今は、上級貴族ばかりだからね。アルバート部長としては、才能を重視したいのだ。
「私は賛成だわ! コーラスクラブみたいに家柄だけを優遇するのは間違いだと思うもの」
マーガレット王女にパリス王子も賛同する。
「クラブ活動なのだから、好きなクラブに属すれば良いと思う。ただ、音楽クラブのレベルを落とすべきではないな」
それは、アルバートも同感だと言うし、他のメンバーも概ね賛成した。
「私は、講堂で簡単な演奏をしたいと思う。ただ、他のクラブの発表もあるから、十分程度だし、ハノンを運び込むのは無理だ。リュートとフルーの小品を演奏したい」
それは、良いかもね! 皆で、小品を選ぶ。明るくて楽しい曲が良いって事になったよ。
演奏は、中等科が中心だけど、私のリュートはまだまだだから外された。この日は、錬金術クラブの体験コーナーもあるから、ラッキー!
「ペイシェンスは、リュートの練習をサボっているのでは?」
サミュエルがチクリと嫌味を囁いたけど、アンジェラが側にいるから、それ以上は言われなかったよ。
今週末は教授会、来週末は体験コーナーだったから、初めから領地に行くのは諦めていた。
その代わり、葡萄畑の管理人夫妻と領地の管理人の面接予定だ。面接して、採用が決まったら、モラン伯爵館に仮住まいして貰うつもり。
金曜の朝に家に帰る。本当はナシウスと一緒に帰りたいけど、土曜の教授会の準備もあるからね。
でも、前と違ってミッチャム夫人がほとんど準備をしてくれていた。楽だよねぇ。
「お嬢様、献立はこれでよろしいでしょうか? 前もってエバと相談したのですが」
差し出された献立は問題ない。前菜はツナと冬野菜のテリーヌ、干魚と蕪のポタージュ、蟹のクリームコロッケ、いちごシャーベット、ビッグバードとビッグボアのゲームパイ。これは、一回りするまでの定番になった。美味しいし、見栄えが良いからね。デザートは、チョコレートケーキ!
応接室に移動してからは、新作のチョコと摘めるクッキーやミニケーキ。
「ええ、これで良いと思います」
個人鍋をするか、悩んだけど、もう少し使用人達の訓練が必要だとミッチャム夫人は考えたみたい。来年ぐらいなら、給仕させても良いぐらいに成長しているかもね!
着るドレスも縫ってある。家から出ないので、薄いカルディナ帝国の絹で作ったドレスだよ。
シャーロッテ伯母様のアドバイスで、私はデザインを変えたんだ。ギャザーをいっぱいつけた襟が腕まで覆っている。そして膨れすぎないギャザースカート!
少し春っぽいドレスになったけど、マリーとモリーが細かな銀ビーズを襟元や裾に散りばめてくれたから、ゴージャス感もある。
外に着ていくには寒いけど、招く側だから大丈夫だよね。
ドレスを着て、髪型はメアリーと相談する。
「薄い生地のリボンを髪の毛に編み込んでも素敵ですわ」
敢えて縫わないで、薄いシフォンのようなリボンにする。一度使ったらアイロンしないと、くちゃくちゃになりそうだし、端が解けるかも?
「端は……ちょっと考えがあるわ!」
工房で、珪素とスライム粉を混ぜたのを、リボンの切り口に細く塗っていく。
「まぁ、こうすれば解けませんわね」
メアリーの目が輝く。本当に、リボンとか好きだよね。侍女に向いている性格なんだとわかる。
教授会の準備はできたから、馬の王に会いにいくよ。一応、乗馬服に着替えている。
「馬の王、元気だった?」
艶々しているし、元気そうだけど、一応お伺いをたてる。
「ブヒヒン!」
えっ、走りたい? 運動はさせて貰っていると思うけど?
いそいそとサンダーが鞍を付けるので、少し庭を散歩させる。
「えっ、障害も跳ぶの?」
サンダーもジニーも私の腕前は知っているから、低い障害しか設置しないけどね。
馬の王任せで、何周か跳んでお終いにする。
「ブヒヒン、ヒン!」
『まぁまぁだな!』って褒められたの? 貶されたの? 微妙だね。
「お姉様、お帰りだったのですね!」
ヘンリーはカミュ先生と勉強していたから、昼食までは挨拶をしないで良いかなと思ったんだよ。
「ブヒヒン!」
まだ跳び足りない? 悪かったね! 低い障害しか跳ばなくて!
「もしかして、馬の王は跳びたいのですか?」
ヘンリーは、毎日、馬の王の世話を手伝ってくれているからか、かなり意志が通じる。
「ええ、少し乗ってやって」
ヘンリーは、やはり身体強化だから、凄く上手い!
「とても上手だわ! 前から乗馬は上手かったけど、こんなに上達したのは馬の王のお陰かも?」
横で聞いていたサンダーも嬉しそうに笑う。
「馬の王は賢いですからね。乗り手を見て、走ります」
つまり、私の時はかなり加減してくれているんだね。
「あのう、ヘンリーのマロンはどうでしょうか? 実は、馬喰に戦馬の二歳馬を預けているのです」
馬の話になるとサンダーもジニーも真剣な顔になる。
「マロンは性格の良い馬ですが、騎士になるヘンリー様には少し物足りないかもしれません。従者が乗るなら勿体ない程の馬です。戦馬を購入されているなら、こちらで調教しながら乗る訓練をされた方が良いですよ」
王家の馬丁頭が調教してくれるなら、安心だよね。
「シャドーと交換した方が良いのかしら?」
それは、サンダーは賛成しなかった。
「ナシウス様は文官になられるとお伺いしました。それなら、大人しいシャドーが相応しいと思います。それに、とても大切にされていますから」
あと、馬車をもう一台と、それを引く馬が二頭必要なんだよね。ワイヤットに頼んでいるけど、馬車は紋章とかも付けなきゃいけないみたい。
当分は、パーシバルがモラン伯爵家の馬車を提供してくれるけど、いつまでもは悪い。
私とパーシバルは、護衛と共に馬の王で行くけど、メアリーとエバは馬車で来て貰うつもり。リリアナ伯母様に、エバを連れてきてと頼まれたんだ。
領地の視察は、カミュ先生の付き添いで、馬の王が中心になるかもね。メアリーが許してくれればだけど、カミュ先生が一緒なら良いんじゃないかな?
夕方、父親を迎えに行く前に、ナシウスが戻ってきた。
「お兄様、お帰りなさい!」
ヘンリーが飛びついている。可愛いな! 私が学園に通い出してから、二年間、ほぼずっと一緒だったからね。
「ナシウス、お疲れ様!」
入学したてだし、テストが多い時期だからね。
「いえ、楽しく過ごしています」
ああ、可愛い過ぎるよ! 嫌がろうと、ぎゅっとハグしちゃった。
うっ、また背が伸びているんじゃない? 私も少しずつ背は伸びているんだけど、差が広がっていくよ。
「お姉様、来週からは2年生に飛び級です」
やはりね! でも、嬉しい。
「凄いわ! ナシウス、頑張ったのね!」
ナシウスは、嬉しそうに、そして、少し恥ずかしそうに笑う。
「お兄様、凄いです! 私は、多分無理ですよ」
ヘンリーがしょんぼりしている。
「ヘンリー、これはお姉様が教科書やノートを下さったからだよ。ヘンリーも初等科1年生ぐらいの勉強はもうできているさ」
確かにね! ただ、実技の美術とダンスは難しいかも? 音楽は大丈夫そうだけどね。家庭教師がいなかったから、仕方ない面もあるし、入学まであと二年もあるから、大丈夫だよ。
「ナシウスもヘンリーも私の自慢の弟だわ!」
これ、本音だよ! 私は、前世で一応は大学卒業しているし、ペイシェンスの能力も半端ないからね。ナシウスとヘンリーも天才だよ。
「「お姉様の方が凄いですよ」」
可愛い弟達と少しいちゃいちゃして過ごす。ああ、癒されるね!